脱原発をめざす

川内原発審査書の過酷事故への対策を問う(3)

ー溶融炉心とコンクリート相互作用への「水張り対策」は世界的に珍策ー(pdfファイル)


2014年9月8日  福岡核問題研究会

1. なぜ溶融炉心とコンクリート相互作用の対策を問題にするか

 本論考は原子力規制委員会・新規制基準にもとづく川内原発審査書案の過酷事故対策の批判的分析1(水蒸気爆発防止策)[1],同2(水素爆発対策批判)[2]に続くものある。
新規制基準において、水素爆発の可能性が払拭できていないことについて、井野・滝谷氏の論文[3]では、次のような問題点が多数指摘されている:
 溶融炉心が流れ出てくると、いわゆる水・ジルコニウム反応だけでなく、溶融炉心とコンクリートとの反応(溶融炉心・コンクリート反応、MCCIと略)によって水素が発生し、より水素爆発の可能性が高まる。「加圧水型(PWR)原子炉は格納容器が大きいから水素爆発の心配はいらない」というのは非科学的である。1979年のスリーマイル島原発の炉心溶融事故の際には、水素爆発の危険性が最も懸念されていた。モデルによる解析でも、水素爆発発生までの数値に余裕がなく、MCCIや、格納容器内での水素濃度の偏りの可能性を考えた場合、水素爆発はリアリティを持っている。そして、沸騰水型とは違い、加圧水型(PWR)は格納容器が大きいだけに、その爆発の威力も逆に格段に大きいと見ておいた方がいいのではないか。
 本年4月中旬、世界の原子力規制の動向に精通した原子力コンサルタントの佐藤暁氏が新規制基準における過酷事故が非常に不十分であることを詳しく議論している[4, 5]。特に、講演資料[4]の21ページにおいて、再臨界、水蒸気爆発、MCCIの評価に対しては慎重さが必要としている。
 過酷事故(シビアアクシデント)の際、溶融核燃料と格納容器の下部キャビティのコンクリートの相互作用により、コンクリートの骨材が石灰岩系であれば、水素だけではなく、CO2、COも大量に発生することは、一般にはほとんど知られていない。しかし、原子力研究者の間では従前より認識され、徹底的に研究されてきた。

fig3-1

詳しくは、例えば、論文[6]を参照のこと。溶融炉心とコンクリート相互作用については、他にも、部分的ではあるが、いくつかの文献でも言及されている[7, 8, 9]。
 MCCIについて東電の事故調査報告書[10]には全く言及がなかったが、その認識が新たに得られたのか、言及しないことの不自然さを意識したのか不明であるが、東電の本年8月6日の公表資料[11]のp.12には「溶融燃料が十分に冷却されない場合、溶融燃料と接触した格納容器床面のコンクリートが融点以上まで熱せられることにより、コンクリートが分解するコア・コンクリート反応が生じる。コア・コンクリート反応では、水素、一酸化炭素等の非凝縮性ガスが発生するため、格納容器圧力変化や放射性物質の放出挙動に大きな影響を与える。しかしながら、実際にどの程度のコア・コンクリート反応が生じていたかについては明らかになっていない。従って、コア・コンクリート反応がどの程度生じていたのか評価するとともに、それが事故進展に及ぼす影響について検討する必要がある。(共通-5)」
という記述が現れた。また、高温燃焼炉設計に長年従事した中西正之氏もMCCI対策の重要性を強調している[12]。

2. 溶融炉心・コンクリート相互作用のおきる原子炉こそ致命的弱点

 川内原発の審査書案[13]に於ける川内原発1・2号炉の溶融炉心・コンクリート相互作用(MCCI)についての検討はpp.201-205に記載されている。関連する第58回検討会における資料[14]の「1 まえがき」には以下のように、MCCIについての知見が不十分であると記している。
 「溶融炉心とコンクリートの相互作用(MCCI:Molten Core Concrete Interaction、以下、「MCCI」と称す。)に関しては、国内外において現象の解明や評価に関する多くの活動が行われてきているが、現在においても研究段階にあり、また、実機規模での現象についてほとんど経験がなく、有効なデータが得られていないのが現状であり、不確かさが大きい現象であると言える。そこで、国内外で実施された実験等による知見を整理するとともに、解析モデルに関する不確かさの整理を行い、感度解析により有効性評価への影響を確認した。」
 また,「2 現象の概要」には以下のような記述が見られる。
 「国内 PWR プラントでは、炉心損傷を検知した後に、原子炉キャビティへの水張りを行うことにより、溶融炉心がキャビティに落下した際の溶融炉心の冷却を促進することにより MCCI の防止/緩和を行っている。キャビティに落下した溶融炉心は、キャビティ水との接触により、一部は粒子化して水中にエントレインされ、残りはキャビティ床面に落下して堆積し溶融プールを形成する。エントレインされたデブリ粒子は、水と膜沸騰熱伝達し水中を浮遊するが、冷却が進むと膜沸騰状態が解消され、溶融プール上に堆積する。
 キャビティ底に堆積した溶融炉心は、崩壊熱や化学反応熱により発熱しているが、キャビティ水及びコンクリートとの伝熱により冷却されるにつれて固化し、冷却が不足する場合には、中心に溶融プール(液相)、外面にクラスト(固相)を形成する。
 コンクリートは、溶融炉心との熱伝達により加熱され、その温度が融点を上回る場合に融解する。このとき、ガス(水蒸気及び二酸化炭素)及びスラグが発生し、溶融炉心に混入され化学反応する。」
 しかし、「現象の概要」の文章の中で、「国内 PWR プラントでは、炉心損傷を検知した後に、原子炉キャビティへの水張りを行うことにより、溶融炉心がキャビティに落下した際の溶融炉心の冷却を促進することにより MCCI の防止/緩和を行っている」という対策の文章を混入させることは、あたかも現象が防止/緩和されることを自然現象のごとく思い込ませるような意図が感じられる。そのような意図がないとすれば、願望的思考の一例かもしれない。
 さらに、「6まとめ」では
「溶融炉心とコンクリートの相互作用(MCCI)に関しては、水プールに溶融物を落下させて溶融物の冷却性を確認した直接的な実験例は DEFOR 実験のみでありサンプルが少ない。また、COTELS 実験の知見より注水することでコンクリート侵食が停止したことが確認されている。
 これまでの実験により得られた知見に基づき分析した結果、MCCI に関する溶融炉心のキャビティへの堆積過程及び溶融炉心の冷却過程における不確かさの要因として抽出した、
 ・キャビティ水深
 ・Ricou-Spalding のエントレインメント係数
 ・炉心デブリの拡がり
 ・水-炉心デブリ間の熱伝達係数
について、感度解析を行い、コンクリート侵食への影響を確認した。
 その結果、水-炉心デブリ間の熱伝達係数を除いてはコンクリート侵食量への感度は小さく、重大事故対策の有効性評価の結果に影響は与えないことを確認した。水-炉心デブリ間の熱伝達係数については、侵食量が約 20cm となる程度の感度があったが、原子炉格納容器の構造部材の支持機能が喪失には至ることはない。この感度解析条件は、水-炉心デブリ間の熱伝達係数を低温の炉心デブリから水への熱流束に基づき設定したものであり、高温の炉心デブリが水と接触する場合においても水への熱流束が小さく評価されるものとなっている。想定される現象としては、炉心デブリが水中に落下し、高温の炉心デブリが水と接触している間は、水への熱流束が大きくなり、その間に炉心デブリが冷却されることから有意なコンクリート侵食に至ることはないと考えられる。
 感度解析の結果から、炉心損傷検知後、キャビティに水を張ることにより炉心デブリの細粒化及び固化を促進させる方策が有効であることを確認したが、今後、原子炉容器破損時における炉心デブリの放出状況に応じ影響因子間の相関を考慮し、コンクリート侵食への影響を把握する。
 また、溶融炉心とコンクリート相互作用(MCCI)については、複雑な多成分・多相熱伝達現象であり知見が不十分であること、また直接的な実験例が少ないことから、今後も継続してコンクリート侵食に対する検討を進め、知見の拡充に努める。」
 このように、現象を模擬する実験例が非常に少ないことを認めているにも拘わらず,一つの解析コードにおける使用されたパラメータの感度解析の評価で、影響は軽微であると結論づけることは説得力が低いと考えられる。なぜならば、「溶融炉心とコンクリート相互作用(MCCI)については、複雑な多成分・多相熱伝達現象であり知見が不十分であること、また直接的な実験例が少ないことから、今後継続してコンクリート侵食に対する検討を進め、知見の拡充に努める」[14]と記されているように、設定した物理的、化学的モデルの現実性は必ずしも明らかではないからである。さらに、3節で議論するように、注水が時間的に間に合わなかったり、注水量が不十分であったりする可能性も否定できない。
 一般にはほとんど知られていないが、溶融核燃料の状態に近い技術現場であると考えられる高熱溶融炉設計の常識は以下のようなことである[12]。

(A)コンクリートの基礎の上に、直接に溶融炉を設置すると、溶融物が漏洩してコンクリートと接触した時、コンクリート中の水分が水蒸気爆発して、コンクリート塊が溶融炉本体や作業員を直撃するので、コンクリート表面は脱水した耐火物で保護する。また、ほとんどの溶融物はコンクリートを溶かし、炉体の基礎を破壊するので、耐火物で保護する。
(B)溶融炉の下部で溶融物が固化すると、溶融炉下部の冷却機能を阻害し、再操業を困難にするので、炉下部から外側に溶融物が流れるような流路を設ける。

 このような常識から考えると、川内原発の過酷事故対策には、相当の高温状態が実現するにもかかわらず、高熱溶融炉設計の常識は全く生かされていない、と言わざるを得ない。
 1979年3月のスリーマイル島原発、1986年4月のチェルノブイリ原発の過酷事故の発生時、溶融核燃料のメルトダウンやメルトスルーが現実に起きる事が分かり、2800℃にもの高温度になった核燃料が格納容器のコンクリートと反応するMCCIが非常に危険だということが分った。
 そして、世界中でMCCIの再現実験と防止実験が行われた。その実験で、MCCIは水をかけて冷却しても、水中でも火山でできる軽石と同じクラスタがコリウム表面に発生し断熱をしていまい、コリウムから水への熱の移動を阻害し、水でMCCIを停止することが非常に難しい事が分った。また、MCCIによって、大量の水素と一酸化炭素が発生し、ジルカロイ・水蒸気反応で発生する水素と合算されることが分った。
 国会事故調査委員会も事故調査報告書[15]で、上記の国内外のMCCIの実験結果より、福島第一原発3号機の爆発は、MCCIによって、大量の水素と一酸化炭素が発生し、ジルカロイ・水蒸気反応で発生する水素と合算され大爆発が起きたと推測すると、一番良く説明できると報告した。
 海外の文献には、MCCIによって、大量の水素と一酸化炭素が発生することは、たくさんの報告がされているから、海外では良く知られているが、日本では原発の安全神話を守るために、このことはブラックボックスとされてきた。
原子力規制委員会の新規制基準の策定時のパブリックコメントで、佐藤暁氏が公開で、このことを指摘しても、規制委員会は無言で押し通した。
 そして、新規制基準には、MCCIによるCOガスの発生は全く考慮せずに、MCCIにより溶融炉心がコンクリートを溶融貫通しないことと規定した。
 その結果、九州電力は新規制基準に対応するために、高熱溶融炉設計の常識とは全く反して、世界中で誰もが行わなかった格納容器貯水冷却対策という珍策を考えだした。
 確かに、3.11事故前の原子炉メーカーの技術者の報告[16]のp.7では「事前水張りの実施例は海外では存在しない」,さらにp.15に水蒸気爆発防止として、下部DW(ドライウェル、格納容器)への事前水張りの禁止・不要化と明記されている。
 新規制基準の適合性審査で原子力規制委員会は当初、この方法には水蒸気爆発の問題が有るのではないかと指摘はしていた。しかし、原子力規制委員会は新規制基準においては、MCCIによるCOガスの発生は全く考慮しなかったので、MCCIによる非凝縮性または/および可燃性のガスの発生はほとんど問題にはしなかった。
 九州電力はMCCIによって少し水素ガスが発生することは認めており、その発生はすべて水・ジルコニウム反応によるとしている。そして、MCCIによって発生する水素の量は炉心内のジルコニウムの6%と計算している。
 しかし、国会事故調査委員会[15]や文献[6]で指摘されているように、MCCIによりCOガスが発生することは、海外の文献ではたくさん報告されている。
 福島第一原発の過酷事故におけるMCCIによるCOガスの発生の有無も検討せず、海外の多数の文献の検討や、国内でも明確な論文が発表されているのに、ほとんど検討もしないことは審査機関としてのレベルの低さを露呈しているものと断言せざるを得ない。
 MCCIによりCOガスの発生が有れば、COガスの発生がないと決めつけて行われる過酷事故対策においては、川内原発の格納容器と原子炉建屋に爆轟が起きて、核燃料が野ざらしになる確率が高くなる。
 九州電力もこの事実を知ってはいるが、コアキャッチャーなどの新設への投入経費を惜しみ、過酷事故の際には、格納容器の下部キャビティへの注水で対処するという方針にしたと推測される。そして、審査書において、格納容器の下部キャビティへの注水開始遅れの影響などについて、MAAP解析コードにより、パラメータを保守的に設定した上でも原子炉格納容器の構造部材の支持機能に与える影響がないことを確認した、とされている。
 格納容器の下部キャビティへの注水開始遅れの影響に関連することについて、旧原子力安全・保安院が、福島事故後の2011年6月に、『東京電力福島第1原発事故に係る1号機、2号機、3号機の炉心の状態に関する評価のクロスチェック解析』[17]という資料を公表している。東電はMAAPで解析して、それを保安院がJNESの支援を受けて別の解析コード(MELCOR)によるクロスチェックを行った結果、地震発生後の1号機原子炉圧力容器の破損時間はMAAPでは約15時間、MELCORでは約5時間と、3倍の差異が生じた。
 従って、事業者によるMAAP解析コードによる評価だけで, 別の解析コードによるクロスチェック無しでは、原子力規制委員会の独立性も専門性も示されておらず、MAAP解析コードによる感度評価も信頼性が高いとは言えない、と言わざるを得ない。

3.過酷事故の際のエアロゾルの発生と挙動と影響

MCCIの進行度合いによっては,非凝縮性の可燃性(爆発性)ガスが放出されると同時に,図1に記され,文献[7, 8]において詳述されているように,大量(トンのオーダー)のエアロゾルが発散され,現在,各電力会社で検討されているフィルタベントが目詰まりを起こしてしまう可能性がある.エアロゾルの発生と拡散のしくみの概略を図2に示す。

fig3-2
図2 エアロゾルの発生と拡散の模式図:出典[18], p.457
流入する流れ(Inlet flow)、壁(wall)、Sorbtion(吸着?), ガス相における化学反応(gas phase chemical reaction)、過飽和蒸気supersaturated vapor)、より低温に(cooler)、凝縮(condensation)、核形成(Nucleation)、エアロゾル(aerosol)、集塊化(Agglomeration)、付着(deposition)、放出(release).

原発の過酷事故におけるエアロゾルの発生と拡散による影響については、米国物理学会の総説[19]と米国原子力規制委員会報告[20]にも詳細な議論と論文紹介がなされている。
このように,水素や一酸化炭素,二酸化炭素などのガス成分だけがフィルタベントに向かって流れていくのではなく,濃い煙のようになって大量の粒子成分を運搬していくことも考慮しなければならない。かなりの量のストロンチウムとプルトニウムが放散する問題が懸念される。フィルタベントの例を図3に示す。

fig3-3
図3 電力会社で検討されているフィルタベントの実例 出典は文献[21]


 図3中の「放射性微粒子(放射性セシウム)を除去率が99.9%以上」については実証的吟味が必要と思われる。例えば、水スクラバが想定されていると思われる常温ではなく、高温の場合、除去率が半減するなどの実験結果もある[22]。
 フィルタベントの性能について、新潟県においては以前から知事を含めて新潟県原子力発電所の安全管理に関する技術委員会において精力的に審議されている[23]。ちなみに、[23]のp.2, p.7において、MCCIが起きた場合などの質疑もp.2とp.7にあり、東電は回答できていない。関連した分析について[24]が参考になるかもしれない。
 少し古いが, 原子力規制委員会において審議されたと想像される詳細な資料「諸外国の格納容器ベントシステムの設備概要」[25]のp.2,p.3,p.8,p.20, 付-3,付-5には各国のフィルタベントの処理流体の想定温度が具体的に示されている。関連して、p.4 および付録-2にMCCI関連の記述もある。

4. MCCI対策の国際的な動向と川内原発における原子炉キャビティ(圧力容器外)の「水張り対策」

 これまで設置された原子炉プラントに対して、明らかに、すべての過酷事故問題が解決されているわけではない[18]。最も重要な未解決問題は,事故を安定化させ終了させるために、想定された過酷事故の期間に生成される溶融炉心(melt/debris)を冷却することである。第三プラス世代(原子炉世代)の軽水炉における設計における二つの戦略は溶融炉心の圧力容器内保持戦略と圧力容器外保持戦略であるようである[16, 18, 26]。

4.1圧力容器内で溶融炉心を保持する(IVMR)戦略
 溶融核燃料等の冷却と保持を圧力容器内で行う戦略(In-Vessel Melt Retention, 略称はIVMRまたはIVR) は圧力容器の全体または少なくとも下部先端を水浸しにすることにより、PWR圧力容器、またはBWRのドライウェル(格納容器系の中で、圧力抑制室を除いた部分)を冠水させるというアイデアに基づいている。この設計思想はフィンランドのLoviisa VVER-440、PWR設計のAP-600,AP-1000, 韓国の改良PWR-1400、そしてフランスのアレバ社の1000Mwe BWRの設計に採用されている[18, 27, 28]。
 溶融炉心等の圧力容器内での保持の概念図を図4に示す。

fig3-4
図4:溶融炉心等の圧力容器内での保持の概念図。出典は文献[26]。
図4の右図とほぼ同様な図が文献[18]にも記載されている。Qd(qd):溶融炉心が酸化物状態になったプール(以下、プールと略)から圧力容器の下球面部の壁への熱流束、Qh:プールから溶融した金属層への熱流束、Qb(qb):溶融した金属層から圧力容器の円柱側面部の壁への熱流束、Qrad:溶融した金属層の表面からの熱放射損失。熱流束とはある断面積を単位時間に通過する熱エネルギーを意味する。

