2016.5月号

『日本の科学者』読書会
読書会日時:2016年5月09日(月曜日)午後2時〜5時
読書会場所:ふくふくプラザ(福岡市市民福祉プラザ)604室

『日本の科学者』2016年5月号
<特集>エネルギー自立社会構築に向けて大学はいかに地域のモデルになり得るか
平田 仁子著:気候変動の抑制に向けた長期目標と省エネの意義
吉田友紀子著:大学での省エネ技術─建築分野におけるZEB化と取り組み事例の紹介
近本 智行著:大学での省エネ・環境負荷削減活動─照明・空調エネルギー削減,環境教育につながる取り組みに関して
大岡忠紀・橋本訓著:大学の実験系の省エネルギー
田浦健朗・山本元著:大学における省エネ・温暖化対策の現状と課題─京都における調査の事例から
服部 拓也著:サステイナブルキャンパスの形と学生の貢献─ステークホルダーの役割とモデル構築
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<報告>

以下は5月9日(月)の読書会において報告されたレジュメをもとに『日本の科学者』読書会の様子を編集したものです.

平田仁子著:気候変動の抑制に向けた長期目標と省エネの意義
 パリ協定では,温度上昇を2℃以下とする気温抑制目標と人為起源の温室効果ガス排出を今世紀中に実質ゼロにする目標を定めた.この達成に省エネが果たす役割は極めて大きい.省エネは,「隠れた燃料」との消極的な概念から「第一の燃料」として積極的に認識されるようになってきた.省エネは,燃料費の削減のみでなく年間0.25〜1%程度のGDP成長率向上や雇用創出効果などマクロ経済への正の効果を持つという.政府や自治体は,さまざまな事業者にこのような省エネのポテンシャルと便益を気付かせ,インセンティブを付与する機会を創るべきだと著者は強調する.(報告:E.M.)

吉田友紀子著:大学での省エネ技術 建築分野におけるZEB化と取り組み事例の紹介
 いま大学施設は,新築公共建築物のZEB化が求められている.ZEBとはZero Energy Buildingのことで,省エネや再生可能エネルギーなどの導入により,運用時にエネルギー需要と供給の年間積算収支が概ねゼロになる建築物のことである.2011年に改修された大阪大学会館は,ほぼZEBと評価された.断熱強化や昼光センサー利用による照明出力調整(昼光利用),自然通風利用などによりZEB化が実現されたという.(報告:F.Y.)

近本智行著:大学での省エネ・環境負荷削減活動 照明・空調エネルギー削減,環境教育につながる取り組みに関して
 本論文では,立命館大学における文系キャンパスと理系キャンパスの年間エネルギー消費特性を調査するとともに,環境に配慮した施設改修を行なった施設そのものを教材として環境教育に活かした経験が述べられている.外壁断熱やパーソナル空調,天井放射冷暖房,太陽熱利用,地中熱利用などが検討されている.本特集の他の論文にも言えることであるが,議論が建築物そのものの省エネに限定されており,緑化を含めたキャンパス全体の環境整備に関連した言及がないのは少し物足りない.(報告:K.K.)

大岡忠紀・橋本訓著:大学の実験系の省エネルギー
 一般に,大学の実験系の建物の消費電力は,定常部分(ベース部分)が3/4以上を占め,人間活動により変動する部分は1/4未満である.従って,大学の実験系の建物の省エネを効果的に行なうには,このベース部分に寄与する常時稼働設備機器に対する対策が必要となる.ここでは,冷却器へのインバータ制御導入やドラフトチャンバーのフィードバック制御など,大幅な省エネを実現した具体的な改修の実施例が述べられている.省エネという観点からみて,インバータ制御やフィードバック制御は,多くの人にとっても参考になるものと思われる.(報告:T.Y.)

田浦健朗・山本元著:大学における省エネ・温暖化対策の現状と課題 京都における調査の事例から
 京都議定書の地である京都では府や市の地球温暖化対策条例に基づいて,一定規模以上の温室効果ガス排出事業者(大学を含む)に対して,その削減計画と排出量の報告義務制度がある.本論文では,この制度により12大学から提出されたデータをもとに,大学における省エネの可能性や温暖化対策の現状と課題を論じている.削減の取り組みは進行しているが,先進国の削減レベルにはまだ達しておらず,いっそうの取り組みが必要という.福岡における大学の温暖化対策の現状はどうなっているだろうか.(報告:Y.M.)

服部拓也著:サステイナブルキャンパスの形と学生の貢献
 大学からの環境負荷はその地域で一番多いこともあり,大学には省エネなど波及性の高い環境配慮モデル構築が望まれる.しかし,そのようなモデル例は多くはない.国内外の事例に基づいて,環境に配慮した大学(サステイナブルキャンパス)構築に向けて学生の果たすことのできる役割を紹介している.サステイナブルキャンパスとは,気候変動等の問題に対する行動宣言を出し,それにそって行動する大学である.著者の属するNPO団体は,2009〜2014年にエコ大学ランキンをアンケート調査を基に発表してきた.この調査をきっかけに取り組みが始まった複数の大学があるという.(報告:Y.M.)
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