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講演会「核兵器禁止条約の意義と課題」

日本科学者会議福岡支部講演会


日 時: 5月14日(金)15:30〜17:00
会 場: 久留米大学福岡サテライト・天神エルガーラオフィス6階
講 師: 岡本良治氏(九州工業大学名誉教授)
講 演:
核兵器禁止条約の意義と課題―核抑止論批判の深化と『安全保障』概念の再考
    報告資料
主 催:日本科学者会議福岡支部
入 場:無料

<報告>

支部定期大会の後、恒例のJSA福岡支部の公開講演会がもたれました。残念ながら当日の参加者は決して多くはありませんでしたが、講師である岡本先生が、大部な資料に基づいて、演題にある問題について歴史的・論理的に詳細な報告をされました。まず、この問題に限るものではないが、「概念や課題を定義することの意義」がいかに大切であるかという話から始まり、核兵器禁止条約が核兵器の違法性を明確に規定し、軍事力による国家安全保障概念の中心戦略としての核抑止論を人道的な観点から否定したものであることを条約の成立の背景も踏まえて紹介され、また、条約の抱える課題についても朝鮮半島を巡る情勢にも言及されながら解説をされました。
その後、核抑止論は論理的に自己矛盾を抱えるもので、核の傘の有効性は実証的裏付けもないことをその歴史的背景も含めて詳細に解説され、その論理の曖昧さは国際関係の不安定要因でもあることを強調されました。具体的な事例として、ミサイル防衛構想は非有効的なものであるだけでなく、核抑止論と矛盾する構想であることなどを解説されました。さらに、最近の米国の新核戦略―核体制見直し(NPR2018) の中身、それに「高い評価」を与える被爆国日本の政府の姿勢、NPT(核不拡散条約)の抱える問題点についても言及されました。
引き続き、「安全保障」の概念について、その歴史的系譜も踏まえて問題提起がなされました。安全保障概念の構図として「国家安全保障」、「国際安全保障」「人間の安全保障」の3つがあげられ、特に「国家安全保障」については、外圧・仮想敵国の脅威を利用しての国内統治と「愛国主義」との関わりと軍事力による国家安全保障自体の抱える軍拡競争を不可避のものとしてしまうジレンマが指摘され、非軍事的な安全保障としての平和主義の憲法の重要性が強調されました。岡本先生は、最後に、「人間の安全保障」の観点について、カント、ベンサムに遡っての歴史的経緯、また、国連の「持続可能な開発のための2030アジェンダ」との思想的重なりの指摘も含めて概説し、その重要性を提起して講演を結ばれました。
(報告:小早川義尚)



日本科学者会議第34回九州沖縄シンポジウム

日本科学者会議第34回九州沖縄シンポジウム「平和で持続可能な社会を目指して」


 日時:12月2日(土)
 場所:鹿児島大学農学部

第一部「核と平和の諸問題」
 (1)川原紀美雄氏(長崎)
   核兵器禁止条約「時代」と「北朝鮮脅威論」―被爆県・自治体、被爆国日本はどう向き合うか
 (2)岡本良治氏(福岡)
   核抑止論・核の傘論と北朝鮮脅威論の虚実
発表資料
 (3)中西正之氏(福岡)
   4電力会社の原発の再稼働の為の新しい安全神話について
発表資料
 (4)亀山統一氏(沖縄)
   沖縄における新基地反対・自然環境保全の運動の到達点
 (5)小栗実氏(鹿児島)
   鹿児島大学における<防衛省委託研究制度>の動きと支部の取り組み

第2部「地域の環境と学術研究」
 (1)佐藤正典氏(鹿児島)
   有明海・諫早湾で何が起こっているのか
 (2)記録映画『苦渋の海:有明海1988-2016』(監督巌永勝止志)の上映