 IVR戦略が成功する必要条件は圧力容器キャビティ(格納容器内の圧力容器を含む間隙)を初期に、かつ長期間にわたり冠水させること、圧力容器の壁からの熱の除去、格納容器からの熱の除去である[26]。600MWe AP-600原子炉に対する一様なプール(溶融炉心が酸化物状態になったプール)については、圧力容器を囲む水側が伝達しうる臨界熱流束(critical heat flux)とプール側から流入する熱流束に比べて十分な余裕があることがわかった。しかし、この安全性についての余裕は、プールの表面に金属層が生成される場合にはかなり減少するかもしれないと予想されている[18]。図4に示されているように、この金属層はPWRとBWRの圧力容器下部において存在する、プールで溶けた金属の中で生じ、(相対的に)軽いので、プール中の表面に上昇する[18, 26]。金属層はプールからの熱を受けて、圧力容器の壁に垂直にレイリー・ベナード対流熱伝達を行う。そして、これは熱伝達を高く上昇させる。このような熱の集中は金属層が薄い場合には最も強くなる。30cm以下の金属層の場合、集中された熱流束は,図4の右図の赤丸で記されたように、圧力容器下部の半球の均分円の近くでは臨界熱流束を圧倒しうる[18]。
 最近、溶融炉心の構成物質間の化学反応という研究プロジェクトにおいて、溶融炉心プールの中に異なる層配位(layer configurations)が生成されるかもしれないという複雑な事態が明らかになった。最悪の事態は,金属のいくらかがウランと結合してプールの底に沈み、残りの金属がプールの表面に薄い層をつくり、圧力容器の壁に強く,集中した熱流束をもたらすことである[18, 26]。

4.2圧力容器外で溶融炉心を保持する戦略
 溶融核燃料等の冷却と保持を圧力容器外で行う戦略は次のような最近の知見に基づいている[26]。まず、軽水炉の標準的なキャビティは小さすぎるので、圧力容器キャビティ内部でMCCIが始まった後に溶融炉心を冷却することは不可能である。次に、溶融炉心の熱伝導率によりほとんど影響されるので、冷却可能な溶融炉心の厚さは25cm以下である。
 この戦略はフィンランドの原発で最近設計された欧州PWR(EPR)と中国とインドに対して設計されたロシアの新型原子炉VVER-1000に採用された[18]。
 この戦略において、コアキャッチャー(core catcher)が設計されてきた。コアキャッチャーとは,文字通り、炉心(core)のメルトダウンする事故が起こり、溶け落ちた核燃料等が圧力容器の底を突き破って下に落ちても、それを捕獲(catch)して安全な容器に誘導して、薄く広げて一気に冷却するという耐熱性の材料で作られた容器である[3]。文献[16]において、設計想定外事故(beyond- design-base accident、B-DBA)への対策の一環として、コアキャッチャーの設置または計画例などが紹介されている。
 田中規制委員会委員長の発言のように、コアキャッチャーは研究開発段階で、設置はされていないという見方がある[29]が,上述のように、この事実認識は正しくない。そして原子力規制委員会の委員長の認識としてはいかがなものかと言わざるを得ない。
 コアキャッチャーの一例として欧州加圧水型原子炉(EPR)におけるコアキャッチャーを下図に示す。


fig3-5
図5:欧州加圧水型原子炉(EPR)におけるコア・キャッチャー。出典[18]。
引用した図は文献[15]のp.7の左上の図とほぼ同じである。

コアキャッチャーを構成する中心的要素は、原子炉の格納容器下部の床を、通常のポルトランドセメントからなるコンクリートではなく、高温の溶けた核燃料を広い平面状容器に展開し、その容器の表面を守るための特殊素材であると考えられる。この特殊素材が何かについて具体的に記述している文献はまれであるが、図5にはジルコニア(Zirconia, 二酸化ジルコニウム、ZrO2)というセラミックスの一種が記されている。ジルコニアはその熱的特性が優れていることが知られている。すなわち、融点は2700℃で、熱伝導率が他のセラミックスに比べてかなり小さく、かつ金属の鉄や銅と化学反応しないので、優れた耐火物である。
コアキャッチャーの設置の実例については、文献[18, 30, 31]によれば、欧州加圧水炉(EPR)についてはフィンランドの原発とフランスのフラマンビル-3原発、ロシアの新型原子炉VVER-1000については中国広東省の台山原発(タイシャン、Tian Wan)、インドのKundakulam原発に設置されているようである。文献[16]のp.14, pp.17-19には米国のMark型の改良型原子炉と推測される。コアキャッチャーの耐熱性の材料としてはマグネシア(酸化マグネシウム、MgO)が使用されている。
ここで、耐火物[32, 33]として知られているアルミナ(Al2O3)、マグネシア(MgO)、ジルコニア(ZrO2)の他の重要な性質は溶融炉心との化学反応である。同じ金属でも、金属の鉄や銅はAl2O3、MgO、ZrO2とあまり反応しないが、FeOやCuOはAl2O3とはかなり反応する。しかし、MgO、ZrO2、黒鉛は(他の物質との化学)反応が少ないと思われる。MgOの欠点は水蒸気に弱い事、黒鉛は熱伝導率が大きいこと、酸素雰囲気下で燃焼することであると思われる。
次に、ロシアの新型原発のコアキャッチャーを図6に示す。

fig3-6
図6 ロシア型コアキャッチャー。出典は文献[34]。
文献[18, 31]にもほぼ同じ図が掲載されている。1-Containment 8–Basket、2–Reactor, 3–Concretecavity, 4–Concrete cantilever, 5-Device for coolant supply, 6-Device for coolant removal, 7-Ring section heat exchanger,8-Basket, 9–Protective truss, 10– Heat insulation panels, 11-Air cooling channels, 12-Heat insulation, 13–Lower plate。

 図6のロシアの新型原発のコアキャッチャーの耐火物として,何が使用されているか具体的な記述はない。しかし、原子力関係の国際会議報告[35]の2-22ページに、コアキャッチャー材料と溶融コリウムの相互作用に関する新しい実験結果(ロシアLSK/St Petersburg)について「シビアアクシデント時に原子炉容器から放出される溶融コリウムを長期保持するために、ジルコニアベースの耐火材料で作られた原子炉容器外コアキャッチャーが提案されている」との記述がある。さらに、ロシアの新型原子炉VVER-1000についてのKhabenskyらの論文[31]のpp.568-569にZr、Zr-bearing steelという記述もある。
 泉田新潟県知事はコアキャッチャーの必要性にたびたび言及している[36]。
 圧力容器から排出される溶融炉心を広げる効率について、欧州諸国で多くの研究が行われた。そして、保守的な仮定の下で、排出された溶融炉心とコンクリートの混合物が一様に広がることが確認されているようである。しかし、溶融炉心の厚さ約40cmは冠水だけで、その冷却が確実な厚さを超えている。 さらに、広がった溶融炉心プールの中心部が固化するにはかなりの時間がかかる[18]。コアキャッチャーはFe2O3や他の酸化物を含む酸化物からできた耐火煉瓦で満たされている。この目的は排出された溶融炉心の温度を下げ、広い温度領域にわたってそれを液体の状態に保持することである[Sehgal12]。コアキャッチャーの壁は金属であるが、酸化煉瓦により裏打ちされている。溶融炉心とこれらの物質との化学(反応)がいくつかの実験の主題になっていて、選択された酸化物は溶融炉心の中のウランと金属が結合し、溶融炉心プールの底に沈む金属の厚い層を形成するように選ばれている[18, 26]。

4.3 川内原発における原子炉キャビティ(圧力容器外)の「水張り」策の危険な特異性
 国際会議ICONE(International Conference on Nuclear Engineering)[35]は、2000年に開催されたが、原子炉工学に関する国際会議として、原子力発電所の安全性に係る技術を始め、原子炉核工学、伝熱・熱水流動工学、構造強度工学等の原子力の利用に係る幅広い分野における最新の技術情報の交換を目的として、日本機械学会、米国機械学会、フランス原子力エネルギー学会により共催されているようである。この国際会議で3件のコアキャッチャーの報告が行われているが、何れにも「コアキャチャーそのものには直接的な興味はないが」と無関心を明記するなど、日本の技術陣はコアキヤッチャーを全く検討していなかった。
 圧力容器内で溶融炉心を保持する戦略(IVMRまたはIVR戦略)と圧力容器外で溶融炉心を保持する戦略のそれぞれの長所と短所については [18] と[26]において議論されているが、相対的には後者のコアキャッチャーが信頼性は高いと思われる。しかし、いずれの戦略においても、水蒸気爆発のリスク、MCCIのリスクを回避しようとする点では共通している。
 したがって、川内原発における圧力容器外の「水張り」策は、国際的な原子力の業界における上述の圧力容器内と圧力容器外で溶融炉心等を保持する戦略のいずれにも属するとは考えられず、ある意味で珍奇な策であると言わざるを得ない。
 この事実は原子力技術におけるガラパゴス化の一例であったと後に酷評されるかもしれない。

5.福島第一原発・3号機の炉心溶融が当初解析よりも早期に起きた可能性

 本稿で説明したコリウム・コンクリート反応は必ずしも今後の問題ではなく,福島第一原発事故においてすでに起きていた可能性がある[6]。まず,1号機爆発について,政府事故調は水素爆発であり,MCCIにより発生するCOが寄与した可能性は極めて少ないとしている。しかし、国会事故調[15]は3月11日当時,急速に進行する1号機の炉心損傷の状況がオークリッジ国立研究所の解析報告書[38]とも矛盾がないこと、すなわち,MCCIがすでに始まり、水素ガスとともに溶融物が溶け落ちたコンクリートのフロアからは大量のCOも発生し、格納容器の圧力が設計圧力を超過したこととも矛盾しないと指摘している。次に,3号機の爆発について、政府事故調は水素爆発であり,他の可能性を否定している[37]。しかし、国会事故調はMCCIの寄与を加味すると3号機の爆発の説明はより容易になると説得的な分析を行っている[15]。この理由の第1は、燃料被覆材ジルカロイがZr-水反応を起こすのは約20%にすぎないというオークリッジ国立研究所の解析における推定にもとづいて,3号機に非常に大きい爆発力をもたらすには水素の量がやや不足している。MCCIにより大量に発生する水蒸気,H2,CO2,COが爆発したとすれば,爆発性気体は大幅に増量されること。第2に、爆発直前に観察された閃光のオレンジ色はCOの不完全燃焼であるとすれば理解しやすいこと。第3に、爆発で散乱したがれきの著しく高い放射能レベルについても説明がつく。関連して、フランス放射線防護原子力安全研究所(IRSN)も黒煙の原因の1つとして,コリウム(炉心溶融物)とよばれる放射性のスラグが格納容器のコンクリートと化学反応した可能性が考えられるという[39]。
 本年8月6日に公表された東京電力による新しい解析[11]によると、1号機でMCCIが起きたが、長くは継続しなかったと述べている。福島第1原発の3号機の炉心溶融は従前の解析に比べて、5時間も早かったということは、3号機の爆発の複合性、すなわち水素爆発とCO爆発の可能性についての国会事故調報告書[15]の記述、論文[6]における考察と整合的である、と思われる。しかし、やや不思議なことに、3号機の事故進行についての記述ではMCCIという用語すら使用されていない。これは何を意味するのだろうか。3号機の事故進行の内実について、近い将来、さらに検討を加えることを示唆しているのかもしれない。

6.まとめ

(1) MCCIにより、コンクリートの骨材が石灰岩系であれば、水素だけではなく、CO2、COも大量に発生し、事故の進行過程により、CO爆発および水素との複合爆発の可能性は否定できない。
(2) 東電の新しい解析により、3号機のMCCIの進行は当初予想を超えていて、実機におけるMCCIの危険性の傍証になっている。
(3) ヨーロッパ、ロシアとアジアの一部では数年前からコアキヤッチャーの取り付けが始まったが、日本では何も対策しなかった。ところが、2011年3月11日に東日本大震災と大津波が有り、福島第一原発の1, 2, 3号炉に溶融核燃料の格納容器下部コンクリーへの沈下を許し、汚染水事故を引き起こした。
(4) 原子力規制委員会の適合性審査の議事録にはコアキヤッチャーが不必要との九州電力、関西電力、北海道電力、四国電力の主張がわずか1行しか記載されていなく、川内原発の審査書案には1行も記載されていないが、九電はMCCIの危険性に対する認識自体はもっていると推測される。
(5) 提案された格納容器下部への注水という方法は,水蒸気爆発の危険性防止を重視する世界的傾向とは異質で、MCCI対策としては危険で、世界的に珍策と言わざるを得ない。

参考文献および参考サイト
[1] 福岡核問題研究会2014年7月26日
川内原発審査書の過酷事故への対策を問う(1) ―格納容器と原子炉建屋が水蒸気爆発で破壊されないことは実機規模で実証されているか―
 
http://jsafukuoka.web.fc2.com/Nukes/blog/files/a2674476e38620f3d8d2f0741b6191b3-21.html
[2] 福岡核問題研究会2014年8月7日
川内原発審査書の過酷事故への対策を問う(2) ―水素爆発対策は可燃性ガスへの引火を契機とする複合爆発の可能性―
 
http://jsafukuoka.web.fc2.com/Nukes/blog/files/0640c347ffd94d9997c19f5985f5d8c6-24.html
[3] 井野博満・滝谷絋一「不確実さに満ちた過酷事故対策」『科学』84巻3号, 333 (2014).
 
http://www.ccnejapan.com/archive/2014/201403_CCNE_kagaku201403_ino_takitani.pdf
[4] 院内学習会:原子力規制のグローバルな状況と日本。2014年4月18日
 
http://www.cnic.jp/movies/5817
 佐藤暁氏の講演資料 
http://www.cnic.jp/files/20140418mokkai_sato.pdf
[5] 佐藤暁、「不吉な安全神話の再稼働」,科学84巻8号2014年P.833
[6] 岡本・中西・三好「炉心溶融物とコンクリートとの相互作用による水素爆発、CO爆発の可能性」、「科学」(岩波)2014年3月号, pp.355-362.
 
https://dl.dropboxusercontent.com/u/86331141/Shiryo/Kagaku_201403_Okamoto_etal.pdf
[7] 田辺文也「まやかしの安全の国―原子力村からの告発」角川SSC新書,2011年.特に,p.198.
[8] 田辺文也、ETV特集「続報 放射能汚染地図」文字起こし(1)
 
http://blog.livedoor.jp/amenohimoharenohimo/archives/65748609.html
[9] 若杉 冽「原発ホワイトアウト」講談社、2013年。特に、pp.306-307, p.314.
[10] 東京電力、福島原子力事故調査報告書, 2012年6月20日
本編 
http://www.tepco.co.jp/cc/press/betu12_j/images/120620j0303.pdf
添付資料 
http://www.tepco.co.jp/cc/press/betu12_j/images/120620j0306.pdf
[11] 東京電力「福島原子力事故における未確認・未解明事項の調査・検討結果~第2回進捗報告~について」2014年8月6日
 
http://www.tepco.co.jp/cc/press/2014/1240099_5851.html
[12] 中西正之「川内原発の審査書案における爆発防止対策の大きな問題」NERIC NEWS(核・エネルギー問題情報センター通信)No.358, 2014年8月号, pp.6-7.
http://www1.parkcity.ne.jp/eng-tat
[13] 原子力規制委員会,九州電力株式会社川内原子力発電所の発電用原子炉設置変更許可申請書(1 号及び 2号発電用原子炉施設の変更)に関する審査書 (原子炉等規制法第43条の3の6第1項第2号 (技術的能力に係るもの)、第3号及び第4号関連), 平成26年7月16日。
https://www.nsr.go.jp/activity/regulation/tekigousei/data/0058_13.pdf
審査書案 
http://www.nsr.go.jp/public_comment/bosyu140716/gaiyou.pdf
[14] 原子力規制委員会・第58回検討会、資料2-2-7「重大事故等対策の有効性評価に係るシビアアクシデント解析コードについて」(第3部 MAAP) 添付3 溶融炉心とコンクリートの相互作用について。
https://www.nsr.go.jp/activity/regulation/tekigousei/data/0058_13.pdf
[15] 国会事故調の事故調査報告書,2012年.特に,pp. 131-134, p.146, p.159.
 pdf版:
http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/3856371/naiic.go.jp/report/ pp.137-140, p.152, p.167-168.
[16] 佐藤崇(㈱東芝)「世界標準と安全設計について~原子力エンジニアからの一提案」,日本原子力学会2010年秋の大会、原子力安全部企画セッション
http://www.aesj.or.jp/~safety/H221021siryou3.pdf 
[17] (旧)原子力安全・保安院『東京電力福島第1原発事故に係る1号機、2号機、3号機の炉心の状態に関する評価のクロスチェック解析』 2011年6月
http://www.kantei.go.jp/jp/topics/2011/pdf/app-chap04-2.pdf
[18] B. R. Sehgal, Nuclear Safety in Light Water Reactors: Severe Accident Phenomenology, Academic Press, 2012.
http://store.elsevier.com/Nuclear-Safety-in-Light-Water-Reactors/isbn-9780123884466/
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[19] 過酷事故の際における放射性核物質の放出についての米物理学会報告、
Report to the American Physical Society of the study group on radionuclide release from sever accidents at nuclear power plants, Rev. Mod. Phys. Vol.57, No.3, S1, July 1985.
特に、MCCIについてはIV.A.8, IV.B.6,エアロゾルの理論と実験についてはIV.Cを参照。
http://journals.aps.org/rmp/pdf/10.1103/RevModPhys.57.S1
[20] 米国原子力規制委員会、報告NUREG-1465(1995), Accident Source Terms for Light-Water Nuclear Power Plants.
http://pbadupws.nrc.gov/docs/ML0410/ML041040063.pdf
[21] 東京電力「フィルターベント設備の概要について」2013年7月17日。
http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/handouts/2013/images/handouts_130717_03-j.pdf
[22] NHKスペシャル メルトダウン File.4 放射能"大量放出"の真相、 2014年3月16日(日).
 
