2012.11月号

読書会日時:11月12日(月)午後2時〜5時

<特集>新局面を迎える「大学改革」政策 

齋藤安史論文「科学・技術政策と高等教育ー競争力強化のための人材(財)育成」
中嶋哲彦論文「国立大学法人における大学自治の復興」
佐藤誠二論文「国立大学法人化の財政問題ー財政縮減と競争原理」
長山泰秀論文「法人化後の国立大学への公財政支出の変化および財政誘導による機能別分化促進と大学間格差の固定化」
森利明論文「大阪府立大学をめぐる大学改革の現状」
jjs2012.11

<読書会の記録> 

齋藤安史論文「科学・技術政策と高等教育ー競争力強化のための人材(財)育成」
 国立大学の法人化問題は,行政改革と公務員減らしから出発しているが,同時に,国立大学を「科学技術創造立国」政策に動員するという意図もある.中教審答申「我が国の高等教育の将来像」(2005年1月)では,教育と研究を大学の長期的観点からの使命とする一方で,産官学連携などを大学の短期的・直接的使命(第3の使命)であるとしている.2004年の法人化によりどうなったかをみてみると,法人化前後(2002年と2008年の比較)で,大学教員一人あたりの年間平均研究時間は47.5%から36.1%と減少している.さらに会議等によって研究時間が細切れになり,集中して研究が出来にくい状況が出てきている.研究環境が悪化する中で科学論文数の減少も顕在している.競争により論文数増加を図るという法人化の目的にそむく皮肉な結果である.その他にも,高学歴ワーキングプアの激増,博士課程修了者の深刻な就職難,任期付きや非常勤などの不安定雇用の激増など学術の現場の崩壊現象が法人化以降加速されている.そのような中で大学政策の転換が,文科省主導ではなく,財務省主導の国家戦略会議で進められ,従来とは異なる政策決定過程の中で実行されようとしている.文科省はその国家戦力会議の実行施策プラン作りに狂奔し,主要大学は挙げてその先頭に立とうとしている.大学関係者は,その状況について早急に討議を深め,共同のたたかいをはじめる必要があるのではないか.
(報告:M.K.)

中嶋哲彦論文「国立大学法人における大学自治の復興」
 大学や高等教育機関がその社会的使命を遂行するうえで,学問の自由と大学自治の保障は不可欠である.2004年の法人化以降の国立大学(=行政機関)(注1)では,「自律的運営」ということで政府に指示あるいは承認された目標達成のため「自発的」経営努力が制度的に強要され,自らの手で教育研究をねじ曲げていく論理が働いている.このような論理から離脱するためには,「国立大学の自治」への国民的合意とその制度的保障の途を探ることが必要である.
(注1)法人化の前の2000年5月に国立学校設置法1条は「①この法律により,国立学校を設置する,②国立学校は,文部大臣の所轄に属する」から「文部科学省に,国立大学を設置する」と変更され,文科省の内部組織としての「国立大学=行政機関」の論拠にされた.法人化のためには,この設置法の変更はなくてはならないものであった.
(報告:Y.S.)

佐藤誠二論文「国立大学法人化の財政問題ー財政縮減と競争原理」
 独法化後の第1期中期目標期間2004-2009における財政データをみながら国立大学法人制度の問題を考える.国立大学予算の要求・配分が一般会計の中で行われるようになったことにより,財務省の直接的関与が増加している.財務省の基本姿勢は,財政縮減,競争原理,自己努力の3つである.この6年間で運営費交付金が6.7%(830億円)削減され,効率化による費用削減や外部資金拡大などの自己努力が求められている.しかし,日本の高等教育への公財政支出は,OECD加盟国中最低で対GDP比0.5%(OECD平均1.0%)であることを考えれば,財政資金の確保は最重要課題である.国立大学法人全体でみれば,運営費交付金は減少しているが,付属病院収益や外部資金の増加により経営利益は12%程増加している.しかし,大学間格差は大きく,小規模大学や単科大学などでは運営費交付金の減少をカバーできない状況もある.法人化による大学改革は,「高等教育の質保障・転換」というより行財政改革,産官学連携強化の視点が過度に先行している.
(報告:E.M.)

長山泰秀論文「法人化後の国立大学への公財政支出の変化および財政誘導による機能別分化促進と大学間格差の固定化」
 法人化後の国立大学への公財政支出の変化にともない,大学間格差の拡大と財政誘導による機能別分化が進行している.それらがもたらしている問題点を論じている.国立大学法人法の国会付帯決議の必要な予算確保の約束は反故にされている.文科相自身も我が国の高等教育機関に対する公財政支出の対GDP比が0.5%とOECD加盟国中最下位で,家計負担が突出して高いことを問題にしているが,「受益者負担によるべき」ということでこの状況は改善されていない.法人化はそれまでにあった大学間格差を固定化した.そして,大学の「機能別分化」(中教審答申2005年1月)はこのように完成された格差の正当化である.外部資金等の割合の多い大学は研究に機能を特化させ,反対に少ない大学は研究以外の機能に特化させるようなことが進行している.財務当局ベースで作られた「大学改革の方向」は,「大学改革実行プラン」(文科省2012.6),さらには閣議決定「日本再生戦略」の中に位置づけられ(大学のミッションの再定義と文言もみられる),これまでとは質的に異なる段階に入っている.このような方向とは異なる,大学人が自ら行う真の大学改革が必要ではないか.
(報告:T.M.)

森利明論文「大阪府立大学をめぐる大学改革の現状」
 大阪府立大学は,それまでの府立3大学を統合再編して2005年4月に公立大学法人大阪府立大学となった.その後,知事になった橋下徹知事から存廃を含めた抜本的な見直しを迫られ,2012年4月に理学部や経済学部を解体することで7学部制から現代システム科学域,工学域,生命環境科学域,地域保健域の4学域体制への移行が強行された.また最近では,府と市の統合をめざす動きの中で大阪市立大学との経営統合が進められようとしており,学部の整理・統合や予算の削減が強引に推し進められる危険性が高い.
(報告:O.K.)
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