<報告>

「第34回九州沖縄シンポジウム(12/2-3)に参加して」

報告:西垣 敏

「日本科学者会議第34回九州沖縄シンポジウム」(2017年12/2-3鹿児島大学農学部)に参加した。初日は、大会テーマ「平和で持続可能な社会を目指して」のもと、第1部「核と平和の諸問題」に5件の報告、また第2部「地域の環境と学術研究」では1件の報告と記録映画上映が組まれた。会場は、参加者総数58名でかなり埋まり、中でも市民の方々の参集が目立った。2日目は、前半に九州沖縄各JSA支部活動の交流と困難な諸状況についての情報交換が行われた。後半は来年12月に沖縄で開催予定の「22総学」のための準備会合であった。

第1部の報告1は川原紀美雄氏(長崎)による「核兵器禁止条約「時代」と「北朝鮮脅威論」―被爆県・自治体、被爆国日本はどう向き合うか―」であった。川原氏はまず、北朝鮮の核兵器・ミサイル開発を巡る米国と北朝鮮の応酬のエスカレーション、その中で「北朝鮮脅威論」を振りかざし圧力一辺倒で無為無策の安部内閣、として激化する情勢に危機感を表明し、「北東アジアにどう平和な環境を創出するかの議論がまだ見えてこない」と指摘した。氏は、これまでの活動、体験したこと(不戦のASEANなど)を念頭に、「緊急提言」を出した。「「北朝鮮脅威論」のカギ括弧を「」のままにしておくために、または「脅威」を終了させるために」と、氏は、1.米韓合同軍事演習の中止、2.休戦協定の平和条約化交渉、3.朝鮮半島の非核化、の3段階を提言した。まだ北朝鮮と「戦争状態」の関係にある日本としては、平和条約を結ぶ交渉から関係を築いていくしかない。

報告2は岡本良治氏(福岡)が「核抑止論・核の傘論と北朝鮮脅威論の虚実」と題して講演した。本年7月に成立した核兵器禁止条約は、国家安全保障概念の中心的戦略としての核抑止論を人道的見地から否定した。この核抑止論と核の傘論の有効性は、核保有国やその傘に入っている日本などで宣伝されているほど、実証的な裏付けはない。むしろ「軍事力による国家安全保障のディレンマ」の窮地へと突き進む危険性がある。報告者は、核抑止論(正確には「脅迫と抑止」)の系譜と実際の経緯をたどって、その非道徳性・非人道性、非合法性、および非実用性・非有効性を順次に論証した。「核の傘」(「拡大抑止」政策)への期待に対しても、米政府側の証言等から、これが根拠のない幻想に過ぎないことを示した。岡本氏は、焦眉の課題、北朝鮮の核ミサイル開発問題にどうアプローチするか(北朝鮮の非核化)が、核兵器禁止条約の成否についての試金石の一つである、として、偶発的軍事衝突、核戦争回避のため、緊張緩和の努力の重大性を強く主張した。

報告3は中西正之氏(福岡)による「4電力会社の原発の再稼働の為の新しい安全神話について」と題する報告で、「万が一の事故の際においても、放射性物質の放出量は、福島....事故時の約2000分の1」という電力会社側の宣伝は全く根拠のない「新しい安全神話」であり、水蒸気爆発からプルトニウムを含むデブリダストの飛散の可能性を隠ぺいするものであると、警告した。中西氏は、TROI実験やOECD-SERENA Projectの報告書を詳細に調べた。後者は、それまで各国で行われてきた水素爆発実験を統合して行うプロジェクトである。日本原子力開発機構も水蒸気爆発の実験的研究を続けている。そのJAEA-Research 2007-072報告書は、加圧水型原発にメルトダウンが発生した時、キャビティーに蓄えられた大量の冷却水に大量の溶融デブリが落下すると、キャビティーコンクリートが破裂して、格納容器が破損し、大量の放射性物質が大気中に飛散する可能性のあることを警告している。中西氏は、電力会社や地方自治体の関係者がこれら重要報告者を「知らなかった」から、住民がプルトニウム・デブリダストを吸い込んでしまう、などと云うことは許されない、と結んだ。