http://www.nhk.or.jp/special/detail/2014/0316/
 
http://www.at-douga.com/?p=11050
 文字起しは以下のHP参照。
 
http://d.hatena.ne.jp/cangael/20140321/1395391108
 
http://d.hatena.ne.jp/cangael/20140320/1395273547
 
http://d.hatena.ne.jp/cangael/20140321/1395353417
[23] 新潟県原子力発電所の安全管理に関する技術委員会、2014年2月11日および5月9日一部追加。フィルタべント設備に関する確認事項
 http://www.pref.niigata.lg.jp/HTML_Article/282/188/No.12.pdf
[24] AM-ベント、排熱:畑のたより、環境・核篇:So-netブログ
 
http://hatake-eco-nuclear.blog.so-net.ne.jp/archive/c2304696589-1
[25] 旧原子力安全委員会 原子炉安全基準専門部会 共通問題懇談会 第8回 PSA検討ワーキンググループ「諸外国の格納容器ベントシステムの設備概要」
 
http://www.nsr.go.jp/archive/nsc/senmon/shidai/genshiro_kyoutsu_psa/genshiro_kyoutsu_psa008/msiryo5.pdf
[26] Jiří Duspiva, Comparison of In-Vessel and Ex-Vessel Retention, Nuclear Codes & Standards Workshop,Prague, July 7-8, 2014.
https://www.asme.org/wwwasmeorg/media/ResourceFiles/Events/NuclearCodesStandards/2014PragueWorkshop/Duspiva.pdf
[27] In-Vessel Melt Retention は韓国の改良型PWR(APR1400)でも取り組まれている。このAPR1400は以下の韓国電力公社のサイトによると、韓国の古里(コリ)原子力発電所で2基建設中(2基建設予定)、ハヌル原子力発電所で2基が建設中(2基建設予定)とのことで、進捗状況は古里が完成間近でハヌルは6割とのこと(APR1400はアラブ首長国連邦に輸出予定の原発)。
 
http://cms.khnp.co.kr/eng/nuclear-power-construction-overview/
[28] 韓国とアメリカの共同研究の最終報告、2005年1月. In-Vessel Retention Strategy for High Power Reactors
 
http://www.inl.gov/technicalpublications/documents/3028289.pdf 
[29] 原子力規制委員会記者会見録、2014年7月2日。
 
https://www.nsr.go.jp/kaiken/data/h26fy/20140702sokkiroku.pdf
[30] 原子力百科辞典(ATOMICA) 欧州加圧水炉。
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_Key=02-08-03-05'
[31] V. B. Khabensky et al., Severe accident management concept of the VVER-1000 and justification of corium retention in a crucible-type core catcher, Nuclear Engineering and Technology, Vol.41 No.5, p. 561, June 2009.
http://kns.org/jknsfile/v41/JK0410561.pdf
[32] AGCセラミックス株式会社。「結合耐火物とは」
 
http://www.agcc.jp/2005/material/02_01.html
[33] ニッカトー株式会社 http://www.nikkato.co.jp/
ニューセラミックスと耐火煉瓦の両方の製造を行っている会社でアルミナ、ジルコニア、マグネシアの物性が記載されている。
http://www.nikkato.co.jp/Cera/taika_chara.html?keepThis=true&TB_iframe=true&height=700&width=1010
[34] Saint Petersburg Institute "ATOMENERGOPROEKTATOMENERGOPROEKT” (JSC SPAEP) Main Features of Safety Concept for Modern Design of NPP with High Power VVER Reactors ( AES-2006 Design for Leningrad NPP-2)
 
http://www.ats-fns.fi/index.php?option=com_joomdoc&task=doc_download&gid=89&Itemid=&lang=fi
で検索して、AES-2006 Designをクリックするとダウンロード可能。
[35] 『平成12年度 ICONE-8 に関する報告書、平成13年3月(財)原子力発電技術機構・原子力安全解析所。(2001年3月)
 
http://www.nsr.go.jp/archive/jnes/atom-library/H12_3_42.pdf#search='TROI%E5%AE%9F%E9%A8%93
[36] 泉田新潟県知事のコア・キャッチャーの必要性に言及したインタビュー
http://shanti-phula.net/ja/social/blog/?p=71220
http://ameblo.jp/shizuokaheartnet1/entry-11796449108.html
https://twitter.com/hashtag/%E6%B3%89%E7%94%B0%E7%9F%A5%E4%BA%8B
[37] 東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会最終報告, 2012年.p. 50, pp. 69-73.
http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/icanps/post-2.html
[38] 米国原子力規制委員会(NRC), NUREG/CR-2182(1981), pp.74-120,
http://web.ornl.gov/info/reports/1981/3445600211884.pdf
[39] フランス放射線防護原子力安全研究所(IRSN)の見解.
http://www.afpbb.com/articles/-/2792610?pid=7005562

川内原発の再稼働は許されない

川内原発の再稼働は許されない(pdfファイル

2014年8月25日 福岡核問題研究会

 原子力規制委員会(規制委)は,7月16日,審査を進めてきた九州電力の川内原発1・2号基について「新規制基準を満たしている」とする審査書案を了承した.規制委は,この審査書案についての科学的・技術的問題に限定してのパブリックコメントを募集したが,それは7月17日から8月15日間での30日間という短期間であった.これに対して,当研究会は審査書案の科学的・技術的問題に関連して研究論文を発表するとともに,研究会会員によるパブリックコメントを多数提出し公開してきた.

 電力自由化後には,原発は公的支援をしない限り成り立たないことが明確になってきているのが最近の議論である.それにもかかわらず,安倍政権は,電力自由化後の原発支援の方針を年内にも打ち出そうとしている.原発の運転は,経済性の点からも大いに問題がある.さらに,福島原発事故は未だに収束しておらず,メルトダウンを起こした原子炉がどのような状態になっているかも現時点で明らかでない.福島原発事故の真相究明がなされていない現状では,原発の再稼働が許されないのは当然である.ここでは,川内原発の再稼働をめぐる問題点を数点にわたって指摘しておきたい.

 第一の問題点は,世代間倫理の問題である.私たちは,私たちの子どもたちや孫たちが幸せに生活する地球を思い描き希望する.それと同様に,数十世代あとの子孫たちの幸せな生活を思い描くことができる.原発の再稼働は,私たちの子孫に高レベル放射性廃棄物の処理を押しつけるものである.世代間倫理には「この大地は私たちの子孫からの借りもの」であるという考えが大切であり,環境の保全を心掛けることが肝要である.豊かな地球を将来世代の地球人に渡すためにも,これまで以上に高レベル放射性廃棄物を作り続ける原発の再稼働は許されない.

 第二の問題点は,今回の新規制基準を安倍政権は,「世界最高水準の安全基準」であると,何の根拠もあげることなくお題目のように唱えていることである.今回の新規制基準は,既存の設計に安全対策を追加させただけの対症療法にすぎず,最新技術を設計段階から組み込んだ欧米のものとは大きく異なる.例えば,欧州加圧水型炉(EPR)では装備されているコアキャッチャーや飛行機の衝突対策さえも含まれていない.コアキャッチャーの義務づけがないということは,一度,冷却に失敗すれば,メルトダウンからメルトスルーに至り,空気の入っている格納容器内で水素爆発や一酸化炭素爆発さらには水蒸気爆発の危険が高まるということである(溶融した炉心を貯めた水で受け取るということだから,水蒸気爆発の危険がある).「世界最高水準の安全基準」というお題目は,まったく根拠のないでたらめである.

 第三の問題点は,規制委が「新規制基準を満たしている」とする審査書を提出することで原発再稼働のお先棒を担ごうとしていることである.もともと,規制委は,「国民の生命,健康及び財産の保護,環境の保全」などに資することを目的とし,「専門的知見に基づき中立公正な立場で独立して職権を行使する」委員会として設置されている.つまり,規制委は国民の生命を守るため独立した権限を与えられている.しかし,審査書案で述べていることは,想定した新規制基準に適合しているということだけである.しかもその適合判断の基準が大変甘い.その一つの現れはクロスチェックの問題である.審査書案をみる限り,九州電力が提出したMAAPなどによる数値シミュレーションの結果などに対して,規制委は独立したソフトウェアを使ったクロスチェックを行っていない.このようなクロスチェックなしでは十分な審査と言えないのは当然である.田中委員長は,新規制基準に適合しているとしつつ,「安全だとは言わない」と述べている.つまり,新規制基準に適合していても安全性は保障しないということである.

 第四の問題点は,安倍政権が「安全が確認された原発は再稼働する」としていることである.菅官房長官は,規制委が川内原発についての審査書案を提示した7月16日,安全性を確認した原発を再稼働させる従来の政府方針に変わりはないと改めて示した.つまり,安倍政権は,安全性の判断は規制委に責任があるという立場で動いている.規制委の田中委員長が「安全だとは言わない」とする新規制基準適合をもって「安全が確認された」と言い換える.ある意味で「詐欺行為」といってよいものである.安全性についての責任が曖昧のまま,誰も責任を取らない体制の中で,川内原発の再稼働が行われようとしている.無責任極まりないことである.

 第五の問題点は,九州電力にみられる再稼働に前のめりの態度である.9月末に最終的な審査合格に必要な工事計画の補正申請を行うとしている.再稼働に前のめりになっているのは明らかである.東京電力や関西電力が,3・11以降ガスコンバインドサイクルなどによる火力発電施設の高効率化を急ピッチで進めているのに比較するとき,運転開始から30年を超える「老朽火力」に出力全体の50%近くを頼っている九州電力の取り組みは明らかにバランス感覚に欠けている.また,九州電力は,新規制基準は安全性についての最低限の要求事項に過ぎないことを自覚すべきである.新規制基準で猶予されているからといって,フィルター付きベント装置や免震重要棟のない状態で再稼働を行うのは無謀である.九州電力は,もっと慎重な態度を取るべきである.

 第六の問題点は,規制委が安全な避難計画などを権限外のこととして何らの検討を行っていないことである.米国では,原子力規制委員会(NRC)が避難計画についての評価を行うことになっており,避難計画の策定が原発運転の条件となっている.1988年,新設されたショアハム原発は有効な避難計画を立てることができない中で粘り強い住民運動もあり運転停止・解体された話は有名である.川内原発では30km以内の自治体の有効な避難計画が立てられない状況である.有効な避難計画が存在しないこのような状況の下で再稼働を行うことは,住民無視・人命軽視であり許されない.

 最後に,指摘しておきたいことは,多くの国民の納得が得られない再稼働は民主主義の問題として許されないということである.7月26,27日の朝日新聞の世論調査によると,再稼働反対の割合は59%で,再稼働賛成23%を大きく上回ったという.他の世論調査でもほぼ同様な結果である.このような世論の下で,しかも,安全性についての無責任体制の下で,川内原発の再稼働が強行されるようであれば,日本の民主主義は,国際的に笑い物となるに違いない.

以上

川内原発の審査書案へのパブリックコメント

当研究会のメンバーが川内原発の審査書案へのパブリックコメントを提出しました.参考のためその内容をここに発表しておきます.
Printer friendlyな
pdfファイルをここに置いています.

川内原発の審査書案についてのパブリックコメント
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中西正之(1)

溶融炉芯・コンクリート相互作用 201ページ1.申請内容
(1)『本格納容器破損モードの特徴 原子炉圧力容器から溶融炉心が原子炉格納容器内の床上に流出し、溶融炉心と接触した床のコンクリートが熱分解により浸食され、原子炉格納容器の構造部材の支持機能が喪失し、原子炉格納容器の破損に至る。』と九州電力は説明している。この見解は、高温領域における耐火物技術から専門的にみると、著しい認識の不足である。福島第一原発で過酷事故が発生した時、落下した溶融核燃料がペデスタルのコンクリートを溶かし、どこにあるのかさえ分からない惨状が発生したため、その対策の検討が必要になった。もともと、人類が鉄の近代製錬を行うことができるようになったのは、銑鉄(カーボンの含有量が多く融点が1200℃と低い)を溶かすとき、短時間では溶けない耐火煉瓦の開発に成功できたからである。このことから分かるように、一般に自然に存在する多くの素材は1200℃の溶融金属と接触すると低融物をつくり溶けてしまう。まして、コンクリートは火山岩や石灰岩をポルトランドセメントで固めたものであり、溶融核燃料と反応すると、1200℃以下で簡単に溶ける。また、コンクリート中のポルトランドセメントは水の水和反応で結合されているので、一定量の水分を含んでおり、溶融金属と接触すると、内部水分の蒸気爆発が起こり、爆発したコンクリート塊が周りの機器を破壊する。1200℃以下で簡単に溶けるコンクリートを2600℃の溶融核燃料を受けるペデスタルに使用したことは、原子炉の基本設計の世界的な重大設計ミスであった。そして、1986年にチェルノブイリの4号機で実際に重大事故(過酷事故)が発生し、落下した溶融核燃料がペデスタルのコンクリートを溶かし、コンクリート中に沈下する事故が発生したので、とりあえずの緊急対策として、原子炉の真下にトンネルを掘り、溶融核燃料が地下水まで沈下することは防止できた。そして、ペデスタルをポルトランドセメントコンクリートで築造した大設計ミスに気が付いて、ロシアやヨーロッパでは、コアキヤッチャーへと基本設計が変更されるようになった。しかし、日本では重大事故対策は規制基準外だったので、大設計ミスは問題にならずに、とうとう福島第一原発の重大事故の発生時、溶融核燃料をコンクリート中に沈下させてしまった。福島第一原発の重大事故の発生後、事故調査を行って、新規性基準を策定し、川内原発の新規制基準に係わる適合性審査が行われてきたが、大設計ミスの事は全く検討されず、九州電力は水で溶融核燃料を冷却し、溶融核燃料・コンクリート反応を防止するとしている。新規制基準の適合性に係わる審査には、この基本的な重大設計ミスの検討が行われていない。
202ページ(2)『対策の考え方 溶融炉心を冷却し、溶融炉心によるコンクリート浸食を抑制するために、原炉下部キャビティへ注水する。』と九州電力は説明している。この見解は、金属製錬炉における長年の経験から専門的にみると、著しい認識の不足である。高温度で操業される溶融炉では、内張りの耐火物が溶融物で溶かされて、長期耐用が得らなく、水冷ジャケットを耐火物の裏に設置し、貫流熱を増大して、耐火煉瓦の表面にセルフコーティングを生成させて、内張り耐火物の耐用の延長を図るものが多い。しかし、水冷ジャケットが水漏れし、炉内の溶融物の上に水が大量にたまる場合が有る。金属製錬炉では、比重の重い溶融金属が下部に溜まり、その上部を厚みのあるスラグ層が覆っている。炉内ガスゾーンから水が漏洩する場合、スラグ層の上部に溜まる。スラグの熱伝導率は溶融金属に比べ、著しく小さいので、スラグが固化し、溶融金属から水への大量の伝熱はおこらない。しかし、何らかの原因のトリガリングで固化スラグ層が破けると、溶融金属から水への大量の伝熱が起こり、多くの場合には水蒸気爆発が起きる。第58回適合性に係わる審査の資料2-2-7は「溶融炉心とコンクリートの相互作用について」の報告である。この報告書に、国内外の溶融炉心とコンクリートの相互作用についての実験が記載されている。ここで報告された実験の多くで、コンクリート上に溶融炉心が落下し、溶融炉心とコンクリートの相互作用が起きた時、溶融核燃料が作る溶融プールの周りに軽石状のクレストが覆いかぶさり、クレストは低熱伝導率なので溶融プールから水への大量の伝熱を阻害し、水では溶融核燃料を冷却できないと報告されている。この状態は、金属精錬溶融炉内への水の漏洩と同じである。そして、何らかの原因のトリガリングでクレストが破けると、溶融金属から水への大量の伝熱が起こり、多くの場合には水蒸気爆発が起きると予測される。新規制基準の適合性に係わる審査には、この基本的な検討が行われていない。以上の2点の検討を提言いたします。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
中西正之(2)

原子炉圧力容器外の溶融燃料-冷却材相互作業190から195ページ4-1.2.2.4
191ページ1.(1.)1 九州電力は、『本格納容器破損モードの特徴およびその対策 原子炉圧力容器外のFCIには、衝撃を伴う水蒸気爆発と、溶融炉心から冷却材への伝熱による水蒸気発生に伴う急激な圧力上昇(以下圧力スパイクという)が有るが、水蒸気爆発の発生の可能性は極めて低いと考えられるため、圧力スパイクについてのみ考慮する。』と説明している。
このことについては、原子力規制委員会は新規制基準に係わる適合性審査で厳しく追及している。
 九州電力は第58回原子力発電所の新規制基準適合性に係る審査会合の資料2-2-6で国内外のFCI実験結果を提出したが、これらの実験では、水蒸気爆発が起きている。
 第102回適合性審査とそれに部分的な修正が行われた第108回適合性審査で九電は水蒸気爆発が起きないと説明している。
 『国内外の多くのモデル実験では、確かに水蒸気爆発が起きているが、それらの実験で水蒸気爆発が起きたのはトリガリングを与えた場合だが、実際の炉ではトリガリングが働く可能性は少ないので、水蒸気爆発は起こらないと結論できる。』と説明がされている。
 川内原発の水素爆発防止対策では、水素による爆轟により、格納容器が吹き飛ぶ前に、水素濃度6%で水素を爆発させて、対策を行うとあるが、水素爆発を起こせば、明らかにトリガリングになる。
 また、水中で溶融燃料・コンクリート反応が起きれば、大量のCOガスが発生するのでトリガリングになる。
しかし、九電はキャビティ水は純静定であり、トリガリングとなりうる要素はない』と説明している。
 九州電力は過酷事故の発生時、トリガリングが有れば格納容器内水蒸気爆発が起きるが、トリガリングはモデル実験のためにわざわざ行われたもので、実際の実炉ではトリガリングは起きないと思われる。したがって、過酷事故の発生時、格納容器に水蒸気爆発が起きない事が証明できるとした。
 原子力規制委員会からは、実炉に於いて、どのようなトリガリングが起きるかどうかの検討もしないで、起きることはあり得ないと説明し、過酷事故の発生時、格納容器に水蒸気爆発が起きない事が証明できたとの九電の説明はおかしい。もう一度再検討するように命令を出している。
しかし、193ページの2.審査結果は『格納容器破損モード「原子炉容器外の溶融燃料-冷却材相互作用」において、申請者が水蒸気爆発の発生の可能性は極めて低いとしていることは妥当と判断した』と報告されている。
この検討は適合性審査では少ししか行われていない。
 国内の高温溶融炉の水蒸気爆発の事故調査では、水蒸気爆発が起きるのは、溶融金属が一度に大量に水中に落下する場合、連続して落下しているが大きなトリガリングが有った場合、溶融金属の上部を覆っているスラグの黒皮がトリガリングで破けて、水と溶融金属が急激に接触する場合の3ケースである。
溶融燃料-冷却材相互作用においても、溶融燃料が一度に大量に水中に落下する場合、連続して落下しているが大きなトリガリングが有った場合、溶融燃料を覆っているクレストの黒皮がトリガリングで破けて、水と溶融燃料が急激に接触する場合の3ケースである。しかし、適合性審査では1と3のケースの検討はないし、どのようなトリガリングが予測できるかの検討が無い。
 これらの事を検討すべきである。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
中西正之(3)

