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日本科学者会議第34回九州沖縄シンポジウム

日本科学者会議第34回九州沖縄シンポジウム「平和で持続可能な社会を目指して」


 日時:12月2日(土)
 場所:鹿児島大学農学部

第一部「核と平和の諸問題」
 (1)川原紀美雄氏(長崎)
   核兵器禁止条約「時代」と「北朝鮮脅威論」―被爆県・自治体、被爆国日本はどう向き合うか
 (2)岡本良治氏(福岡)
   核抑止論・核の傘論と北朝鮮脅威論の虚実
発表資料
 (3)中西正之氏(福岡)
   4電力会社の原発の再稼働の為の新しい安全神話について
発表資料
 (4)亀山統一氏(沖縄)
   沖縄における新基地反対・自然環境保全の運動の到達点
 (5)小栗実氏(鹿児島)
   鹿児島大学における<防衛省委託研究制度>の動きと支部の取り組み

第2部「地域の環境と学術研究」
 (1)佐藤正典氏(鹿児島)
   有明海・諫早湾で何が起こっているのか
 (2)記録映画『苦渋の海:有明海1988-2016』(監督巌永勝止志)の上映

<報告>

「第34回九州沖縄シンポジウム(12/2-3)に参加して」

報告:西垣 敏

「日本科学者会議第34回九州沖縄シンポジウム」(2017年12/2-3鹿児島大学農学部)に参加した。初日は、大会テーマ「平和で持続可能な社会を目指して」のもと、第1部「核と平和の諸問題」に5件の報告、また第2部「地域の環境と学術研究」では1件の報告と記録映画上映が組まれた。会場は、参加者総数58名でかなり埋まり、中でも市民の方々の参集が目立った。2日目は、前半に九州沖縄各JSA支部活動の交流と困難な諸状況についての情報交換が行われた。後半は来年12月に沖縄で開催予定の「22総学」のための準備会合であった。

第1部の報告1は川原紀美雄氏(長崎)による「核兵器禁止条約「時代」と「北朝鮮脅威論」―被爆県・自治体、被爆国日本はどう向き合うか―」であった。川原氏はまず、北朝鮮の核兵器・ミサイル開発を巡る米国と北朝鮮の応酬のエスカレーション、その中で「北朝鮮脅威論」を振りかざし圧力一辺倒で無為無策の安部内閣、として激化する情勢に危機感を表明し、「北東アジアにどう平和な環境を創出するかの議論がまだ見えてこない」と指摘した。氏は、これまでの活動、体験したこと(不戦のASEANなど)を念頭に、「緊急提言」を出した。「「北朝鮮脅威論」のカギ括弧を「」のままにしておくために、または「脅威」を終了させるために」と、氏は、1.米韓合同軍事演習の中止、2.休戦協定の平和条約化交渉、3.朝鮮半島の非核化、の3段階を提言した。まだ北朝鮮と「戦争状態」の関係にある日本としては、平和条約を結ぶ交渉から関係を築いていくしかない。

報告2は岡本良治氏(福岡)が「核抑止論・核の傘論と北朝鮮脅威論の虚実」と題して講演した。本年7月に成立した核兵器禁止条約は、国家安全保障概念の中心的戦略としての核抑止論を人道的見地から否定した。この核抑止論と核の傘論の有効性は、核保有国やその傘に入っている日本などで宣伝されているほど、実証的な裏付けはない。むしろ「軍事力による国家安全保障のディレンマ」の窮地へと突き進む危険性がある。報告者は、核抑止論(正確には「脅迫と抑止」)の系譜と実際の経緯をたどって、その非道徳性・非人道性、非合法性、および非実用性・非有効性を順次に論証した。「核の傘」(「拡大抑止」政策)への期待に対しても、米政府側の証言等から、これが根拠のない幻想に過ぎないことを示した。岡本氏は、焦眉の課題、北朝鮮の核ミサイル開発問題にどうアプローチするか(北朝鮮の非核化)が、核兵器禁止条約の成否についての試金石の一つである、として、偶発的軍事衝突、核戦争回避のため、緊張緩和の努力の重大性を強く主張した。