報告4は亀山統一氏(沖縄)が「沖縄における新基地反対・自然環境保全の運動の到達点」と題して、基地問題と自然環境・住民生活の問題の結びつきと運動の方向性について説いた。冒頭、氏は、「オール沖縄」の大集会を報じる新聞を例示しながら、沖縄県民の願いが、基地のない沖縄の実現と日米地位協定の抜本改定を志向していること、また沖縄の運動について、「地方自治」と「自己決定権」において、「地方」と「国」の対等の位置づけを要求する、という意義を強調した。続いて亀山氏は、着工後の辺野古海域や沖縄全体で危惧される重大な環境影響に言及した。政府は2016年に沖縄県北部を「やんばる国立公園」に指定した際、南北に走る分水嶺の西側一帯は指定したが、東側山域は米軍占有地域や「ヘリパット」の存在のため、飛び地指定となっている。政府は世界遺産登録を目指すが、外国軍基地の存在、人為的因子による強い負荷、米軍訓練場による強い環境負荷、外来種対策の制約、など問題点が山積している。沖縄の海域と森林と生き物を護ることと軍事基地は相容れない、と亀山氏は訴えた。

報告5では、小栗実氏(鹿児島)による講演「鹿児島大学における<防衛省委託研究制度>の動きと支部の取り組み」があった。鹿児島大学では、貸費学生制度とか、海上自衛隊現役海将の記念講演会(2014年)などを通じて、大学と防衛省との繋がりが続いてきた。2015年「防衛省委託研究制度」に1件応募したことが判明。これに対しJSA鹿児島支部は、2016年2月に池内了氏を招いて「科学と平和を考える講演会」を開くなど、軍学共同反対の世論づくりに努力した。2017年学術会議声明や、「鹿児島大学における研究活動に係わる行動規範」(一部改正)にも拘らず、防衛省研究費申請が2017年にまた1件出た。鹿児島支部としては「軍事研究に反対する声明」を出すなどの運動を続けている。小栗氏は反省点として、反対の声が教員の中によく広がらなかったこと、研究費が枯渇に近い状況にあることが申請への誘因の一つ、大学内の「審査委員会」の民主的運営も重要な鍵になろう、と指摘した。

初日の最後に第2部として、まず佐藤正典氏(鹿児島)が「有明海・諫早湾で何が起こっているのか」と題して講演を行った。国の干拓事業による有明海・諫早湾「閉め切り」から20年、福岡高裁の「排水門の5年間開放」を国に命じる判決確定から7年、国は確定判決にも従わない。失われた干潟は、多くの絶滅危惧種にとっての貴重な生息場所でもあった。佐藤氏は「閉め切り」で有明海全体の潮の流れに大きな変化が起きていること、「きれいに濁っている」とも表現される有機的循環が保たれなくなっている、と指摘した。「5年間の開門」があれば、海水を入れたところの生態系は外部のそれと同程度にまで戻ることが可能だ、という展望も示した。

続いて記録映画『苦渋の海:有明海1988-2016』(監督巌永勝止志)の上映があった。映画の冒頭に流れた、「私は決して忘れることができない」という思い詰めた声に驚かされて、一瞬血のひく感覚が体を走った。宮沢賢治『小作調停官』の冒頭句「..../このすさまじき風景を/恐らく私は忘れることができないであろう/....」が過ぎった。映画は、「かつての諫早干潟と消滅寸前の伝統漁法など苦渋にあえぐ有明海のいまを伝える。」拙い感想文で映画の訴えが薄まることを恐れ、これ以上書かない。「イワプロ」ホームページにDVD版情報があるので参考にされたい。