「MCCIによる大量のCOの発生の検討が全く行われていない」
MCCIに伴う水素発生199ページ3.(1)
「申請者は、原子炉下部キャビティに十分な水量が確保されていれば、床コンクリートには有意な浸食は発生しないため、それに伴う有意な水素は発生しないとしていた。規制委員会は、知見が少ない溶融核燃料挙動について、不確かさにたいする検討が不足しているてんを指摘し、MCCIの感度解析の結果を踏まえた水素発生について検討することを求めた。申請者は、これに対して以下のように説明した。(1)原子炉下部キャビタィー床面での炉心デブリと原子炉下部キャビティ水の伝熱等のパラメターを組み合わせた場合、MCCIにより発生する水素は、全てジルコニウムに起因するものであり、反応割合は全炉心内のジルコニウム量の約6%である。」と報告している。
 しかし、国会事故調査委員会は、福島第一原発3号機は(ジルカロイ・水反応)による水素爆発だけでは説明できず、コリウムコンクリート反応(MCCI)が大規模に起こり、水素・CO爆発したと考えるべきと指摘していました。又、佐藤暁氏(元米国GE社原子力事業部に勤務)は新規制基準の骨子が発表されたとき、『水素ガスの発生源として、原子炉内でのジルコニウムと水反応が唯一と見倣しているような記述があるが、実際には、原子炉から落下した溶融炉心がコンクリートと化学反応を起こし、水素ガスの他に大量の一酸化炭素も発生しうる。かってはそのような知見も思慮も無かったため、コンクリートに入れる砂利の種類までは仕様として規定しておらず、定かではない。実際の石灰石の混入量によっては、爆発防止対策設備の設計条件を見直す必要もある。』と指摘していた。
コリウムコンクリート反応とは、冷却ができなく成り、2800℃の高温に成って溶けた炉心の核燃料が原子炉圧力容器の底を溶かして、下部のコンクリートの床に落下しコンクリートと反応し、コンクリートが溶ける現象です。その時大量の水素とCOが発生します。COは水素と同じように爆発しますが、カーボンが含まれるので酸素が少ない場合はローソクの炎のような色の爆発をする。
(岩波の科学2014年3月号岡本・中西・三好「炉心溶融物とコンクリートとの相互作用による水素爆発、CO爆発の可能性」)で説明したように、国内の文献ではコリウムコンクリート反応によるCOの発生の報告は少ないが、海外の文献にはたくさんの報告例がある。
又国会事故調査委員会の調査報告書にも、海外の著名な実験報告書が紹介されている。
そして、水中でも溶融炉心はクレストに保温されて、コンクリートと反応し、MCCIは進行する。
「炉心溶融物とコンクリートとの相互作用による水素爆発、CO爆発の可能性」に示すように、コンクリート骨材に含まれるCaCO3は高温度の炉心溶融物に接触して高温度になると、CaOとCO2に分解される。
CO2は高温度の炉心溶融物に接触して高温度になるとCOとO2に分解し、大量のCOを発生する。
川内原発の新規制基準の適合性に係わる適合性審議および審査書案では、全く審議されていない。最大事故(過酷事故)の発生時、水素濃度計で水素の濃度を計測し、爆轟前の判断でイグナイタに点火し、爆発させる時、熱伝導率が大きくことなるCOを感知せずに爆発させて、COが同時爆発して爆轟が起これば、川内原発の格納容器と原子炉建屋は崩壊し、溶融核燃料が野ざらしになり、チェルノブイリ級の放射性物質の飛散となる。
国内の論文を無視せずに、もっと審議が必要である。
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中西正之(4)

水素燃焼ページ195 4-1.2.5
申請者は、本格納容器破損モードの特徴及びその対策を
『1.(1).2 対策の考え方 水素の爆轟を防止するためには、早期に発生する水素および継続的に発生する水素を処理し原子格納容器の水素濃度を低減する必要がある。また、MCCIに伴う水素発生に対しては、原子炉下部キャビティへ注水する必要がある。
3 初期の対策 PWRプラントは原子炉格納容器自由体積が大きい事により水素濃度が高濃度にならないという特徴がある。その上で、主に炉心損傷時に発生した水素の処理を行う。このため、イグナイタを重大事故対策設備として新たに整備する。』
と説明している。
 「PWRプラントは原子炉格納容器自由体積が大きい事により水素濃度が高濃度にならないという特徴がある」と説明しているが、これは明らかな間違いである。
 197ページ(3)a.本格納容器損傷モードの有効性評価では、MAAPで得られた水素発生量を原子炉圧力容器内の全ジルコニウムの75%が反応するように補整して評価する。感度解析のパラメターを組み合わせた場合、MCCIに伴い発生する水素は、全炉心内のジルコニウムの約6%である。このことを考慮し、炉心内の全ジルコニウムが水と反応するとしても、ドライ条件に換算した原子炉格納容器内水素濃度は最大12.6%である。
 福島第一原発の3号機のような爆轟が起きるのは、13%以上だから、川内原発に爆轟が起きて格納容器と原子炉建屋が消失し、溶融核燃料がのざらしになるまでの余裕は0.4%である。従って、「PWRプラントは原子炉格納容器自由体積が大きい事により水素濃度が高濃度にならないという特徴がある」との説明は間違っており、フィルター付ベントが必要な事は明らかである。
 そして、爆轟防止対策として、イグナイタで水素燃焼を行うとしている。水素の爆発限界は4.0%から75.0%なの水素濃度が6%の時、イグナイタで着火して水素燃焼を行うとしていることは間違いである。
 この審査書案そのものが、水素燃焼として論議している事が間違いである。燃焼は純静的に酸素と水素が結合することであり、爆燃は燃焼波の前面の伝達速度が音速以下で、爆轟は燃焼波の前面の伝達速度が音速以上の場合であり、何れも超短時間の酸素と水素の結合である。
 イグナイタの水素濃度6%での着火は、爆燃を引き起こし、水蒸気爆発のトリガリングとなる危険性が大きい。
 フィルター付ベントの無い川内原発を再稼働することは、格納容器と原子炉建屋が消失する危険性が大きいので、もっと詳細な検討が必要である。
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中西正之(5)

201ページ溶融炉芯・コンクリート相互作用 
1.申請内容
(1)『本格納容器破損モードの特徴 原子炉圧力容器から溶融炉心が原子炉格納容器内の床上に流出し、溶融炉心と接触した床のコンクリートが熱分解により浸食され、原子炉格納容器の構造部材の支持機能が喪失し、原子炉格納容器の破損に至る。』と九州電力は説明している。
202ページ(2)『対策の考え方 溶融炉心を冷却し、溶融炉心によるコンクリート浸食を抑制するために、原炉下部キャビティへ注水する。』と九州電力は説明している。
 しかし、これは世界的な耐火物技術の専門的見解からは大きな疑問である。
 第102回新規適合性に係わる審査会合の議事録24ページに、北海道電力の長沢氏は「あと、二つ目でございますが、国内PWRでは考慮不要な現象ということで、こちらにつきましては、「溶融炉心・セラミック相互作用」ということで、コアキャッチャ、これが国内のPWRにつきましてはコアキャッチャがございませんので、そういったところとしては、現象としては挙げられないと考えているものでございます。」と説明しているが、この見解は九州電力、北海道電力、関西電力、四国電力の共通の見解である。
 チェルノブイリ原発の過酷事故を経験したロシアやヨーロッパでは、「溶融炉心・セラミック相互作用」を良く研究し、コアキャッチャ対策が最良と認定した。
 また、国内外の「MCCI(溶融炉心・コンクリート反応)試験の多くの実験設備はコンクリートの試験片をセットするためにマグネシア(MgO)煉瓦が使用されている。
 そして、ヨーロッパで建設が進んでいるコアキャッチャのロートや樋にもマグネシア(MgO)煉瓦が使用されている。マグネシア(MgO)煉瓦は低価格で有るが、「溶融炉心・セラミック相互作用」の少ない煉瓦である事は良く知られている。
 しかし、使用条件によっては、欠点もありその他の耐火物の「MCCI(溶融炉心・コンクリート反応)も良く研究されている。
 ところが、上記4電力会社は、国内のPWRにつきましてはコアキャッチャが無いので「溶融炉心・セラミック相互作用」の検討の必要はないという、極めて無責任な説明を行っている。
 ロシアやヨーロッパの原子炉はコアキャッチャ対策を取っているので、「溶融炉心・セラミック相互作用」の検討を行っているが、日本のPWR原子炉はロシアやヨーロッパ並の安全対策は取らないので、初めから「溶融炉心・セラミック相互作用」の検討の必要はないと説明している。
 川内原発の審査書案は、「溶融炉心・セラミック相互作用」の検討の必要はないとの説明を承認しているが、極めて検討不十分と考えられ、詳細な検討をする必要がある。
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R.O.(1)

意見書1 4-1.2.2.4 (p.190-195)
 森山清史らの論文「軽水炉シビアアクシデント時の炉外水蒸気爆発による格納容器破損確率の評価」において、水蒸気爆発による格納容器破損確率の評価がなされている。これらの確率の絶対値は必ずしも定量的な意味をもつとは限らないが、確率としては決して小さい値とは言えない。そうであれば、トリガリングが起きた場合、水蒸気爆発の可能性は低くはないことを意味する。
上述の推測が議論されたため、新規制基準適合性に係る第102回審査会合(2014年4月3日)の資料1-2-7の3.2-10において、事業者は、モデル実験結果を分析する中で、実機において、キャビティ水は準静的であり外部トリガリングとなり得る要素はなく、実機において大規模な水蒸気爆発に至る可能性は極めて小さいと考えられる、としている。
 しかし、過酷事故の際には極限的状況が起こると考えるべきで、キャビティ水は準静的であるとは限らないだろう。さらに,過酷事故が起きた場合、水素爆発などの外部トリガリングの候補はあると考える方が現実的ではないだろうか。
 日本の事業者や原子力規制委員会の見解と対照的に、セーガル編集による過酷事故の国際会議報告(2012年)には、トリガリングは外部トリガリングだけではなく、自発的トリガリングもあることを議論し、実際の状況では水蒸気爆発が起こるかどうか予測することは現実的に不可能で、溶融核燃料と冷却水の相互作用の間、トリガリング確率は1に等しく、(水蒸気)爆発が起こることを前提としている、と記されている。このような認識の下で、ヨーロッパやロシアでは過酷事故対策として、キャビティに水を緊急に張るのではなく、コア・キャッチャーを設置する方針が選択されと思われる。しかし、事業者は特異的で、危険な対応をしているにも拘わらず、原子力規制委員会がこれを最終的には認可したことは誤りであると言わざるをえない。


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R.O.(2)

意見書2 4-1.2. 2.5(pp.195-201)
 川内原発はフィルター付きベントの設備を持っていなくて、格納容器内の窒素封入もないので、過酷事故が起きると、新規制基準の水素濃度発生量は、水・ジルコニウム反応が75%起きたとした時、9.7%の水素濃度に成ると記されている。
 また、コリウム・コンクリート反応からも全炉心ジルコニウムの6%の反応の水素が出るので、水・ジルコニウム反応が100%起きたとした時、12.6%の水素濃度に成ると記されている。
 新規制基準の適合性審査で水素濃度が13%だから、まだ0.4%の余裕が有るとすることが問題と指摘されたので、念のためにイグナイタ(電気式点火装置)の追加取り付けを行うことにしたと記されている。
 事業者はあくまで、イグナイタで水素を燃焼させると主張している。
しかし水素の爆発限界は4%から75%であるから、イグナイタで点火すると、格納容器内にガス爆発が起こる。また、このガス爆発は水蒸気爆発のトリガリングになる可能性が高く、水蒸気爆発との複合爆発の可能性が大きくなる。さらに、格納容器の下部キャビティのコンクリートの骨材が石灰岩系であれば、コリウム・コンクリート反応の進行度合いによっては、CO爆発の可能性もある。
 原子力産業における水素爆発の危険性についてシェファード (米国カリフォルニア工科大学)は加圧水型および沸騰水型の原子炉の学ぶべき教訓として以下の諸点を列挙している。
1)爆燃はスケールに相対的に独立に発生する:可燃限界は構成にのみ依存する。
2)爆燃から爆轟への移行はスケールに強く依存するこ と:爆轟限界は形状、サイズ、発火源に強く依存する。
3)格納容器形状における爆燃から爆轟への移行の危険性を定量化するためには大規模実験が必要であること。
4)爆轟の開始と伝播は、小規模の場合より大規模の場合には、非常に低い濃度で起こりうる。すなわち、水蒸気濃度が10%の場合、水素濃度10.5%で水素空気の爆轟、水素濃度11%でDDTが発生する。
シェファードの見解、特に4)を裏付けるように、Dorofeevらによる大規模の実験(1997年)は水素濃度が約10%から77%までの水素-空気混合ガスに対して,爆轟が起こることを示した。
 事業者が、一般の産業技術の現場でも回避されるべき、爆発限界内のガスに平気で点火と爆発を行うとしている方針を原子力規制委員会が認可したことは誤りであると言わざるを得ない。
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R.O.(3)

意見書3 4-1.2.2.6 (pp.201-205)
 溶融核燃料と格納容器の下部キャビティのコンクリートの相互作用により、コンクリートの骨材が石灰岩系であれば、水素だけではなく、CO2、COも大量に発生することは、一般にはほとんど知られていないが、原子力研究者の間では従前より認識され、徹底的に研究されてきた。
 事業者もこの事実を知ってはいるが、コア-キャッチャーなどの新設への投入経費を惜しみ、過酷事故の際には、格納容器の下部キャビティへの注水で対処するという方針にしたと推測される。そして、審査書において、格納容器の下部キャビティへの注水開始遅れの影響などについて、MAAP解析コードにより、パラメタを保守的に設定した上でも原子炉格納容器の構造部材の支持機能に与える影響がないことを確認した、とされている。
 しかし、旧原子力安全・保安院が、福島事故後の2011年6月に、『東京電力福島第1原発事故に係る1号機、2号機、3号機の炉心の状態に関する評価のクロスチェック解析』という資料を公表している。東電はMAAPで解析して、それを保安院がJNESの支援を受けて別の解析コード(MELCOR)によるクロスチェックを行った結果、地震発生後の1号機原子炉圧力容器の破損時間はMAAPでは約15時間、MELCORでは約5時間と、3倍の差異が生じた。
 従って、事業者によるMAAP解析コードによる評価だけで, 別の解析コードによるクロスチェック無しでは、原子力規制委員会の独立性も専門性も示されておらず、MAAP解析コードによる感度評価も信頼性が高いとは言えない、と言わざるを得ない。
本年8月6日に公表された別の事業者による解析によると、福島第1原発の3号機の炉心溶融は従前の解析に比べて、5時間も早かったということは、前述の疑問を裏付けると思われる。
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R.O.(4)

意見書4  審査書に記述なし
1.重大事故=過酷事故=設計想定外事故が起こることを前提とすることは工学・技術の本質である設計の基本の誤りを論理的には意味する。従って、過酷事故対策としては、自動的に作動し、制御されるような受動的設備を常設することを優先すべきである。審査書において、過酷事故対策が極限的状況における緊急対応要員の対応に過度に依拠し、作業遂行に対して無理な時間制限を設定していることは不合理である。
 しかも、深刻な事故シナリオが欠如するだけではなく、いったん想定した事故シナリオの評価について、大雑把なさじ加減をしていることは、我田引水的で、OECD/NEO報告No.7161(2013年)が警告している自己欺瞞的な満足に陥っているように思われ、願望的思考の一例であると言わざるを得ない。

2.高レベル放射性廃棄物の管理法や場所も確定せずにその蓄積を継続することの反倫理性などを不問にして、審査書の記載事項についてのみ、かつ科学的、技術的意見に限定したことは科学的・技術的システムの社会的受容を決定するのは科学者、技術者ではなく、一般市民であるという民主主義からの逸脱である。さらに、審査書の基本思想、方法論的立場へへの意見を拒むという姿勢は自由な相互批判を認めるという科学、技術の伝統からも逸脱している。
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豊島耕一

4-1.2.2.5の「水素爆発」の項(195ページ)および4-1.2.2.6の「溶融炉心・コンクリート相互作用」の項(201ページ)について意見を述べる.

その前に,この意見募集に当たり規制委員会は「科学的・技術的な」内容に限るとしている点に関して注意を喚起したい.

まず,これから少しでも外れた記述部分は,「御意見提出上の注意」にある「科学的・技術的判断と無関係」,あるいは「思想等の宣伝」であるとして,(この段落も含め)その部分を削除して公表される懸念がある.しかしそれは極めて不当であることを先ず指摘しておきたい.

そして,規制委員会による募集意見に対するこの制約は,再稼働の判断が規制委員会の適否判断だけでは完成しないことも意味するものである.つまり,原発という規模とリスクの双方において巨大な事業の可否が「科学的・技術的な」点だけで判断できるものであるはずはなく,倫理問題や経済性など,さまざまの価値観の尺度に照らされなければならないことは自明だからである.

では本論に入る.

