2014.5月号

読書会日時:2014年5月12日(月曜日)午後2時〜5時
読書会場所:ふくふくプラザ(福岡市市民福祉プラザ)604室

<特集>自然エネルギー・アイランド九州の未来─九州からの発信

阿部博光:地域社会における自然エネルギー開発の重要性
小坂正則:電力自由化とアジアスーパーグリッド
大坪昌久:宮崎県新エネルギービジョンの特徴と今後の課題

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阿部博光著「地域社会における自然エネルギー開発の重要性」
 自然エネルギーによる発電設備の開発と地域社会の共生を論じている.自然エネルギー開発は,地域へ利益を還元することを原則としなければならないとする.例えば,メガソーラー建設は,資材調達や作業員雇用などで一時的に地元に利益をもたらすが,いったん完成してしまえば,地域との接点はなくなる.地域との接点のある取り組みとして,秋田県の「風の王国プロジェクト」計画が紹介されている.この計画では,①国内産の風車を使用し,その生産工場を県内に誘致する,②大型風車の風景を観光の呼びものにする,③県民参加型の資金調達をするという.また,大分県九重町の地熱発電や別府市のバイナリー発電など地域社会との共生を意図した取り組みが詳細されている.地域社会が主体となる小規模な自然エネルギーは,観光や環境教育に役立ち,新規産業や雇用などにもプラス効果をもたらす望ましいものであるとする.  (報告:E.M.)

大坪昌久著「宮崎県の新エネルギービジョンの特徴と今後の課題」
 本論文では,2013年からスタートした宮崎県の新エネルギー(自然エネルギーをこのように表現している)ビジョンについて,その特徴と今後の課題を詳述している.宮崎県では,その気候や環境,地域の産業等を考慮して,新エネルギーの中で,太陽光発電・太陽熱発電,バイオマス発電・バイオマス熱利用,小水力発電を中心に普及を図ることになっているという.本論文は,宮崎県当局の立場から書いている論調になっている.おそらく,宮崎県の行政に対する日本科学者会議の影響が非常に強く,そのために新エネルギーの導入・利用が進んでいることの反映であるのだろう.  (報告:Y.M.)

小坂正則著「電気自由化とアジアスーパーグリッド」
 筆者は,チェルノブイリ原発事故から反原発運動を始め,「こうすれば原発に頼らなくても電気などのエネルギーを作ることができる」という代替案を示したくて,2001年に再生可能エネルギーNPOを立ち上げたという.本論文では,孫正義氏の「アジアスーパーグリッド構想」を紹介して,それが「電力自由化」と「発送電分離」ができていない日本の現状を打開するために有効な手段であると高く評価している.その構想は,①高圧直流送電線を日本列島に縦断させ,②福岡から韓国へ海底ケーブルでつなぎ,③韓国から中国を経由してモンゴルまで延ばし,モンゴルの砂漠で太陽光発電と風力発電を設置し,電気を日本に送るというものである.天然ガスによる発電には,ガスを液化して日本まで船で運び必要があるが,現地で発電して送電線で送れば輸送コストは格段に安くなるという(ロシアの天然ガス発電の売電価格は約3円/kWh.日本の最新式のガスコンバイン発電を建設すれば,もっと安く発電できる).風力発電やバイオマス発電などを積極的に進めるべきで,地域の人々がこのような発電事業を協同組合方式で実施できるような法的整備が必要だとしている.この論文に関連して,環境省の「低炭素社会づくりのためのエネルギーの低炭素化に向けた提言」(2013年3月)は大変参考になる文献であると思われる.  (報告:T.Y.)
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