講演会「朝鮮半島の軍事的緊張と日本の取るべき道」

日本科学者会議福岡支部講演会「朝鮮半島の軍事的緊張と日本の取るべき道」


日 時: 6月11日(日)14:00〜17:00(開場13:30)
会 場: 久留米大学福岡サテライト・天神エルガーラオフィス6階
    (国体道路側入口より,下図参照)
講 演:
(1)大統領を弾劾・罷免した韓国民主化闘争と今後の展望
      堀田広治氏(日本コリア協会・福岡理事長)
    (2)北朝鮮の核開発はどこまで進んだか
      岡本良治氏(九州工業大学名誉教授)
    (3)北東アジア非核兵器地帯設立への包括的アプローチ
      鈴木達治郎氏(長崎大学核兵器廃絶研究センター長・教授)
主 催:日本科学者会議福岡支部
共 催:日本コリア協会・福岡
資料代:500円

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【主旨】


現在,朝鮮半島における軍事的緊張の高まりにより第二次朝鮮戦争が危惧されています.朝鮮民主主義人民共和国(以下,北朝鮮と略)による核兵器やミサイルの開発は,我が国,特に北部九州への脅威にとどまらず,東アジア全体の平和への脅威です.しかし,北朝鮮を包囲する米軍,基地を提供する日本,米軍と一体となって演習する自衛隊の行動もまた,同様に東アジア和平を脅かすものです.

北朝鮮政府関係の声明や米国大統領のツイッター等では,挑発的意見表明がなされ,日本のマスコミは過剰に「危機」を演出しています.しかし,この「危機」が「有事」に進展する可能性は決して高いとはいえません.朝鮮半島における現在の危機は,軍事的手段でなく平和的手段によって解決するべきです.一方,韓国では朴大統領を民衆の力で弾劾・罷免し,新しい大統領が選出されました.それらのことを考える講演会を上記のように開催します.

<報告>

 611日(日)午後2時から5時まで「朝鮮半島の軍事的緊張と日本の取るべき道」と題した講演会が開催された.同時刻に進歩的な集まりが多数重なっていたにもかかわらず,50名の参加者が集まり,3名の講演が行われた.

 堀田広治氏は,韓国の民主化の歴史を系統的に述べるなかで,朴槿恵大統領の弾劾につながった「ローソク集会」をターニングポイントとなったと評価し,文在寅・新大統領の就任演説と今後の課題を報告された.1980年の光州事件を弾圧して大統領になった全斗煥の軍事政権下で,民主化運動の高まりの中で1987年「民主化宣言」がなされた.ここでなされた民主化は,5年毎の大統領直接選挙制(再選なし)改憲や人権保障の強化,政党活動の保障などを含むものであったが,組織された政党は近代化されたものではなく,上下関係のある前時代的なものであったという.サムソンやヒュンデ(現代)などによる経済は急成長するが,上位10社の富が7割も占め,大学生の40%がサムソンの入社試験を受けたともいう.政財癒着と権威主義的な政治風土の中で独断・独善的な国政を行なってきた朴槿恵大統領を糾弾する「ローソク集会」では,多様な要求が出された.「よりよい社会を」ということで誰でも発言(3分間)できた.踊ったり歌う人もあらわれた.11月集会に来た高校生は「歴史を創るためここに来た」と発言したという.大統領弾劾後に行われた大統領選により選ばれた文在寅・新大統領は,権威的な大統領文化を縮小する,韓半島平和のために東奔西走する,財閥を解体する,非正規雇用問題を解決する,などの民衆の心をつかんだ就任演説を行なった.しかし,北朝鮮の核・ミサイル問題など大きな課題が存在する.これらの問題は,大規模な米韓の軍事訓練の中止などとセットで話し合いの中で解決すべきであると締めくくられた.