1.「水素爆発」の項(195ページから)について
(1)爆轟条件の検討が不十分である
水素濃度の空間的不均一性についての検討が十分に行われているかどうか不明である.不均一性については,わずかに「頂部に成層化する可能性」(199ページ)を述べているのみである.もし,センサ部分の濃度が爆轟条件を下回っているがイグナイタ部分またはそれに近接する部分がこの条件を超えているような場合には,イグナイタは文字通り爆轟の点火装置になってしまう.
また,下記の(3)で述べるようにコンクリートの浸食厚評価に問題があるため,当然MCCI(溶融炉心・コンクリート相互作用)で発生する水素の量についても疑問が生じる.

(2)水蒸気爆発について触れていない
前節「原子炉圧力容器外の溶融燃料-冷却材相互作用」で水蒸気爆発の問題を議論しているが(この内容にも問題がある),しかしその「冷却剤」が本節で述べられた「原子炉下部キャビティへ注水」された水とサブクール度などの条件が同等かについて述べられていない.このため前節の議論がここでも有効かどうか不明である.

2.「溶融炉心・コンクリート相互作用」の項(201ページから)について
(3)非科学的,曖昧な表現とコンクリートの浸食厚
203ページ3行に「溶融炉心の崩壊熱は除去される」とあるが,単なる高温物体ではなく継続的に発熱を続ける物体について,時間スケールも示さずにこのように述べても意味をなさない.すなわち,少なくとも「x分でT度以下になり,y時間まではこの温度を超えない」というような記述が最低限必要であるが,それが見当たらない.したがって続くコンクリートの浸食厚についても何らの根拠を与えない.数値シミュレーションにおいては溶融炉心の発熱は当然考慮されているであろうが,それが文書に反映しないのでは評価に値しない.崩壊熱が十分に小さくなる時間まで熱の「除去」が維持されるのかも当然不明である.
以上のような申請者の記述に対して,規制委員会の何らの批判やコメントが見当たらない.
関連して,同ページ下から10行目に「炉心崩壊熱の変動」という言葉があるが,この「変動」は不確かさを意味すると思われるが,むしろ時間的変動と誤解(?)しやすい.

(4)MCCIによる一酸化炭素発生の無視
コンクリートには石灰石に由来する炭素が含まれるため,MCCIでは水素だけではなく大量の一酸化炭素発生(CO)が予想される.しかし本審査書では全くこれについて触れていない(一酸化炭素発生,COのどの語も一度も使われていない).発生量の評価以前の段階であり,本審査書案の重大な欠陥である.

3.上記二項に共通する問題
規制委員会の重要な判断根拠に対するリファレンスがほとんど示されていない.仮に会議録やその提出資料にあるとしても,その指示なしには検索不能である.不親切さとしては許容範囲を超えており,「ない」ものと見なさざるを得ない.そのなかでも特に目立つのは,これらの事象の解析に申請者は計算コードMAAPを使ったとのことであるが,規制委員会自身による再計算,あるいは独立した計算コードによるチェックなどが行われたかどうかが記述がなく不明なことである.記述がないということは行われていないと判断するほかはない.
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北岡逸人(1)

「原子力発電所の火山影響評価ガイド(火山ガイド)」について
該当箇所 1はじめに 2.判断基準及び審査方針(2頁)
意見:
原子力発電所の火山影響を評価するにあたって、規制委員会は「火山ガイド」を参照したとのことですが、それは必要十分な評価方法ではないと思われます。よって、九州電力の火山影響に関する対処方針の妥当性は、本審査書において確認されていないと考えます。
理由:
 福島原発の事故の教訓は数多く指摘されていますが、その最大のものは「めったに起きない天災への備えが不十分であったこと」とみなされているのではないかと思われます。過去に起きたことは間違いないし、将来にも起きるであろうことはまず100%確実であるが、発生時期と規模等の予測及び対処の極めて難しい自然現象があります。日本列島においては大地震、大津波もありますが、「大規模な火山活動」を忘れるわけにはいきません。
 その点、最近日本火山学会が「原子力問題対応委員会」を設立して活動されていますが、国内はもとより世界中の火山学者等の知見をもってしても、火山活動の規模や発生時期等の予測(と対処)は極めて困難な作業ではないでしょうか。
 私は川内原発に数キロと近い地点にある、火砕流の露頭現場を視察し堆積物等を観察してきましたが、川内原発における最大の自然の脅威は火山活動ではないかと思いました。
 原発に重大な影響を及ぼすほどの火山活動が近い将来に起こりうるならば、原発事故を心配する前に火山による壊滅的な被害を想定し備える方が先であるとの意見があります。確かに大規模な火山活動だけでもその破壊力はすさまじいものがあり、現状の原子力防災計画以上の備えとその計画対象地域の拡大が必要でしょう。
 しかし、ここで福島事故の教訓を再度思い起こす時、「自然災害と原子力災害の複合災害」という重大なキーワードが見つかるのではないでしょうか。自然災害、もしくは原子力災害だけでも備えることや対処することが難しく大変であるのに、それらが同時に発生した場合に、どれほどにその困難さと悲惨さを増すことになるのか、ということであります。
 例えば、勢いよく高く立ちのぼる火山の噴出物等に熱気による上昇気流に後押しされて、原発事故で放出された放射性プルーム(放射性雲)等はより高く勢いよく広範囲に送られ、火山灰等と反応したり付着等したりした原発からの放射能(放射性物質)は、「放射能の灰」として原発より相当に遠くまで拡散し堆積し、除染をより困難にする可能性があります。
 よって、311の教訓を踏まえた川内原発の審査では、これまでほとんど重視されてこなかった「原発における火山活動の影響」と、「火山による災害と原子力災害の複合災害」を想定することが、(川内原発の立地条件をふまえれば)最重要課題であると判断します。
その点、本審査で参照した火山ガイドは、「火山の活動時期が周期的であるとの前提(希望的観測)の下に、これまでの(乏しい)知見や今後のモニタリング活動等により、将来の火山活動の時期や規模を推測できる」というものです。しかし、それは国内外の多くの火山学者らの同意出来ない非科学的で楽観的過ぎる方針のようです。そもそも、川内原発の審査において複数の(国内外の)火山学者らの参加が無いことは見過ごせない過ちです。
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北岡逸人(2)

燃料デブリの再臨界リスクについて
該当箇所 不明
意見:
核燃料が溶融して原子炉を溶かして落下していった場合、核物質等の量や形状によっては再臨界の危険性があるのではないでしょうか? (本審査では再臨界のリスクは全く検討されていないようですが、再臨界のリスクが全く無いと想定しているのでしょうか?)
理由:
現在福島原発で行方不明となっている溶け落ちた核燃料について、どのようにして(再臨界を防ぎながら)安全・確実に回収できるかを、政府の関係機関で調査検討しています。 それというのも、通常の燃料の最小臨界量が数十キログラムであるのに、数十トン単位の燃料デブリ(溶けた燃料が原子炉の構造材や炉心を格納している格納容器のコンクリート等を溶かし、これらと混合することで出来た様々な組成の物質)が存在するからです。 福島原発の中でどのような状態になっているか依然不明ですが、海外の燃料デブリを模擬した実験によると、高温の溶岩に似た振る舞いをしている映像もあり、軽石の様に発泡して固化しているかもしれません。もしくは、燃料デブリが落ちた先に水があった場合は、粒子状に固まりながら多くの隙間を持つ状態で堆積するかもしれません。 燃料デブリの内部の隙間に(中性子の減速材となる)水が入り込んでいる場合、より再臨界し易い条件が満たされるかもしれません。 審査書の内容は再臨界が起きた場合には全く違う条件が生じて、考慮しなければならない事項(安全対策の前提)が変わってしまいます。そうなると、再臨界を考慮していない安全対策の妥当性は意味を失ってしまうと考えられます。 再臨界によって発熱量や放射線が桁違いに増加することはもちろん、爆発的に燃料デブリが砕け散って衝撃波が発生するかもしれません。爆発しない場合でも発生するガスなどが(核分裂反応やコンクリート等との反応促進で)増加することなど、水蒸気爆発の引き金になるような現象が起きうると思われます。 他にも再臨界が起きた場合は様々な問題が発生しうるので、事故の収拾と外部への放射能拡散を抑制するのが非常に難しくなります。福
島で実際に起きている状況において再臨界リスクを検討しているのに、川内原発の審査書で再臨界を検討していない事情が理解できません。
参考リンク:
1-15 損傷・溶融した燃料の再臨界を防ぐために
-コンクリートを含む燃料デブリの臨界特性の検討-
http://jolisfukyu.tokai-sc.jaea.go.jp/fukyu/mirai/2013/1_15.html
燃料デブリの特性把握 - 日本原子力研究開発機構
http://www.jaea.go.jp/04/ntokai/fukushima/fukushima_01.html
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北岡逸人(3)

太陽活動の原子力発電所への影響について
該当箇所 1はじめに 2.判断基準及び審査方針(2頁)
意見:
本審査では「太陽活動の原子力発電所への影響」は考慮されていないようですが、原子力発電所の脅威となりうる太陽活動が、発生する可能性を無視して良いのでしょうか?
理由:
 NRC(アメリカ合衆国原子力規制委員会)などは、太陽活動が原子力発電所に脅威となりうる可能性について、関係団体等と公式会合で議論しています。
 それというのも、1989年にカナダ・ケベック州で太陽フレア(太陽面爆発)の影響で大停電が起きるなど、電力関連設備などにかなりの被害が発生しているからです(311で外部電源喪失事故の脅威が明らかになったことも影響している模様)。それでも、1989年のフレアは年に数回は発生している程度(X5弱)の規模で、その数十~数百倍の規模の(X100やX1000の)スーパーフレアが起きる可能性が専門家より指摘されています。
 NRCが太陽活動の影響についても考えているのは、1989年のカナダでの大停電がアメリカの一部にも及んでいた事情が影響しているのかもしれません。しかし、太陽活動の影響は日本列島でも重大な脅威となりうる現象なので、規制委員会としても「想定内」の課題とする必要性があると考えます。

NRC等による会合の記録(06/15/2012開催のJoint Meeting )
http://www.nrc.gov/reading-rm/doc-collections/commission/tr/2012/
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北岡逸人(4)

水素・水蒸気・CO(一酸化炭素)の爆発(爆轟)と、それらの複合爆発について
該当箇所 4-1.2.2 格納容器破損防止対策(170頁)など
意見:
水素爆発の対策が不十分ではないでしょうか。水素爆発以外の爆発現象についての検討や対策が足りないのではないでしょうか(複合爆発の危険性も考慮しているのでしょうか)。
理由:
・水素濃度を測定するとありますが、どこでどの様に(合計何か所で)測定するのかを、審査で確認しているのか不明です。水素濃度は軽い水素の性質と格納容器内の熱や気流等の偏在により、(均一ではなく)非常に複雑な濃度差が生じる可能性があると予想されます。
・水素の発生源は審査書に記載されているもの以外に、原子炉等の鉄が高温下で水蒸気と接触しても発生すると予測されていますが、発生量などを検討して確認したのか不明です。
・COなどの爆発性ガスの発生も予測されますが、濃度測定をすることが記載されていません。福島原発でも国内外の専門家などはCO爆発も起きたと考えられることを、状況証拠的に推測して指摘しています(爆発のタイミングや場所に破壊力や炎の色等の違いによる)。
・水蒸気爆発が発生する可能性は極めて低いので、考慮しなくて良いとしたようですが、そもそも原発事故は大地震で発生する可能性が高いと考えられます。しかし、余震(地震動)が水蒸気爆発の引き金(トリガリング)になる恐れがないことが確認されていません。
・複雑な現象が同時並行で起きる原発事故時の格納容器内は、種類の違う爆発性の気体が発生し水蒸気爆発の危険性もあります(核物質の再臨界リスクもあります)。何らかのトリガリングが爆発を引き起こした場合、他の爆発現象を誘発したり燃焼速度を加速して爆轟に至らせる恐れもあります。福島原発事故でそうした複合爆発が発生した可能性が指摘されています。しかし、本審査では複合爆発の可能性について検討していないようです。
・格納容器に窒素を充填しておく爆発対策もありえますが、検討していないようです(窒素については、液体窒素を気化させて原子炉の冷却に使う方法を検討しても良いはずです)。
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三好永作

以下のように川内原発の再稼働審査の適合判断には大きな疑問を感じます.
(1)有効な避難計画について
 まずはじめに,今回の審査に過酷事故時における有効な避難計画についての項目がないことは重大問題である.現に川内原発30km圏内の市町村において有効な避難計画が立てられていないことを勘案すれば,実際問題として,川内原発の再稼働は当面認められないことは言うまでもないと考える.しかし,ことではこの問題はこれ以上触れないで,以下に2,3の科学的・技術的問題について論ずる.
(2)基準地震動について
 科学的・技術的問題点の第一は,想定された規制基準が余りにも低すぎることである.川内原発は,当初,想定地震動を540ガルとしていたが,それを620ガルに引き上げた(p.20).この620ガルという基準地震動は,2008年の岩手・宮城内陸地震で観測した最大地震動4022ガルや2011年の東日本大震災での2933ガル,さらに,2007年の中越沖地震の2058ガルなどに比較して余りにも低すぎる.日本は地震大国であり,どこでも直下型の地震があり得ることは,現代の地震学の常識である.620ガルの基準地震動で十分であると根拠はどこにも存在しないと考える.620ガル以上の地震は起きない(考えない)というのは新たな「安全神話」である.
(3)水素爆発について
 水素爆発に関連して,ジルコニウム全量が水(水蒸気)と反応したとしても格納容器内の水素濃度は約12.6 vol%となり,格納容器破損防止対策の評価項目(f)「原子炉格納容器が破損する可能性のある水素の爆轟を防止すること(水素濃度がドライ条件に換算して13vol%以下又は酸素濃度が5vol%以下であること)」を満足している(p.197)としている.この想定は,2重3重に楽観的であると言わざるを得ない.まず,溶融した炉心の中で高温の水蒸気と反応する金属をジルコニウムとのみとしているが,溶融した炉心の中には圧力容器内で溶融させられた鉄を含み,鉄も高温の水蒸気と反応して水素を発生することが知られている.また,MCCIにより発生する水素や一酸化炭素についての見積もりが不十分である.さらに,水素の爆轟の下限を13%としているが,条件によっては水素濃度が10vol%(ドライ条件)でも爆轟が起きることが報告されており,評価項目(f)自身が確定したものではなく不確かであるということである.最後に,ここでの水素濃度は格納容器内で均一であると仮定されたものである.しかし,これらの化学反応が短時間で起きることと,水素ガスが空気などに比較して極めて軽いものであることを考えれば,格納容器内の水素濃度が均一であるということを想定することは余りにも乱暴なことであると言わざるを得ない.
(4)クロスチェックについて
 前項の水素濃度の九州電力のモデル計算にはMAAPが使われている.しかし,このMAAPという計算コードはさまざまな欠点が指摘されている計算ソフトである.このMAAPによる計算結果は他の計算ソフトによる計算などによる異なる角度からの検討が必要である.このような異なる角度からの検討(クロスチェック)が行われた形跡が審査書の中には読み取れない.このようなクロスチェックがない審査は,信頼性に欠けると断言せざるをえない.
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森永 徹

61ページ 3-4.2.2 火山の影響に対する設計方針に関する意見

 九電は川内原発に甚大な被害をもたらす姶良カルデラ等の破局的噴火の平均発生間隔を9万年とし、原発運用期間中の破局的噴火の可能性は十分低い、また噴火可能性のモニタリングで予知可能であり、危険性がある場合には原子炉の停止、燃料体の搬出を行なうとしており(p.63~64)、規制委もこれを妥当とした。以下、これらの問題点を指摘したい。
 まず破局的噴火の平均発生間隔であるが、姶良カルデラは80~100万年前に活動期に入り、10万年前以降は爆発的噴火が頻発する活発な活動期に入っているとされる(長岡・他,地質学雑誌.2001)。九電のいう平均発生間隔9万年は10万年前以前も含めた平均であり、活発な活動期に入った現在にそれを適用するのは危険である。
 また、姶良火砕物の調査から、10万年前以降の姶良カルデラの噴火は、8.6~9万年前、6万年前、3.3~3.9万年前、3.1万年前、2.9万年前にあったとされる (Sekiguchi, et al.,American Geophysical Union, Fall Meeting.2007)。さらに、1.9万年前 (奥野,第四紀研究.2002)、 1.6万年前 (亀山,他,第四紀研究.2005) の噴火の指摘もみられる。少なくとも10万年間に7回は噴火している。つまり、噴火自体は9万年より、相当短い間隔で発生しているわけである。これらすべてが破局的噴火ではないが、活発な活動期に入ったことを考慮すると、次の噴火が破局的噴火ではないと言い切ることはできない。
次に、噴火のモニタリングが可能かどうかという点である。九電は既存の気象庁や国土地理院等の観測網、桜島3ヶ所を含む5ヶ所の地殻変動観測点、桜島2ヶ所を含む4ヶ所の地震観測点の観測データから、モニタリングが可能としている (九州電力株式会社:川内原子力発電所・火山影響評価について〈コメント回答〉.平成26年3月19日,p.38)。
 確かに、十分な観測体制がある陸上の火山であれば、かなりの確率で噴火の予知が可能であるとされる。実際、姶良カルデラの後カルデラ火山である桜島ではそうであるとされるが、一方で大正噴火のような大噴火の予知は別問題だとされる (井田,日本物理學會誌.1989)。つまり、小噴火より、大噴火の予知の方が困難であるということである。
 また、姶良カルデラでは顕著な前兆現象はないとされる (小林,他.京都大学防災研究所年報.2010)。したがって、予測のためには精密な観測体制が必要となる。しかし、九電は既存の観測体制を利用するのみである。陸上の火山では山体の傾斜計、体積歪計、伸縮計、電磁気的観測、火山ガス分析等により、はじめて噴火の予知が可能となる (井田,前掲)。姶良カルデラは海底カルデラであるにもかかわらず、海底にこれらの観測装置を設置するという計画は言及されていない。さらに、桜島は姶良カルデラの後カルデラ火山であるが、桜島火山と姶良カルデラのマグマ溜まりは別である可能性も指摘されている (小林,他.前掲)。そうだとすれば、姶良カルデラの地殻変動観測点、地震観測点ともに2ヶ所しかないということになる。海底には観測点はない、地上も2ヶ所しかないという状態でも予知は可能というのであろうか。
 さらに、九電は危険性があれば燃料体の搬出を行なうとしているが、その搬出先を確保しているという記述は見られない。危険性が迫ってから、搬出先を探すというのでは時間的に間に合わない。机上の空論である。
 福島原発事故の教訓は、「最大想定事故(Maximum Credible Accident)」(Lubarsky & Connolley, National Advisory Committee for Aeronautics・Research Memoramdum for The U.S. Atomic Energy Commission.1957) を考慮すべきということではなかったのだろうか。貞観津波(869年)は、仙台平野南部で3~4km、南相馬市で少なくとも1.5kmの遡上距離を持っていたとされ(澤井,他.地質ニュース.2006.および 宍倉,他.AFERC NEWS.2010)、明治三陸津波(1892年)の浸水標高は大船渡市大久保で38.2m、根岬先端付近で32.6mであったとされ(都司,歴史地震.2007)、福島原発でも当然想定されるべきであった。
 全国危険物安全協会の1990年の危険物安全週間の標語に「“まさか”より “もしも”で守ろう 危険物」というのがある。これは最大想定事故を考慮して、事故防止を図ろうというものである。原子力規制委員会におかれてもこうした精神で厳密な審査をして頂きたい。

