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講演会「朝鮮半島の軍事的緊張と日本の取るべき道」

日本科学者会議福岡支部講演会「朝鮮半島の軍事的緊張と日本の取るべき道」


日 時: 6月11日(日)14:00〜17:00(開場13:30)
会 場: 久留米大学福岡サテライト・天神エルガーラオフィス6階
    (国体道路側入口より,下図参照)
講 演:
(1)大統領を弾劾・罷免した韓国民主化闘争と今後の展望
      堀田広治氏(日本コリア協会・福岡理事長)
    (2)北朝鮮の核開発はどこまで進んだか
      岡本良治氏(九州工業大学名誉教授)
    (3)北東アジア非核兵器地帯設立への包括的アプローチ
      鈴木達治郎氏(長崎大学核兵器廃絶研究センター長・教授)
主 催:日本科学者会議福岡支部
共 催:日本コリア協会・福岡
資料代:500円

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【主旨】


現在,朝鮮半島における軍事的緊張の高まりにより第二次朝鮮戦争が危惧されています.朝鮮民主主義人民共和国(以下,北朝鮮と略)による核兵器やミサイルの開発は,我が国,特に北部九州への脅威にとどまらず,東アジア全体の平和への脅威です.しかし,北朝鮮を包囲する米軍,基地を提供する日本,米軍と一体となって演習する自衛隊の行動もまた,同様に東アジア和平を脅かすものです.

北朝鮮政府関係の声明や米国大統領のツイッター等では,挑発的意見表明がなされ,日本のマスコミは過剰に「危機」を演出しています.しかし,この「危機」が「有事」に進展する可能性は決して高いとはいえません.朝鮮半島における現在の危機は,軍事的手段でなく平和的手段によって解決するべきです.一方,韓国では朴大統領を民衆の力で弾劾・罷免し,新しい大統領が選出されました.それらのことを考える講演会を上記のように開催します.

<報告>

 611日(日)午後2時から5時まで「朝鮮半島の軍事的緊張と日本の取るべき道」と題した講演会が開催された.同時刻に進歩的な集まりが多数重なっていたにもかかわらず,50名の参加者が集まり,3名の講演が行われた.

 堀田広治氏は,韓国の民主化の歴史を系統的に述べるなかで,朴槿恵大統領の弾劾につながった「ローソク集会」をターニングポイントとなったと評価し,文在寅・新大統領の就任演説と今後の課題を報告された.1980年の光州事件を弾圧して大統領になった全斗煥の軍事政権下で,民主化運動の高まりの中で1987年「民主化宣言」がなされた.ここでなされた民主化は,5年毎の大統領直接選挙制(再選なし)改憲や人権保障の強化,政党活動の保障などを含むものであったが,組織された政党は近代化されたものではなく,上下関係のある前時代的なものであったという.サムソンやヒュンデ(現代)などによる経済は急成長するが,上位10社の富が7割も占め,大学生の40%がサムソンの入社試験を受けたともいう.政財癒着と権威主義的な政治風土の中で独断・独善的な国政を行なってきた朴槿恵大統領を糾弾する「ローソク集会」では,多様な要求が出された.「よりよい社会を」ということで誰でも発言(3分間)できた.踊ったり歌う人もあらわれた.11月集会に来た高校生は「歴史を創るためここに来た」と発言したという.大統領弾劾後に行われた大統領選により選ばれた文在寅・新大統領は,権威的な大統領文化を縮小する,韓半島平和のために東奔西走する,財閥を解体する,非正規雇用問題を解決する,などの民衆の心をつかんだ就任演説を行なった.しかし,北朝鮮の核・ミサイル問題など大きな課題が存在する.これらの問題は,大規模な米韓の軍事訓練の中止などとセットで話し合いの中で解決すべきであると締めくくられた.

 岡本良治氏は,インターネットなどで公開されている情報から,「北朝鮮の核開発はどこまで進んだか」について詳細に調査・研究した内容を報告された.北朝鮮の最初の核実験(200610月)について,「設計の20分の1以下の不完全爆発で失敗だった」という評価が世界的に多かったが,それは必ずしも正確ではないという.北朝鮮は事前に中国に「設計計画爆発力は4キロトン」と伝えていたという.そうであれば,核実験は1キロトン程度であったとしても部分的成功と言えるかもしれない.爆発的核分裂連鎖反応の臨界超過を達成し,長距離ミサイルに搭載可能な小型核兵器の開発開始をした可能性がある.氏によれば,4回目(20161月)と5回目(20169月)の核実験は,それまでの実験と質的に異なる別系列の核実験であるという.北朝鮮自身は,これらを「水爆実験」と呼んでいるが,これらはブースター型の核分裂兵器の実験である可能性が高いという.ブースター型核分裂兵器とは,重水素(D)と三重水素(T)とが関与するDT核融合反応を媒介として核分裂反応を強化する仕組みを持つ核兵器である.北朝鮮は,高効率の洗練されたブースター型核分裂兵器を生産・配備ができるようになったとみるべきであろう.このまま放置すれば,質・量の両面で北朝鮮の核兵器能力はここ数年のうちに飛躍的に高まる可能性が高いという.大規模な米韓の軍事訓練は北朝鮮にとっては脅威でないはずはなく,軍事的緊張を和らげる話し合いの中で,東北アジアの非核兵器地帯構想を実現していく上で,このような北朝鮮の核兵器能力についての正確な認識が必要であろう.

 鈴木先生は,核兵器を巡る現状から,核の脅威は増え続けていると分析された.その背景には,核兵器の近代化計画と実施,核テロリズムの脅威,ヨーロッパ・南アジア・北東アジアの軍事(北朝鮮の核開発も巡る動きなど)を含む情勢の緊張,さらには米トランプ政権の誕生が投げかける米国の核政策の行方に見える暗雲などがあると現在の核を巡る情勢について詳しく説明をされた.
 一方で,国連総会において核兵器の禁止条約の成立に向けての交渉が決定されたことは,核廃絶を目指す人々にとって大きな励ましとなっている事,それを支持するパグウォッシュ会議の動きや各地域の非核化を求める運動の高まりについても具体的な例をあげて紹介された.その中で,長崎大学のRECNAの取り組み(ナガサキ・プロセスの構築)をRECNA設立の経緯も含めて紹介された.
 また,日本の置かれている核を巡る状況をトリレンマ(被爆国としての核兵器廃絶・非核政策,日米同盟・核抑止力依存の北東アジアの緊張,原発によるプルトニウムの蓄積)として分析され,それぞれの問題にどういった対処が考えられるのかを解説をされた.
 具体的に市民が何を取り組んで行けるのかといった点について,「どうして日本政府は国連総会の核兵器の禁止条約の成立に向けての交渉を決定する決議に賛成できなかったのか」という問いかけを市民にしてゆく事,そこから対話を始めるのは1つの現在できる事かもしれないとの提起があった.質疑応答では,どうして生物兵器や化学兵器の禁止条約は結べたのに核兵器はそうならないのだろうかといった質問などが出され議論が深まった.

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