 岡本良治氏は,インターネットなどで公開されている情報から,「北朝鮮の核開発はどこまで進んだか」について詳細に調査・研究した内容を報告された.北朝鮮の最初の核実験(200610月)について,「設計の20分の1以下の不完全爆発で失敗だった」という評価が世界的に多かったが,それは必ずしも正確ではないという.北朝鮮は事前に中国に「設計計画爆発力は4キロトン」と伝えていたという.そうであれば,核実験は1キロトン程度であったとしても部分的成功と言えるかもしれない.爆発的核分裂連鎖反応の臨界超過を達成し,長距離ミサイルに搭載可能な小型核兵器の開発開始をした可能性がある.氏によれば,4回目(20161月)と5回目(20169月)の核実験は,それまでの実験と質的に異なる別系列の核実験であるという.北朝鮮自身は,これらを「水爆実験」と呼んでいるが,これらはブースター型の核分裂兵器の実験である可能性が高いという.ブースター型核分裂兵器とは,重水素(D)と三重水素(T)とが関与するDT核融合反応を媒介として核分裂反応を強化する仕組みを持つ核兵器である.北朝鮮は,高効率の洗練されたブースター型核分裂兵器を生産・配備ができるようになったとみるべきであろう.このまま放置すれば,質・量の両面で北朝鮮の核兵器能力はここ数年のうちに飛躍的に高まる可能性が高いという.大規模な米韓の軍事訓練は北朝鮮にとっては脅威でないはずはなく,軍事的緊張を和らげる話し合いの中で,東北アジアの非核兵器地帯構想を実現していく上で,このような北朝鮮の核兵器能力についての正確な認識が必要であろう.

 鈴木先生は,核兵器を巡る現状から,核の脅威は増え続けていると分析された.その背景には,核兵器の近代化計画と実施,核テロリズムの脅威,ヨーロッパ・南アジア・北東アジアの軍事(北朝鮮の核開発も巡る動きなど)を含む情勢の緊張,さらには米トランプ政権の誕生が投げかける米国の核政策の行方に見える暗雲などがあると現在の核を巡る情勢について詳しく説明をされた.
 一方で,国連総会において核兵器の禁止条約の成立に向けての交渉が決定されたことは,核廃絶を目指す人々にとって大きな励ましとなっている事,それを支持するパグウォッシュ会議の動きや各地域の非核化を求める運動の高まりについても具体的な例をあげて紹介された.その中で,長崎大学のRECNAの取り組み(ナガサキ・プロセスの構築)をRECNA設立の経緯も含めて紹介された.
 また,日本の置かれている核を巡る状況をトリレンマ(被爆国としての核兵器廃絶・非核政策,日米同盟・核抑止力依存の北東アジアの緊張,原発によるプルトニウムの蓄積)として分析され,それぞれの問題にどういった対処が考えられるのかを解説をされた.
 具体的に市民が何を取り組んで行けるのかといった点について,「どうして日本政府は国連総会の核兵器の禁止条約の成立に向けての交渉を決定する決議に賛成できなかったのか」という問いかけを市民にしてゆく事,そこから対話を始めるのは1つの現在できる事かもしれないとの提起があった.質疑応答では,どうして生物兵器や化学兵器の禁止条約は結べたのに核兵器はそうならないのだろうかといった質問などが出され議論が深まった.

講演会「大学の軍事研究と安倍政権ー具体化する軍学共同路線の果てに」

日本科学者会議福岡支部講演会


日 時: 5月14日(金)15:30〜17:00
会 場: 久留米大学福岡サテライト・天神エルガーラオフィス6階
    (国体道路側入口より,下図参照)
講 師: 纐纈 厚氏(山口大学名誉教授)
講 演:
大学の軍事研究と安倍政権ー具体化する軍学共同路線の果てに
    
レジュメ
主 催:日本科学者会議福岡支部
入 場:無料

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要旨


防衛省は現在、軍事研究予算として総額110億円の募集を行っています。日本学術会議は、軍事研究を否定した1950年、1967年の声明を踏まえ、本年3月24日に事実上、軍事研究を否定する内容の声明を発しています。しかし、安倍政権は日米同盟強化を旗印に、軍拡路線を強行し、防衛費の増額を決定しています。いま、私たちは学問の自由が奪われ、科学技術研究の成果が戦争に資することを強要されてようとしています。これは先の戦争を教訓として成立するはずの学問や研究の在り方を根底から否定するものです。あらためて軍学共同路線を糾弾する議論を起こしていかなければなりません。本集会では、この問題について皆さんと一緒に考えていきます。