<引用文献>
○長岡信治,他:10 万〜3 万年前の姶良力ルデラ火山のテフラ層序と噴火史.地質学雑誌.107(7), 432−450 (2001).
○Sekiguchi, Y,et al.:Precursory magma activities leading to Aira caldera-forming eruptions in southern Kyushu, Japan.American Geophysical Union, Fall Meeting 2007, abstract #V13C-1486.
○奥野 充:南九州に分布する最近約3万年間のテフラの年代学的研究.第四紀研究.41(4), 225-236 (2002).
○亀山宗彦,他:姶良カルデラ堆積物の層序と年代について-鹿児島県新島(燃島)に基づく研究-.第四紀研究。44(1), 15-29 (2005).
○小林哲夫,他:大規模カルデラ噴火の前兆現象-喜界カルデラと姶良カルデラ-.京都大学防災研究所年報.55B, 269-275 (2010).
○Lubarsky B. & Connolley D.J. (Ed.):National Advisory Committee for Aeronautics ・Research Memoramdum for The U.S. Atomic Energy Commission.“NACA Zero Power Reactor Facility Hazards Summary”.(1957).
○井田喜明:火山噴火予知の物理学.日本物理學會誌.44(11), 809-815 (1989).
○澤井祐紀,他:仙台平野の堆積物に記録され歴史時代の巨大津波 –1611年慶長津波と869年貞観津波の浸水域–.地質ニュース (産総研:地質調査総合センター), 624号, 36‐41 (2006).
○宍倉正展,他:平安の人々が見た巨大津波を再現する.AFERC NEWS (産総研:活断層・地震研究センター),No.16, 1‐10 (2010).
○都司嘉宣:大船渡市の津波対策~江戸時代までの三陸・遠地津波を考慮して~.歴史地震,第22号, 13‐18 (2007).
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佐藤敦子(2014.8.14)

4点について述べます。
1、 川内原発が建つ場所は、活断層の真上という疑い
川内原子力発電所(以下、川内原発)正面ゲート脇に池がありますが、この池のすぐ先にもう1つ池が見えます。距離的には約500m、辿っていくと更にその先に小さな池が2つあり、門前の池を合わせると合計4個の池がごく近い距離にライン状に並んでいるのが確認できます。ライン状の特徴的な形状は、過去の活断層の活動よって形成されたものと思われます。阿蘇山の過去の噴火や、活動中の桜島、新燃岳との関係と、川筋や池の形成は火山活動や地震と密接に関係しますから、4つの池や川内川(第1級河川)が形成された理由も、これら火山活動で断層が動いたためと思われます。川内川河口に立つ川内原発は活断層の真上かすぐその傍に建っている疑いが濃厚です。2014年2月、国の地震調査研究本部が川内原発がある位置の活断層の評価を見直していますが、予想される東海・東南海・南海地震が起きたとき、九州を北部から南西に縦断する仏像構造線が影響を受けると言われ、原子炉がこれらの活断層の真上か近接した位置にある場合、大事故になることは必至です。

2、温廃水による漁業被害
河口に立つ川内原発は川内港と外洋に面しており、原子炉を冷却した廃水が海水温度を上昇させたため、漁業被害は深刻です。海の生態系を壊す要因となり年々、漁獲は減少しています。魚の大量死が打ち上げられるなど異様な光景もみられました。今は2基が停止しているので生態系が戻りつつあるそうですが、反対に、もし事故が起きれば深刻な事態になります。「フクシマ」のような事故が起きた場合、海に流失した放射性物質は黒潮と対馬暖流に乗り、太平洋側と日本海側のほとんどの沿岸部が汚染される可能性があるというシュミレーション結果を、九州大学応用力学研究所が2011年7月に発表しています。このまま原発2基は稼働しないでください。

3、県民の避難計画
5月~6月にかけていちき串木野市民に対して行われた再稼働反対署名は、人口3万人の半数以上が「反対」の意思表示をしました。「九州電力」株主総会でも報告があったと思います。訪ねた方も「道路はあるが、殺到して動けなくなるだろう」とおっしゃっていました。万一の場合、短時間で大勢の避難は無理なこと、薩摩川内市民を見殺しにしかねないことを市民は直感しています。原子力規制委員会が出した「原子力災害対策の指針」は30km圏内の避難計画を求めていますが、これは原発立地自治体であるかどうかとは無関係に30km圏内の9自治体は同じ権利と義務を持っているということを言っています。各自治体と「九電」が結んだ安全協定に「同意」の項目があったとしても、それは自治体と私企業の「任意の協定」なので、法的な拘束力は「指針」には遠く及びません。薩摩川内市と「再稼働反対、廃炉の決議」を上げた姶良市(あいらし)とは権限では同じです。福井地裁が250km圏内の住民の権利を認めたことを考えると、最低30km圏内の自治体の同意は絶対に必要なので、再稼働はできません。

4、放射能被ばくについて
原爆(爆弾)と原発(電力)の違いはありますが、人に対する放射能被ばくでは2者は共通します。長崎市民を戦後長い間苦しめたのは、低線量被ばくや内部被ばくです。
医学的にはペトカウ効果と呼ばれています。これは核分裂生成物の吸入または摂取による長期にわたる低レベル放射線が、ひとの免疫機構に不可欠な白血球の細胞膜を破壊する。ごく微量でも体内に取り込まれた放射線は、ひとの生命と生殖に深刻な影響を与える、放射線には「しきい値」はないという、1970年カナダのアブラハム・ペトカウ博士が発見した医学的な知見です。2013年11月、北九州市で行われたティモシー・ムソー教授の講演「福島の生態系調査」で、「フクシマ」のツバメの小頭症が報告されました。小頭症は「長崎原爆戦災誌・第4巻学術編(1984年、長崎市編纂)」P.152に小頭症の少年の写真があり、2者が共通していることが証明されました。長崎市がプルトニウム被爆との因果関係を認めた疾病は、再生不良性貧血、鉄欠乏性貧血、肝硬変、ウィルス性を除く慢性肝炎、悪性新生物(ガン)、糖尿病、甲状腺機能低下症、脳出血、くも膜下出血、脳梗塞、高血圧性心疾患、慢性虚血性心疾患、ネフローゼ症候群、慢性腎炎、白内障、肺気腫、慢性間質性肺炎、変形性脊椎症、変形性関節症、胃潰瘍、十二指腸潰瘍です。これら疾病で今後福島が苦しまれるのではないかという心配、鹿児島県民が同じ目に合うことがないよう、川内原発再稼働の危険を冒さないよう長崎原爆被爆者の1人として願うものです。

以上   

川内原発審査書の過酷事故への対策を問う(2)

―水素爆発対策は可燃性ガスへの引火を契機とする複合爆発の可能性―(pdfファイル)

2014年8月7日 福岡核問題研究会

1. なぜ水素爆発対策を問題にするか

 本論考は原子力規制委員会・新規制基準にもとづく川内原発審査書案の過酷事故対策の批判的分析1(水蒸気爆発防止策)[1]に続くものである。
 1979年のスリーマイル島原発事故、1986年のチェルノブイリ原発事故、2011年の福島原発事故で水素爆発は実際に起きた。
 新規制基準において、水素爆発の可能性が払拭できていないことについて、井野・滝谷論文[2] では、次のような問題点が多数指摘されている:
溶融炉心が流れ出てくると、いわゆる水・ジルコニウム反応だけでなく、溶融炉心とコンクリートとの反応(コア・コンクリート反応)によって水素が発生し、より水素爆発の可能性が高まる。加圧水型(PWR)原子炉は格納容器が大きいから水素爆発の心配いらない、というのは非科学的である。1979年のスリーマイル島原発の炉心溶融事故の際には、水素爆発の危険性が最も懸念されていた。モデルによる解析でも、水素爆発発生までの数値に余裕がなく、コア・コンクリート反応や、格納容器内での水素濃度の偏りの可能性を考えた場合、水素爆発はリアリティを持っている。そして、沸騰水型とは違い、加圧水型(PWR)は格納容器が大きいだけに、その爆発の威力も逆に格段に大きいと見ておいた方がいいのではないか。
本年4月中旬、世界の原子力規制の動向に精通した原子力コンサルタントの佐藤暁氏が新規制基準における過酷事故対策が非常に不十分であることを詳しく議論している[3,4]。特に、[3]の21ページにおいて、再臨界、水蒸気爆発、MCCIの評価に対しては慎重さが必要としている。
7月下旬、日本の原子力規制の技術的実務の経験豊富な滝谷氏が注目すべきインタビューを行った[5]。
本論考では、井野・滝谷論文[2,5]や佐藤暁氏の論考[3,4]での論点を踏まえて、関連した補足とこれまでほとんど指摘されていないと思われる論点も提起したい。

2. 原発の過酷事故における水素の発生と燃焼、爆発

2.1 水素の燃焼と爆轟の条件
 水素ガスは最も軽い気体でそのモル質量は2.016g/molである。水素は空気雰囲気中で酸素と反応して熱を出す。これは非常に簡単な反応
 
2H2+O2→2H2O+242 kJ/mol
として表されるが、実際の反応は複雑で、12あるいは16の素反応過程が提案されている[6, 7].
 燃焼の形態としては次の3つがある。
  予混合燃焼:ガソリンエンジンの燃焼。
  拡散燃焼:ガスバーナー、ローソクの燃焼。
  表面燃焼:炭の燃焼。
・予混合火炎の伝搬速度の違い
 この反応形態は反応速度に応じて次のように分類されている。
反応速度が
遅い――燃焼 (静的荷重)
速い――爆発――爆燃 (火炎の伝播速度が亜音速。準静的荷重)
        爆轟 (火炎の伝播速度が超音速。動的荷重(衝撃圧))
 水素-空気-水蒸気の燃焼と爆轟限界について、初期には、ほとんど理論的にのみ研究されてきた。燃焼と爆轟の限界に対する古典的な三角形のダイアグラムがShapiroらにより報告された[8].

Fig3
水素-空気-水蒸気混合の燃焼および爆轟の限界:図の出典[ 9,p.33]


 Shapiroらは爆轟限界を混合率の関数としてのみ調べた。しかし、近年の研究によれば、爆轟限界は幾何学的なスケール、初期の圧力や温度の関数でもあることが明らかになっている[9, p.33]。歴史的には爆轟は水素濃度が18%から59%に対して起こると考えられてきた。
 原子力産業における水素爆発の危険性についてShepherd (米国カリフォルニア工科大学)はPWRまたはBWRの学ぶべき教訓として以下の諸点を列挙している[10]:
1)爆燃はスケールに相対的に独立に発生する:可燃限界(flammability limits)は構成に
  のみ依存する。
2)爆燃から爆轟への移行(DDTと略)はスケールに強く依存すること:爆轟限界
  (detonation limits)は形状、サイズ、発火源に強く依存する。
3)格納容器形状におけるDDTの危険性を定量化するためには大規模実験が必要
  であること。
4)爆轟の開始と伝播は、小規模の場合より大規模の場合には、非常に低い濃度
  で起こりうる。すなわち、水蒸気濃度が10%の場合、水素濃度10.5%で水素
  空気の爆轟、水素濃度11%でDDTが発生する。
 Shepherdの見解、特に4)を裏付けるように、Dorofeevらによる大規模の実験は水素濃度が約10%から77%までの水素-空気混合ガスに対して,爆轟が起こることを示した[9, p.34], [11]。

2.2 過酷事故の間における水素ガスの生成
 過酷事故の際、水素ガスは、ジリコニウム-水蒸気反応(ジルカロイの酸化)、ボロン・カーバイド-蒸気反応、ウラン-水蒸気反応、金属-水蒸気反応、溶融核燃料-コンクリート相互作用(MCCI)、水の放射線分解など種々の過程で生成される[12]。

1)ジリコニウム-水蒸気反応(ジルカロイの酸化)

 これらの過程の中で、最も寄与が大きいにはジリコニウム-水蒸気反応である [12]。その理由は何か。ジルコニウムはイオン化傾向が比較的大きいので、ジコニウム・水反応が高温では激しく起こる。ただ、ジルコニウムはイオン化傾向が大きいのに空気中で1700℃近くになるまで酸化されない。アルミニウムが非常に酸化されやすいのにAl2O3の被膜を作り、酸化されにくいのと同じように、ジルコニウムも空気中ZrO2の被膜を作り酸化されにくいためと思われる。
この化学反応は発熱反応である。
 
Zr+2H2O→ZrO2+2H2+586 kJ/mol
 この化学反応が起こると、発熱するため燃料被覆材の温度がさらに上昇し、反応が進むという悪循環(正のフィードバック)を繰り返す。また、後述のように、この化学反応により生じる水素が酸素と一定の比率で混ざると爆発的に反応する可能性がある。
 典型的なPWR原子炉の場合、事故の最初の2-3時間で150-200キロの水素が生成されるかもしれない。より大きいBWR原子炉の場合、その2-5倍くらいになるかもしれない[12]。
 反応速度の経験則(Baker-Justの式)が単位面積あたりの酸化量の時間、温度依存性という形で得られている。
Baker-Justの式:
 ω^
2 = 33.3×10^6 t exp(-45,500/RT)
 ω:単位面積あたりの酸化量(mg/cm^
2),t:反応時間(s)
 
R:気体定数(cal/mol・K),T:絶対温度(K)

2)鉄―水蒸気反応
 しかし、鉄(Fe)も水素よりイオン傾向が大きく、やはり一定の鉄・水反応で水素が発生する事は間違いない[2]。Feは、冷水や温水とは反応しないが、高温の水蒸気とならば反応する。化学反応式のひとつは
3Fe +4H2O Fe3O4 +4H2 である。Feと高温の水蒸気の場合は可逆反応であることがZr-水蒸気反応とは基本的に異なるが,溶融した炉心が圧力容器の底に溜まり,鉄を主成分とする圧力容器を溶かす場合には,Feと高温の水蒸気によって発生する水素についても考慮しなければならない。

3)水の放射線分解
 放射線によって水が分解されると、水素だけではなく、酸素も発生する。商業用原子炉では、この酸素と水素を、触媒を使って化学反応させて水に戻す、排ガス再結合器が組み込まれている[13]。放射線によって発生する水素は量もそれほど多くなく、速やかに水に戻るため、水素爆発の原因になる可能性は低い。福島原発事故では、水蒸気がジルコニウム合金との化学反応により酸素を奪われた事によって水素が発生したため、原子炉内部には、水素と再結合させるための酸素が存在しなかったため、排ガス再結合器も役には立たなかったと考えられる。

4)溶融燃料とコンクリート相互作用(molten corium-concrete interaction, MCCI)[12], [14]
 国際的な原子力研究者の間でも、過酷事故の際、溶融核燃料等の冷却を促進する格納容器の窪み部分を予め水で満たすことは、水蒸気爆発の引き金というリスクもあり、依然として見解が分かれている[12]。しかし、水で冷却できなければ、溶融核燃料等は窪み部のコンクリートと接触し、コンクリートの破損が進む。これが溶融燃料とコンクリート相互作用である[14]。文献[14]とその中の引用文献によれば、コンクリートの骨材が石灰岩系であれば、大量の水素とともに、大量の
COCO2が発生する。

2.3 格納容器内における水素ガスの分布
 スリーマイル島原発事故、チェルノブイリ原発事故, 福島原発事故は,原発の過酷事故において水素燃焼が起こることを実証した[12]。スリーマイル島原発事故では、水素燃焼は約12秒間燃焼したが、爆轟は起きなかった。格納容器雰囲気における物理的な仕組みにより、水素は通常不均一に分布する。その結果、燃焼が起こりやすい条件をつくるように、局所的に高い水素濃度が起こるかもしれない。
 水素ガスの分布を決める仕組みとしては、ガスの流れ、分子拡散、格納容器内の種々の構造物と格納容器雰囲気の間の熱伝達、水蒸気凝縮のような質量輸送が考えられる[12]。

2.4 格納容器における水素ガス燃焼
 水素の持続的な燃焼が起こる条件[12]は次のように表される。
1) 水素を含むガス混合物が,混合物の中での水素の濃度、圧力、温度など十分な物理的条件が満たされること
2) 水素を含むガス混合が発火すること
 重要なことは、いったん点火されると、水素の燃焼はすべての可燃性の水素混合物がつきるまで制御不可能である[12]。偶然の発火はランダムな事象であるが、産業事故における過去の経験は、リスク分析や安全性評価を行う場合、発火源の存在を保守的に想定するべきことを示してきた[12, pp.212-213]。原発の過酷事故において、例えば、電気系統、爆発する配管、あるいは高温の溶融燃料の粒子など、多数の潜在的な発火源が考えられる[12, p.213]。

2.5水素ガス燃焼の危険性の緩和方策
 [12]のpp.224-227

  • 格納容器雰囲気の不活性化
  • 格納容器雰囲気の混合
  • (人為的)水素燃焼による局所的高濃度の発生防止
  • 静的触媒式水素再結合装置(Passive Autocatalytic Recombiner, 略称PAR)は、外的エネルギー不要ではあるが、自然循環の速度に依存するので、大量の水素発生に対してはおそらく不十分である[12, p.227]。
  • 水素イグナイタ(Hydrogen igniter)の仕組み

3. 水素爆発とその防止法についての適合性審査の経過と審査書案の内容

3.1 適合性審査の経過について
 滝谷氏はごく最近のインタビュー[5]において以下引用のような注目すべきことを指摘した:
 「旧原子力安全・保安院が、福島事故後の2011年6月に、『東京電力福島第1原発事故に係る1号機、2号機、3号機の炉心の状態に関する評価のクロスチェック解析』という資料を公表している。東電はMAAPで解析して、それを保安院がJNESの支援を受けてMELCORによるクロスチェックを行った結果、地震発生後の1号機原子炉圧力容器の破損時間はMAAPでは約15時間、MELCORでは約5時間と、3倍の差異が生じた」[16]
 「川内原発での事故シーケンス(進展)におけるMAAP解析では原子炉圧力容器の破損時間は、事故発生から約1.5時間。問題となるのが、『溶融炉心・コンクリート相互作用』という、(超高温の)溶融炉心が格納容器下部に落下し、コンクリートを溶かして破損させる現象だが、九州電力の対策では(原子炉格納容器上部の)格納容器スプレーで注水して、溶融燃料が落ちてきた時点で、格納容器下部に水を張るから、溶融燃料は水の中に沈積されて、コンクリートと燃料の反応は軽微に止まるとしている」[5]
 「しかし、MELCORで解析すれば、原子炉圧力容器破損に至る時間がもっと短い可能性がある。仮に(福島事故でみられた両コードの解析の差異と)同じような特性があるとすれば、川内原発におけるMAAP値での圧力容器破損が1.5時間ならば、MELCORでは30分。川内原発の場合、(事故発生から)格納容器スプレー開始まで49分で、30分で原子炉容器破損が起きたら、(格納容器下部に)水が溜まっていない」[5]
滝谷氏が指摘するこのようなことが、実際の過酷事故時に起きないという保証はどこにもない.