報告3は中西正之氏(福岡)による「4電力会社の原発の再稼働の為の新しい安全神話について」と題する報告で、「万が一の事故の際においても、放射性物質の放出量は、福島....事故時の約2000分の1」という電力会社側の宣伝は全く根拠のない「新しい安全神話」であり、水蒸気爆発からプルトニウムを含むデブリダストの飛散の可能性を隠ぺいするものであると、警告した。中西氏は、TROI実験やOECD-SERENA Projectの報告書を詳細に調べた。後者は、それまで各国で行われてきた水素爆発実験を統合して行うプロジェクトである。日本原子力開発機構も水蒸気爆発の実験的研究を続けている。そのJAEA-Research 2007-072報告書は、加圧水型原発にメルトダウンが発生した時、キャビティーに蓄えられた大量の冷却水に大量の溶融デブリが落下すると、キャビティーコンクリートが破裂して、格納容器が破損し、大量の放射性物質が大気中に飛散する可能性のあることを警告している。中西氏は、電力会社や地方自治体の関係者がこれら重要報告者を「知らなかった」から、住民がプルトニウム・デブリダストを吸い込んでしまう、などと云うことは許されない、と結んだ。

報告4は亀山統一氏(沖縄)が「沖縄における新基地反対・自然環境保全の運動の到達点」と題して、基地問題と自然環境・住民生活の問題の結びつきと運動の方向性について説いた。冒頭、氏は、「オール沖縄」の大集会を報じる新聞を例示しながら、沖縄県民の願いが、基地のない沖縄の実現と日米地位協定の抜本改定を志向していること、また沖縄の運動について、「地方自治」と「自己決定権」において、「地方」と「国」の対等の位置づけを要求する、という意義を強調した。続いて亀山氏は、着工後の辺野古海域や沖縄全体で危惧される重大な環境影響に言及した。政府は2016年に沖縄県北部を「やんばる国立公園」に指定した際、南北に走る分水嶺の西側一帯は指定したが、東側山域は米軍占有地域や「ヘリパット」の存在のため、飛び地指定となっている。政府は世界遺産登録を目指すが、外国軍基地の存在、人為的因子による強い負荷、米軍訓練場による強い環境負荷、外来種対策の制約、など問題点が山積している。沖縄の海域と森林と生き物を護ることと軍事基地は相容れない、と亀山氏は訴えた。

報告5では、小栗実氏(鹿児島)による講演「鹿児島大学における<防衛省委託研究制度>の動きと支部の取り組み」があった。鹿児島大学では、貸費学生制度とか、海上自衛隊現役海将の記念講演会(2014年)などを通じて、大学と防衛省との繋がりが続いてきた。2015年「防衛省委託研究制度」に1件応募したことが判明。これに対しJSA鹿児島支部は、2016年2月に池内了氏を招いて「科学と平和を考える講演会」を開くなど、軍学共同反対の世論づくりに努力した。2017年学術会議声明や、「鹿児島大学における研究活動に係わる行動規範」(一部改正)にも拘らず、防衛省研究費申請が2017年にまた1件出た。鹿児島支部としては「軍事研究に反対する声明」を出すなどの運動を続けている。小栗氏は反省点として、反対の声が教員の中によく広がらなかったこと、研究費が枯渇に近い状況にあることが申請への誘因の一つ、大学内の「審査委員会」の民主的運営も重要な鍵になろう、と指摘した。

初日の最後に第2部として、まず佐藤正典氏(鹿児島)が「有明海・諫早湾で何が起こっているのか」と題して講演を行った。国の干拓事業による有明海・諫早湾「閉め切り」から20年、福岡高裁の「排水門の5年間開放」を国に命じる判決確定から7年、国は確定判決にも従わない。失われた干潟は、多くの絶滅危惧種にとっての貴重な生息場所でもあった。佐藤氏は「閉め切り」で有明海全体の潮の流れに大きな変化が起きていること、「きれいに濁っている」とも表現される有機的循環が保たれなくなっている、と指摘した。「5年間の開門」があれば、海水を入れたところの生態系は外部のそれと同程度にまで戻ることが可能だ、という展望も示した。

続いて記録映画『苦渋の海:有明海1988-2016』(監督巌永勝止志)の上映があった。映画の冒頭に流れた、「私は決して忘れることができない」という思い詰めた声に驚かされて、一瞬血のひく感覚が体を走った。宮沢賢治『小作調停官』の冒頭句「..../このすさまじき風景を/恐らく私は忘れることができないであろう/....」が過ぎった。映画は、「かつての諫早干潟と消滅寸前の伝統漁法など苦渋にあえぐ有明海のいまを伝える。」拙い感想文で映画の訴えが薄まることを恐れ、これ以上書かない。「イワプロ」ホームページにDVD版情報があるので参考にされたい。

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