<報告>

 福岡支部では、毎年5月の定期支部大会に合わせて時宜に応じた公開講演会を開催しています。安倍政権の軍拡路線の下で、防衛省の安全保障技術研究推進制度に典型的現れている「軍学共同」を進め、大学を軍事研究に引き込もうという動きが進行している状況を考え、今年は纐纈厚山口大学名誉教授を講師に「大学の軍事研究と安倍政権」と題する講演会を開催しました。
 冒頭、纐纈先生は、「軍事研究」と「軍事問題研究」を峻別し、民間人による軍事問題研究をすることの重要性を強調されました。その後、現在の大学の置かれている研究資金の枯渇・財政危機の状況とそこに付け込んだ防衛省の安全保障技術研究推進制度の策動、それに対する各大学の対応について現状の分析がなされました。その中で、大学の対応は大きく「認めない」、「審査を行った上で判断する」、「対応を決めていない」3つに分かれるが、「軍事問題」の専門家がいない大学で「審査を行った上で判断する」という対応は危ういと指摘されました。
 また、学術会議の3月の声明について、「軍事研究の禁止」に結論づけられなかった点は遺憾であると厳しい評価をされました。この点については、講演後の質疑応答において参加者から、現状においてはこの声明はもう少し評価しても良いといった意見も出されました。
 最後に、今求められていることとして、研究内容について個人の判断に任せず大学や研究機関としての統一した姿勢を打ち出すことの重要性、天皇機関説事件や滝川事件などの過去の歴史の教訓を生かす必要性等が指摘されました。
 質疑応答の中では、現在の東アジアの緊張した軍事状況についてどう対応するか等も議論となり、相手の立場にたって考えてみることの重要性などが活発に議論されました。また、憲法問題については「活憲」的な取り組みが重要であるとの指摘もありました。

(小早川)


講演会「軍学共同を考える」

日本科学者会議福岡支部講演会


日 時: 10月7日(金)午後6:00〜8:00
会 場: 九州大学 箱崎文系キャンパス 104講義室
講 師: 豊島耕一氏(佐賀大学名誉教授)
講演題目: 「科学の軍事利用と科学者の抵抗」
主 催:日本科学者会議福岡支部
入 場:無料
連絡先:小早川義尚 電話:092-802-6014
         メール:kobayakawa@artsci.kyushu-u.ac.jp
内容:2015年度に3億円の規模で始まった,防衛省の「安全保障技術研究推進制度」は,今年度には6億円に増額され北海道大学や大阪市立大学など新たに5つの大学が軍事研究に手を染めることになりました.さらに,来年度にはこの制度に対する概算要求額が110億円と突出し,すべての大学・研究機関をターゲットにして軍学共同を一気に推進しようという意図が明確になっています.
このような動きは,1950年代に「学者の頬っぺたを札びらで叩け」との政治家のかけ声で原子力研究に突き進んでいった歴史を想起させますが,いま問題になっているのは軍事研究であることを考えれば,ことはさらに重大です.

・防衛省がいう「公開の自由」は本当に守られるのか
・科学界の「九条」,学術会議の非戦声明を守れるのか
・「デュアルユース」に対する科学者の責任は
・ 経常研究費削減は研究者への「経済徴兵制」が目的か
・ 日本国憲法の平和主義との関係をどう考えるべきか
・ 私たちは学問の成果をどのように利用してほしいのか

軍学共同に関連したさまざまな問題を考えるために下記のように講演会を開催します.多数の参加により講演のあとの実りある討論がなされることを期待します.