3.2 審査書案の内容について
 格納容器の健全性を脅かす上で特に注目されるのは,爆燃から爆轟への遷移,および爆轟である。規制基準では「格納容器が破損する可能性のある水素の爆轟を防止すること」を求め,その判断基準値は,「水素濃度がドライ条件に換算して13%以下又は酸素濃度が5%以下であること」としている(ドライ条件とは,水蒸気の存在は除外することを指す)。
 川内原発の審査書案に於ける川内原発1・2号炉の水素爆発の検討書は195ページから201ページまでに記載されている。審査書案では以下のように扱われている。
川内原発はフィルター付きベントの設備を持っていなくて、格納容器内の窒素封入もないので、過酷事故が起きると、新規制基準の水素濃度発生量は、水・ジルコニウム反応が75%起きたとした時、9.7%の水素濃度に成ると記されている。
 また、MCCI(コリウム・コンクリート反応)からも全炉心ジルコニウムの6%の反応の水素が出るので、水・ジルコニウム反応が100%起きたとした時、12.6%の水素濃度に成ると記されている。しかし、12.6%の水素濃度には,2.2節で述べた鉄-水蒸気反応からの水素は考慮されていない。
 新規制基準の適合性審査で水素濃度が13%だから、まだ0.4%の余裕が有るとすることが問題と指摘されたので、念のためにイグナイタ(電気式点火装置)の追加取り付けを行うことにしたと記されている[17, 18]。
 九州電力はあくまで、イグナイタで水素を燃焼させると主張している。しかし、水素の爆発限界は4%から75%であるから、イグナイタで点火すると、格納容器内にガス爆発が起こる。また、このガス爆発は水蒸気爆発のトリガリングになる可能性が高く、水蒸気爆発との複合爆発の可能性が大きくなる。さらに、MCCIの進行度合いによっては、CO爆発の可能性もある。
 九州電力は、高熱溶融炉設計者や操業者が絶対に行わない、あるいは一般の産業技術の現場でも回避されるべき、爆発限界内のガスに平気で点火と爆発を行うとしている。

3.3 原子力規制委員会の専門性、独立性は十分か、重視されているか
 国会における水素爆轟関係に関連した審議について[19]:
 去る4月15日、関西経済連合会と九州経済連合会は連名で、「原子力発電所の一刻も早い再稼働を求める」という意見書を、政府、そして原子力規制委員会、さらには国会、原子力規制委委員会に対しても宛てて出した。このことについての笠井亮衆議院議員(日本共産党)の質問に対する田中政府特別補佐人(原子力規制委員会委員長)は、「事務的には受け取っておりますけれども、原子力発電所の再稼働は原子力規制委員会の所掌ではなくて、原子力発電所の再稼働に関する要望書については、受け取ってはおりますけれども、コメントは差し控えたいと思います」と一見、独立性を保持するかのような答弁した。上述の意見書は「産業界からみると、独立性と専門性を重視しすぎるあまり、限定された専門家に負荷が集中し、効率的で責任のある意思決定が迅速に行われているとは言い難い」とも非難している。
 しかし、旧原子力安全・保安院などさえ行ってきたクロスチェック解析について、田中委員長は、「別途の解析をしていると言われながら、クロスチェックとは最後まで明言せずに、個別については答弁を差し控えたいとか、解析も含めた有効性の評価を行っている、こういうふうに言われて、やっているのかやっていないのかというと、言を左右にされるということがあったんです。」と答弁している。すなわち、独立性を保持すると言明しても、クロスチェック解析なしでは専門性も独立性も保証されるとは言えないことは明白である。さらに、ジルコニウムと水の化学反応によって発生する水素発生量の田中規制委員長による推定の桁数が違っていたこと、それにより静的触媒式水素再結合装置の性能が桁違いに低いことが明らかになった。

4.シビアアクシデントの解析コードの不確かさとその背景

 Segalによれば「(最も初歩的事実は別として)原発における水素ガスの振る舞いのほとんどの物理的側面は依然として、特に実験的には、研究途上である。これは水素ガスの振る舞いについての知識が完全からはほど遠いことを示している」[12, p.188]。
また,片岡氏は「これまでの研究、コード開発において多くの現象についての基本的な物理メカニズムの理解とモデル化は行われてきた。(中略)しかしながら、個別の炉においてシビアアクシデントがどのように進むのか、またどの現象が起きないのかを評価することは十分ではない」[7]と指摘する。片岡氏のこの現状認識は次の岩田氏の認識と整合的である。
水素ガスの燃焼・爆発は、「非平衡の複雑な系のふるまいであり、それぞれの場所、時間、化学、経路、形状、履歴によって大きく様相は異なる」[20], [21]
 失敗学流の考察[15]からも(批判派を含む)原発のリスク分析と安全対策が持つ限界(想定範囲)の狭さが示唆されている。すなわち、原発の過酷事故で起きる事象の複雑性を理解し網羅することは極めて困難で、隣接原発への波及や原発内の臨時作業なども重大な影響を及ぼすだろう。
3.11福島事故に関する錯綜する多くの事故分析や想定外の幸運と不運の事故への影響など、原発のリスク分析と対策がいかに困難かつ想定困難な要因に満ちていることか。

5.まとめ

1) 審査書案では、水素爆轟濃度の下限を13%と設定し、九電の対応では12.6%以下になるとして、認可されている。たとえ、水素爆轟濃度の下限を13%が正しいとしても、危険と紙一重のきわどい自動車の運転を許可するようなもので、極めて危険な評価と言わざるえない。
2) 水素燃焼における爆轟と爆燃爆轟遷移の条件は、大きいサイズの装置の場合、小さいサイズの装置より低い濃度で起こる可能性が2010年に米国カリフォルニア工科大学の研究者により指摘されている。この推定を裏付けるように、大きな規模の実験において、水素爆轟は水素濃度10%~77%で可能であることが1994年に報告されている。したがって、規制基準における「水素爆轟濃度の下限13%」自体が根拠薄弱で過度に楽観的な基準と言わざるを得ない
3) 一般に、水素が局所的に高濃度になる可能性は否定できない。
4) 水素イグナイタの使用自体が水素爆発の引き金になる可能性があるだけではなく、水蒸気爆発などとの複合爆発になる可能性も否定できない。
5) シビアアクシデントの解析コードには一般に不確かさがあり、複数の独立の物理モデルにもとづく解析コードによるクロスチェックを行うことが必要不可欠である。
6) 複数の解析コードで有意に異なる結果が出る場合、保守的な態度、すなわち、より厳しい方針で望むべきである。
7) 安全性を確かめ、複数の解析コードの異なる結果を評価する意味でも、数分の1モデルあるいは1/4モデルなどにより実証実験を行うべきである。

参考文献および注

[1] 福岡核問題研究会2014年7月26日
川内原発審査書の過酷事故への対策を問う(1)ー格納容器と原子炉建屋が水蒸気爆発で破壊されないことは実機規模で実証されているかー
[2] 井野博満・滝谷絋一「不確実さに満ちた過酷事故対策」『科学』84巻3号, 333 (2014).
http://www.ccnejapan.com/archive/2014/201403_CCNE_kagaku201403_ino_takitani.pdf
[3] 院内学習会:原子力規制のグローバルな状況と日本。
2014年4月18日 
http://www.cnic.jp/movies/5817
佐藤暁氏の講演資料 
http://www.cnic.jp/files/20140418mokkai_sato.pdf
[4] 佐藤暁、「不吉な安全神話の再稼働」,科学84巻8号, p.833 (2014).
[5] 滝谷紘一氏(元原子力安全委技術参与)インタビュー:原子力規制委の審査「厳正でない」2014年 07月 28日
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKBN0FX0HJ20140728
[6] N. Cohen, Flammability and Explosion Limits of H2 and H2/Co: A Literature Review, Aerospace Report No. TR-92(2534)-1, 1992.
http://dtic.mil/dtic/tr/fulltext/u2/a264896.pdf
[7] 片岡 勲、軽水炉シビアアクシデント評価技術の課題、2012年日本原子力学会春の年会(福井大学)。
http://csed.sakura.ne.jp/wp-content/uploads/2012/04/b2e976417f2f39877bc74a84eb8dd9ce.pdf
[8] Z. M. Shapiro and T. R. Moffette, 1957. Hydrogen Flammability Data and Application to PWR Loss-of-Coolant Accident, WAPD-SC-545, Bettis Plant, September.
[ 9] A. Silde, I. Lindholm, On Detonation Dynamics in Hydrogen-Air-Steam Mixtures, NKS-9, VTT- Energy, Finland
抄録は
http://www.iaea.org/inis/collection/NCLCollectionStore/_Public/31/031/31031776.pdf
論文名で検索すると論文をダウンロード可能。
[10] J. E. Shepherd ( California Institute of Technology), Thirty years of Research on Hydrogen Explosion Hazards in the Nuclear Industry,
http://nisd.ans.org/wp-content/uploads/2013/08/Panel-Overheads-Shepard-Hydrogen-ANS-2010.pdf
[11] S. Dorofeev, V. Sidorov, W. Breitung, J. Vendel, and A. Malliakos,
Recent Results of Joint FZK-IPSN-NRC-RRCKI Research Program on Large Scale H2 DDT Experiments in the RUT Facility, Presented at CSARP Meeting, Bethesda, MD, USA, May 5-8, 1997.
[12] B. R. Sehgal, Nuclear Safety in Light Water Reactors: Severe Accident Phenomenology, Academic Press, (2012).特に,pp.255-282.
http://store.elsevier.com/Nuclear-Safety-in-Light-Water-Reactors/isbn-9780123884466/
特に、 3.1. Hydrogen-behavior-and-control
[13] 原子力排ガス再結合触媒及び再結合器
http://www.google.com/patents/WO2012029090A1?cl=ja
[14] 岡本良治・中西正之・三好永作「炉心溶融物とコンクリートとの相互作用による水素爆発,CO爆発の可能性」、『科学』2014年3月号。
https://dl.dropboxusercontent.com/u/86331141/Shiryo/Kagaku_201403_Okamoto_etal.pdf
[15] 失敗学会の発行物(No.59、2011-8-9 発行)
「原子炉建屋の水素爆発が想定外だったのは何故?」
http://www.shippai.org/images/html/news559/YoshiokaMemo59.pdf
[16] 旧原子力安全・保安院「福島事故後の2011年6月東京電力株式会社福島第一原子力発電所の事故に係る1号機、2号機及び3号機の炉心の状態に関する評価のクロスチェック解析、2011年6月。特にp.4。
http://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/backdrop/pdf/app-chap04-2.pdf
[17] 原子力規制委員会 第58回原子力発電所の新規制基準適合性に係る審査会合、平成25年(2013年)12月17日(火)
https://www.nsr.go.jp/activity/regulation/tekigousei/20131217.html
[18] 検討会58コメント回答。
平成26年4月3日 北電、関電、四電、九電。特に、p.40, 48, 49, 51, 55, 63, 64, 68-69, 4-70, 4-71, 4-72, 4-76, 4-77, 4-78。
[19] 第186回国会 原子力問題調査特別委員会 第4号(平成26年4月24日(木曜日))
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/026518620140424004.htm
[20] 岩田修一、原子炉内で起こる化学反応、「化学」Vol.66, No.6 (2011).
特集「福島第一原発事故」,i-iii.
http://www.kagakudojin.co.jp/files/c6606_iwata_tsuika.pdf
[21] 理論的には、複雑な多体系の動的変化を規定する、抽象的な多次元エネルギー空間において、高温領域では比較的狭いエネルギー交換幅内に多数の局所的最小値と鞍部点(saddle points)が併存し、その記述や理解が極めて困難という従来からの難問と類似した事情であろう。

川内原発審査書の過酷事故への対策を問う(1)

―格納容器と原子炉建屋が水蒸気爆発で破壊されないことは実機規模で実証されているか―(pdfファイル)

2014年7月26日 福岡核問題研究会

1. はじめに ー過酷事故への対策についての重点的検討

 原子力規制委員会は、審査を進めてきた九州電力の川内原子力発電所1・2号炉について「新規制基準を満たしている」とする審査書案を本年7月16日に了承し、ただちに科学的・技術的意見の公募を開始した[1]。そして、原子力発電所の新規制基準適合性に係る審査会合は同委員会のホームページにおいて公開されている[2]。8月中にも正式な審査書として決定すると伝えられており、政府と九州電力は、これを受けて速やかに再稼働させるとしている。
 しかし,原子力規制委員会の審査は、過酷事故の防止と発生した場合の拡大を防止する技術的方策について、東電福島第一原発の事故の実態が不明のまま1年前に決めた新規制基準への適合性を調べただけのものである。再稼働の「条件」は幾重にも満たされていない。すなわち,これらの基準を満たしたからといって、原発再稼働にともなって必要になるその他の事項
(1) 事故が発生した場合に、影響が及ぶことが予想される範囲の住民の安全な避難計画
(2) 発生する放射性廃棄物、特に高濃度廃棄物の処理方法、
(3) 使用済核燃料の処理と管理、
(4) 廃炉後の解体処理、特に過酷事故を起こした原子炉の処理
などは、原子力規制委員会の権限外として何らの検討も行われていない[3,4]。
 また,「規制委が世界で一番厳しい基準で安全と判断すれば、再稼働していきたい」と答えた首相は、自らの責任を放棄したに等しい。自治体の首長たちは、再稼働や避難計画について国が方針を示すことを求めている。だが新規制基準は、川内原発であれば周辺の火山の噴火リスクなど、地域の特性を当事者たちが理解してこそ達成できるものだ。全責任を国に押しつけようとするのでは、福島第一原発事故以前と変わらない。新規制基準は、再稼働の是非と責任を考える「大人の対応」を求めている。しかし、電気事業者も、政府も、地方自治体も、誰も責任を取ろうとしていない[5]。
 さらに、新規制基準は世界最高水準とは決して言えない。米国の原子力規制では必要不可欠とされている避難計画の実効性の実証がないだけではなく、新規制基準の科学的、技術的内容も世界最高水準のものではない。原発の設計そのものの見直しに踏み込まず、既存の設計に安全対策を追加させただけである。対症療法にすぎず、最新技術を設計段階から組み込んだ海外のそれとは違う[5,6]。
 しかし、このような社会的状況の中で、科学的、技術的な見解に限定されたパブコメが7月16日から8月15日までの30日間募集されている。ことの複雑さと時間的余裕が少ないことを考慮して、賛否いずれであっても、より深く納得することを希望する人々のために、内外に公開された資料や関連文献を基に、複数の専門領域から、相対的に議論が少ない「過酷事故への対策」について独立した検討を行い、よりよい判断のための素材を提供することは意義があると考える。

2.原発の過酷事故における水蒸気爆発

 過酷事故の際に起こると思われる現象は図1のようになっている。水蒸気爆発は燃料-冷却材相互作用 ( Fuel-coolant interaction, FCI ) に関連する重要な現象の一つである。

Fig1


2.1水蒸気爆発とは何か

加熱したフライパンの油に水滴を落としたら、危険であることはよく知られている。また,海中火山の誕生の際にも爆発が起こる。また,金属工場,高温溶融炉などでも水蒸気爆発の事故例がある[8]。しかし、なぜ水が大きな爆発を起こすのだろうか。
溶けた金属などの高温液体が,水に代表される低温液体に落下すると、水蒸気爆発が起こる場合がある。水蒸気爆発の発生する過程と進行する過程[7,8,9]は以下の通りである。
(1) 粗混合過程(premixing):
(2) トリガリング(triggering):外乱または引き金的要因
(3) 急速な熱移動段階(細粒化過程)
(4) 拡大・伝播過程。
急速な熱移動が起こるためには,熱伝導の経験則などより、水との接触面積が大きくならねばならない。接触面積が大きいことは多数の粒子に細粒化することである[8]。
水蒸気爆発の重要なメカニズム[8]は以下の通りであると言われている。
(a) 蒸気膜が破壊、または崩壊する原因とメカニズム
(b) 細粒化の原因とメカニズム
(c) 現象の拡大・伝搬のメカニズム
(d) 高い衝撃圧力の発生メカニズム
(e) コヒーレントな性質(斉時性または同時性)を示す理由.
また,水蒸気爆発の起こる前提として,熱エネルギーの存在が不可欠,すなわち、2種類の液体の温度差が大きいことが必要である[8] 。

