2017.6月号

『日本の科学者』読書会
読書会日時:2017年6月12日(月曜日)午後2時〜5時
読書会場所:ふくふくプラザ(福岡市市民福祉プラザ)604室

『日本の科学者』2017年6月号
<特集>女性研究者の出産・子育て—研究との両立と葛藤

<報告>

小畑千晴:子育てをめぐる女性研究者の現状と課題—臨床心理士の立場から
 女性研究者の割合は,英国38.3%,米国34.3%に対して,日本は14.7%半分以下である.その理由は「家事と仕事の両立の困難」であるという.2006年度より文科省による女性研究者研究活動支援が実施され,女性教員の「採用推進」や女性が子育てしながら研究が継続できるための「環境整備」などがなされてきた.その整備の中に女性研究者のための「相談室」開設も含まれる.筆者はその相談室で6年間に619件の相談を受けたという.女性研究者が一人で家事・育児のすべてこなし,精神的にも身体的にも負担を感じるという相談が多数あったという.これらの問題の多くは,自分とパートナーの生き方,あり様を夫婦が一緒に話し合うことで本質的な解決の道につながったという.「家事と仕事の両立」は「女性の両立」でなく「夫婦の両立」であるという. (報告:S.K.)

小尾晴美:若手女性研究者のワーク・ライフ・バランス上の困難について—保育労働を研究する立場から
 多くの大学院生や若手研究者は,脆弱な高等教育予算を要因として経済的困難や就職難や不安定雇用といった問題に加えて,研究とライフイベント(結婚・出産・育児・介護等)の両立支援の不備(保育所不足など)による困難にも直面している.筆者は,2006年〜2014年の9年間大学院に在籍し,支払った学費は約500万円,要返済の奨学金は約730万円.2009年に結婚したが,実家とパートナーの援助で研究と生活を続けているという.大学院在学で就職が遅く,就職後に結婚・出産しようとすると30歳代というキャリア形成の上で重要な時期に子育て期が重なる.出産をためらうケースも多い.筆者は専任の研究職に就くことができたが,就職先は遠く遠距離別居結婚で,妊娠・出産をしばらく先延ばしするという決断をした.キャリアを形成する重要な時期の若手研究者の状況を理解し,安定した環境で研究を継続できる研究条件の向上と処遇の改善,出産・子育て支援策の拡充を政府や大学に強くお願いしたいと筆者は訴える. (報告:T.Y.)

岸田未来:「出産・子育てと研究遂行の葛藤」を乗り越えるために―子育て中の立場から
 著者は,柏木恵子著「子どもが育つ条件」に出会って子育てと研究の両立に感じていた不安が解消したという.同書では,①子育てに関する負担を夫婦間で双方が納得するよう分担することが大切であり,②子育てに関する負担は社会全体として共有すべき課題である,とする.筆者は,子育てと研究遂行の両立を長期的に夫婦間の問題と考えるようになり,生後6ヶ月まで夫と同居し二人で育児をした.また,出産・子育てで研究遂行が落ち込むことなく,むしろ出産後は研究時間が制限されるので,時間を効率的に使うことを意識するようになり,仕事や家事に優先順位をつけ頭を切り替えてさばいていく能力を身につけたという.「子どもに一番手のかかる時期に無理やり成果をあげようせずとも,中長期的に研究成果を考えればよいのではないか」と述べ,「出産・子育てを通じて,子どもの成長への直接的なかかわりや,子どもと地域を介した新たな社会関係などから視野が広がり,得られるものも多い」と著者は豪快である. (報告:Y.M.)

半沢蛍子:談話室「研究と子育ての四つのポイント―子どもを育てながら歩む博士課程」
 著者は博士課程1年目で結婚して,すぐ妊娠.妊娠中に継続的な実験を行い,データ取集終了一週間後に長女を出産.2年後に次女を出産.現在,娘たちは3歳と1歳.研究と家庭は破綻せずに回っている.両立している理由は,①子どもたちが健康であること,②「自分がやりたいことをする」を夫婦ともに行うことを認める「少し変わった」夫の存在,③所属学部の助手の主業務が研究であること,④指導教員や先生方に子育てに理解があること,などのよるが特に③が要である.助手の任期が切れた時,他の常勤職につかなければ,両立状態は破綻する.農村の機織の女性は,時々の優先順位に合わせて,機織りを止めることなく続けるという.研究者という職業でも,「研究か家庭か」という二者択一でなく,ライフステージに合わせて継続していける職業になってほしいと切実である. (報告: E.M.)
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