<報告>
gungaku1007a
 2015年度に3億円規模で始まった防衛省の「安全保障技術研究推進制度」は、今年度には6億円に増額され北海道大学や大阪市立大学など新たに5つの大学が軍事研究に手を染めることになりました。九州地区の各大学に於いてもこの「安全保障技術研究推進制度」への対応をどうするかが問われています。実情は、今年度の応募は見送ると対応した大学、大学としての対応を表明していないところ、事務方が一般的な研究費の公募情報として全学に情報を流してしまった大学など様々です。また、来年度にはこの制度に対する概算要求額が110億円と突出し、すべての大学・研究機関をターゲットにして軍学共同を一気に推進しようという安倍政権の意図が明確になっています。更に、それに呼応するかのように、日本学術会議において大西会長の提案により「安全保障と学術に関する検討委員会」が設置され、その課題として「近年、軍事と学術とが各方面で接近を見せている。その背景には、軍事的に利用される技術・知識と民生的に利用される技術・ 知識との間に明確な線引きを行うことが困難になりつつあるという認識がある。他方で、学術が軍事との関係を深めることで、学術の本質が損なわれかねないとの危惧も広く共有されている。本委員会では、以上のような状況のもとで、安全保障に関わる事項と学術とのあるべき関係を探究する」としています。委員会の具体的な審議事項としては、「①50年及び67年決議以降の条件変化をどうとらえるか、②軍事的利用と民生的利用、及びデュアル・ユース問題について、③安全保障にかかわる研究が、学術の公開性・透明性に及ぼす影響、④安全保障にかかわる研究資金の導入が学術研究全般に及ぼす影響⑤研究適切性の判断は個々の科学者に委ねられるか、機関等に委ねられるか」という5項目を掲げ、これまでに4回の審議を重ねています。
 こうした状況に於いて、JSA福岡支部としてもこの問題にたいして「防衛省がいう『公開の自由』は本当に守られるのか」、「科学界の『九条』とも言うべき学術会議の非戦声明を守れるのか」、「デュアルユースに対する科学者の責任は」、「大学における経常研究費削減は研究者への『経済徴兵制』が目的か」、「日本国憲法の平和主義との関係をどう考えるべきか」、「私たち科学者は学問の成果をどのように利用してほしいのか」といった問題意識をもって、大学構成員・市民がともに考えて行く必要があると判断しました。その最初の取り組みとして、10月7日(金)18時より、九州大学箱崎キャンパスの文系講義室104において、支部主催で「軍学共同」を考える講演会を開催しました。
 会は、講演会を開催した趣旨が支部事務局長の小早川から説明された後、豊島耕一佐賀大学名誉教授の「科学の軍事利用と科学者の抵抗」と題する講演が行われました。講演では、第2次世界大戦前後の科学の軍事利用の動きとそれに抵抗してきた科学者について、「ラッセル・アインシュタイン宣言」や広島で開催されたパグウォッシュ会議における「湯川・朝永宣言」の取り組みを始め、様々な事例が詳しく解説されました。また、戦勝国であるアメリカと敗戦国である日本の戦後における科学者の軍事研究に対する対応の違いについても、また、上記のような現在の日本の科学者・大学の置かれている状況についても多面的な解説・問題提起がなされました。なお、豊島氏の講演内容に関連して、是非「日本の科学者」7月号をご参照ください。講演の後の討論では、九州大学の名誉教授での中山正敏氏(物理学)が、軍学共同について考えるためには現状のそれも数値に基づいた正確な情報とその理解が必要であるとして、世界各国の研究費・国分研究費等のデータを資料として示しながら、各国の差異について意見を述べられました。その中で、日本の現状は、まだアメリカのように大学の研究が大きく軍事研究費に依存・関連しているという状況ではないが、昨今の動きをみるとこれまで日本の大学の研究者がとってきた軍事研究には荷担しないという基本的な姿勢がそのまま維持できるのか、アメリカのような方向へ向かうのかの岐路にあるとの指摘がありました。その他にも、30名ほどの大学人や市民の参加者から様々な意見が出され活発な討議がなされました。最後に9月末に結成された「軍学共同反対連絡会」や「軍学共同反対アピール署名」などの紹介がなされ、JSA福岡支部としても今後、この問題について大学人に限らず広く市民とともに考えて行くことを表明して、講演会は閉会しました。会場には、新聞社、TV局の報道陣も来場しており、講演会の様子は翌日のNHK福岡のニュースとして報道されました。
(文責:小早川)
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