2.2 溶融炉心と冷却水との相互作用の概要

新規制基準適合性に係る第102回審査会合(2014年4月3日)の資料[? ]によれば、溶融炉心と冷却水との相互作用の概要は以下の通りである。
「溶融炉心と冷却水が接触することによる急激な水蒸気の生成において、溶融炉心の熱エネルギーが機械的エネルギーに変換されて格納容器破損に至る可能性がある。このような現象、すなわち、溶融炉心と冷却水との接触及びそれに伴って引き起こされる現象のことを”溶融炉心と冷却水の相互作用(FCI)”と呼ぶ。また、FCI のうち衝撃波を伴うものを”水蒸気爆発”と呼び、水蒸気爆発に至らない圧力変化を”圧力スパイク”と呼ぶ。
さらに、溶融炉心と冷却水の接触は、原子炉容器の下部と原子炉キャビティで発生する可能性があり、雰囲気圧力や冷却水の状態が異なることから両者を区別して取扱い、前者を原子炉容器内FCI、後者を原子炉容器外FCI とする。
炉心あるいは原子炉容器から落下する溶融炉心(デブリジェット)が、水プールに接触する際の液-液混合に伴って、溶融炉心が細粒化して水中に分散する(エントレイン)。細粒化した溶融炉心(以下、「デブリ粒子」と称す。)は、膜沸騰及び輻射熱伝達により水と伝熱しており、デブリ粒子は蒸気膜に覆われた状態である。
 ここで、蒸気膜へ何らかの外乱(トリガリング)が加わり蒸気膜が崩壊すると、デブリ粒子が冷却水と直接接触することで急激な水蒸気発生が起こり、これが近傍のデブリ粒子に対する新たなトリガリングとなり蒸気膜を崩壊させ、この現象が瞬時に伝播・拡大することで、衝撃波を伴った水蒸気爆発に至ると考えられている。また、水蒸気爆発に至らない場合でも、発生した水蒸気により急激な圧力上昇(圧力スパイク)が発生する。」
以下、用語の英語名について補足する。FCIはfuel-coolant interaction、圧力スパイクはpressure spike、デブリジェットはdebri jet、エントレインはentrain、トリガリングはtriggeringである。
FCIに伴い、核燃料などのエアロゾルも発生する可能性はないだろうか。

2.3原子炉の過酷事故における水蒸気爆発

 原子炉における水蒸気爆発は米国の1954年のBORAX-1(Boiling Water Reactor No.1 ),1961年のSL1事故(定常型低出力動力炉:Stationary Low Power Reactor-1),1986年のチェルノブイリ原発事故で起こったと言われている。図2に,燃料ー冷却材間相互作用(FCI=fuel-coolant interactions)の種々のシナリオを示す。

Fig2

図2.燃料ー冷却材間相互作用(FCI=fuel-coolant interactions)の種々のシナリオ
in-vessel : poured (圧力容器内:混入)  in-vessel : stratified ( 圧力容器内:階層化) ex-vessel : poured (圧力容器外:混入)  ex-vessel : stratified ( 圧力容器外:階層化), melt=溶融炉心, cavity=キャビティまたは格納容器の窪み部,water=水(冷却材).出典[7]

 圧力容器は相対的に高い圧力に耐えられるように設計されているとすれば、圧力容器外:混入の場合、すなわち、溶融燃料が圧力容器外、すなわち格納容器内に存在する可能性のある水(冷却材)に混入するシナリオが相対的に重要になってくると考えられる。

3.過酷事故モデル実験の結果とその吟味

 新規制基準適合性に係る第102回審査会合(2014年4月3日)の資料[10 ]によれば
「蒸気爆発に関しては、水蒸気爆発専門家グループ(SERG: Steam Explosion Review Group)によるレビュー評価として纏められ、「圧力容器内水蒸気爆発はリスクの観点から無視できる」と結論付けられている。この結論は 1997 年の FCI に関する専門家会議においても、SERG の結論の変更は不要であることが確認されている。
 また、米国原子力規制委員会 NRC は、原子炉容器内 FCI から水蒸気爆発に至り格納容器が破損する事象(いわゆるαモード破損)については、これまでの専門家による検討結果では、発生する可能性は非常に低く、問題は解決済みと結論付けられている1。また、原子炉容器内 FCI から圧力スパイクに至る事象については、1次系圧力を上昇させることはあるが、格納容器への直接的な脅威にはならない。
 一方、緩和策により注水された原子炉キャビティに溶融炉心が落下する場合の FCI(原子炉容器外 FCI)は、原子炉容器内 FCI が高圧かつ高温(低サブクール度)の条件下であることに対し、低圧かつ低温(高サブクール度)であり、定性的には水蒸気爆発が発生し易いと言われている。また、圧力スパイクの観点でも、水プールの容量が原子炉容器内よりも大きく、水蒸気の発生量自体も大きくなる可能性がある。」

3.1水蒸気爆発が起こるとされる国内外の実験

 新規制基準適合性に係る第102回審査会合(2014年4月3日)の資料[10]によれば,
 FCI実験は、主として溶融物を水プールに落下させ、水プールとの混合の際に発生する諸現象について解明することを目的としたものであり、国内外の研究機関において、種々の実験研究が行われている。その中で、比較的大規模な実験として、欧州 JRC (Joint Research Center)のイスプラ研究所の FARO 実験、同じくイスプラ研究所のKROTOS 実験、旧原子力研究所 JAERI の ALPHA 実験、カザフスタン国立原子力センター(NNC:National Nuclear Center)の施設を用いた COTELS 実験が行われている。付録に引用するように、かなりな数の水蒸気爆発が起きていることは事実である。
 同時に、同資料においては「FCI実験のうち、UO2を用いたFARO実験、KROTOS 実験およびCOTELS 実験のうち、水蒸気爆発が観測されたのはKROTOS実験のみ」と、あたかも極めて限定されるかのような分析を強調している。
 しかし、これは、原発を何としても再稼働させたいという願望的思考に囚われていて、原発の安全性または危険性を独立な立場で検証する態度とは言えないであろう。

Tab0

3.2水蒸気爆発による格納容器破損確率の評価と種々のトリガリングの可能性

 森山清史らにより水蒸気爆発による格納容器破損確率の評価がなされている[11]。この論文の研究は確率論的リスク評価(略称PRA)という手法でなされ、水蒸気爆発解析コードJASMINEを物理モデルとして格納容器破損確率について,系統的な検討が行われている。この論文のまとめの中で、得られた破損の確率分布を特徴づける代表的な数値として,次表が示されている。


これらの確率の絶対値は必ずしも定量的な意味をもつとは限らないが、確率としては決して小さい値とは言えない。そうであれば、トリガリングが起きた場合、水蒸気爆発の可能性は低くはないことを意味する。
 さらに、著者らは「3.5本解析結果参照にあたっての注意点」に、「検証に用いた実験規模に対し実機現象は融体質量で約100倍の外挿となっていることから、規模の拡大による予期しない影響存在がする可能性は否定できない」と自己分析的で、説得力のあるコメントも行っている。
 上述の推測が議論されたため、審査書[1]のpp.194-195および新規制基準適合性に係る第102回審査会合(2014年4月3日)の資料1-2-7[2]の3.2-10において、事業者は、モデル実験結果を分析する中で、実機においてはキャビティ水は準静的であり外部トリガリングとなり得る要素はなく、実機において大規模な水蒸気爆発に至る可能性は極めて小さいと考えられる、としている。
 しかし、過酷事故の際に、キャビティ水は準静的であるとは限らないだろう。さらに,過酷事故が起きた場合、水素爆発などの外部トリガリングの候補はあると考える方が現実的ではないだろうか。
 日本の事業者や原子力規制委員会の見解と対照的に、過酷事故の国際会議報告[9] のpp.261-264には、トリガリングは外部トリガリング (external triggering)だけではなく、自発的トリガリング (spontaneous triggering)もあることを議論し、実際の状況では水蒸気爆発が起こるかどうか予測することは現実的に不可能で、FCIの間はトリガリング確率は1に等しく、(水蒸気)爆発が起こることを前提としている、と記されている。これがヨーロッパでは過酷事故対策として、キャビティに水を緊急に張るのではなく、コア・キャッチャー装置を設置する方針が選択された背景認識であろう[12]。

3.3 燃料ー冷却材間相互作用と水蒸気爆発の理解は不十分

 水蒸気爆発は強い非平衡性と急速な体積変化を伴う非定常な流れを伴う。そして、爆発の発生は確率現象のような振る舞いをする。温度や高温液体などの実験条件を同じにしても,爆発が起こったり、起こらなかったりする[8]。すなわち,再現性に乏しいという複雑系の一般的な特徴に類似している。
 過酷事故の国際会議報告[9]のp.276には, 水蒸気爆発実験へのアプローチが多岐にわたっていることは、燃料ー冷却材間相互作用と水蒸気爆発現象のいくつかの基本的な理解が欠けていることを表していると述べている。この理由は、現象自身のモデル化が困難であるという複雑さだけではなく、実験が遂行される極端な条件下で直接的な観測が難しいことにもよっている、という。

4.過酷事故解析コードで格納容器破壊確率が低いことは起こらない証明ではない

 日本大震災の地域で巨大地震が発生する「確率」が地震専門家によって提案されていたが、その値は非常に低かった。しかし、巨大地震は起こった。
 2006年、津波などによる全電源喪失(station blackout)の可能性を国会で野党議員から質問されて、当時の首相は極めてまれにしか起こらないと考えられるので対策の必要はないと答弁していた[14]。しかし、この当時の首相は今自己反省しているだろうか? 再度の登場で、原子力規制委員会委員長も新規制は安全を担保するものではないと明言しているにもかかわらず、世界最高水準の安全性が保証された原発は再稼働させると明言している[5]。
 「はじめに」で説明したように、新規制基準は世界最高水準とは決して言えない。同様に,過酷事故解析コードで格納容器破壊確率が低いと評価されたとしても、格納容器破壊が起こらない証明ではない。
 関連して、原発の試運転業務や炉心設計監管理業務に従事していた、元東電社員の木村俊雄氏が,種々の解析コードに接した経験を紹介する[15]。
(1) 解析は解析でしかない。
(2) いつも解析と実機が一致するようにチューニング(調節)に苦労している。
(3) チューニングしても必ず大なり小なり誤差が生じる。

5. チェルノブイリ原発の過酷事故対策の教訓の無視

 2014年6月9日の毎日新聞大阪版夕刊の記事[16]: 
 「ウクライナ・キエフのチェルノブイリ博物館には、大きなトロッコが飾られている。1986年4月の原発事故直後、旧ソ連政府は爆発した4号機の地下にトンネルを掘り、鉄板を敷いた。溶け落ちた炉心が地下水に触れると、大爆発を起こしてしまう。何としても炉心の落下を防がねばならない。一刻の猶予もなかった。旧ソ連の炭鉱労働者、囚人たちが集められた。白黒の記録映像が残っている。スコップを担いだ労働者たちが、トンネル掘削現場をめざしてトロッコに乗り込んでいく。暑い夏の重労働。「マスクをするように」という注意はほとんど守られず、労働者は裸同然での作業を余儀なくされた。トロッコの横に当時の新聞が飾られている。事故は小さなベタ記事、テレビは報道しなかった。ソ連紙との比較で、同日のニューヨーク・タイムズが並んでいる。こちらは1面トップ、原発の図面や放射能の拡散予想図入りで報じている。6日後、約130キロ離れたキエフではメーデー祭が開催された。事故のことを知らない市民はパレードに繰り出し、大量に被ばくしてしまった。
 福島第1原発事故直後、日本政府はSPEEDIの放射能拡散予測データを公開せず、人々は風下に逃げた。「ただちに健康には……」と官房長官が繰り返していたことを思い出す。国にとって都合の悪いことは、まずは隠されてしまうのだ。旧ソ連も日本も、よー似てるなー。<フリージャーナリスト・西谷文和>」
 チェルノブイリでは、4号炉の過酷事故の発生時、高温度になった溶融核燃料が大量の水と接触し、水蒸気爆発が起きる事を一番恐れて、多くの人たちが命がけで水蒸気爆発爆発防止対策を行った。
 しかし、九州電力はチェルノブイリの過酷事故対策の教訓は全く無視し、わざわざ格納容器に大量の水を貯めて、川内原発1・2号炉の格納容器と原子炉建屋が爆発し、溶融核燃料が野ざらしになるような危険な手段を提案した[10]。そして、審議の結果、[1] のpp.190-195に記されているように、 規制委員会も最終的に了承した。

6. 格納容器に大量の水を貯めれば安心か

 原子力規制委員会の田中委員長は国会で、ヨーロッパでは格納容器と原子炉建屋が水素爆発や水蒸気爆発で破壊される防止対策はコアキャッチャーの採用に成っているのに、川内原発1・2号炉ではコアキャッチャー対策をしない事を追及されると、それは不可能と繰り返し答弁した。しかし、テレビ朝日が「原発の水素爆発防ぐ新たな装置開発」 を次のように伝えている[13]。
 『原子炉でメルトダウンが起きた場合に備え、資源エネルギー庁などが水素爆発を防ぐ新たな装置の開発を進めていることが分かりました。資源エネルギー庁は、「薄型コアキャッチャー」と呼ばれる装置について、国内すべての原発への設置を目指してメーカーに依頼し、開発を進めてきました。核燃料がメルトダウンし、建屋の底のコンクリートが溶けて水素爆発が起きることを防ぐのが目的で、直径は約6mで、内側は熱を逃がしやすい銅でできています。
 東芝原子力システム設計部・薄井秀和部長:「必ずしもこれが必要だ、これがなきゃだめとは思わないが、(安全対策の)手段の一つとして開発し、実際に使えるものにする」
しかし、国内の原発への設置について、原子力規制委員会は「追加の工事が現実的に不可能」として、資源エネルギー庁と意見が対立しています。』(引用終わり)
 ここで、東芝社は「薄型コアキャッチャー」には銅をしようしていると説明している。東芝社の「薄型コアキャッチャー」が一番良い方法とは思われないが、資源エネルギー庁の担当官や東芝社はその道の専門家であろう。
 しかし、原子力規制庁の担当官や九州電力の技術者は、ほとんど知識が無いと思われるのに、「コアキャッチャーの取り付けは不可能、格納容器に大量の水を貯めれば安心」など、実機規模における実証的裏付けのない願望的コメントを出している。

7. まとめ

 原子力規制委員会の審査には重大な不備(欠陥)がある。それは原発事故における「水蒸気爆発(爆轟)」の防止対策である。原発での水蒸気爆発は実際の原発で起きた「想定内」の問題で、多くの研究やモデル実験がなされている。コンピューターのシュミレーション結果(川内原発で水蒸気爆発は起こりえない。圧力の急激な上昇は起こるかもしれないが耐えられるとの想定)の信頼性は低く、九州電力による想定(希望的観測)は当てにならない。
 しかし、原子力規制委員会は独自シュミレーションを実施することなく九州電力の見解を結局は追認してしまった。(旧)原子力安全保安院時代にはこうしたダブルチェックが実施された。九州電力の過酷(重大)事故対策はチェルノブイリ原発事故の教訓を無視しており、溶融炉心を大量に水を張って受け止める対策だが,無謀で危険な賭けである。すなわち、水素爆発・ガス発生・余震などを契機に水蒸気爆発が起こる可能性は否定できない。溶融炉心を耐熱構造で受け止める「コアキャッチャー」は外国の一部の実際の原発では、既に採用されている過酷事故対策だが、川内原発での有効性や採用の是非に関する検討はなされていない。
 したがって、このまま川内原発の再稼働を許した場合、「格納容器が水蒸気爆発で破壊され溶融炉心が環境中にむき出しに曝される」という、福島原発事故以上に酷い原子力災害が発生する恐れがあり、絶対に再稼働を認めることはできない。

付録:新規制基準適合性に係る第102回審査会合(2014年4月3日)の資料1-2-7[10]における実験条件および結果一覧
Tab1-1

Tab2-1


参考文献・参考資料

[1] 原子力規制委員会, 九州電力株式会社川内原子力発電所の発電用原子炉設置変更許可申請書(1 号及び 2号発電用原子炉施設の変更)に関する審査書 (原子炉等規制法第43条の3の6第1項第2号 (技術的能力に係るもの)、第3号及び第4号関連), 平成26年7月16日.
http://www.nsr.go.jp/public_comment/bosyu140716.html
審査書案 
http://www.nsr.go.jp/public_comment/bosyu140716/gaiyou.pdf
[2] 原子力規制委員会・原子力発電所の新規制基準適合性に係る審査会合
https://www.nsr.go.jp/activity/regulation/tekigousei/power_plants.html
[3] 朝日新聞審査1年「再稼働へ先例 原発新基準、ポイントは川内原発『適合』」2014年7月17日。
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11247541.html
[4] 世界平和アピール七人委員会「原発再稼働の条件は整っていない」2014年7月18日。 
http://worldpeace7.jp/modules/pico/index.php?content_id=135
[5] 勝田忠広[原発の再稼働 新基準を隠れみのにするな] 2014年7月12日朝日新聞。
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11237500.html
[6] 大阪府市エネルギー戦略会議「大阪府市エネルギー戦略の提言」冨山房インターナショナル,2013年。特に、p.15,p.81.p.87など。 
http://www.pref.osaka.lg.jp/kannosomu/enekaigi/teigen.html
[7] Chapter 10(Open Access) Simulation of Ex-Vessel Steam Explosion by Matjaz Leskovar,
http://cdn.intechweb.org/pdfs/17974.pdf
Nuclear Power-Operation, Safety and Environment edited by Pavel Tsvetkov, (open access book)
http://www.intechopen.com/books/bookstat/nuclear-power-operation-safety-and-environment
[8] 高島武雄、飯田嘉宏「蒸気爆発の科学ー原子力安全から火山噴火までー」,
裳華房、1998年http://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-8700-6.htm
[9] B. R. Sehgal, Nuclear Safety in Light Water Reactors: Severe Accident Phenomenology, Academic Press, 2012.特に,pp.255-282.
http://store.elsevier.com/Nuclear-Safety-in-Light-Water-Reactors/isbn-9780123884466/
[10] 原子力規制委員会、第102回原子力発電所の新規制基準適合性に係る審査会合、資料1-2-7「重大事故等対策の有効性評価に係るシビアアクシデント解析コードについて(第3部 MAAP) 添付2 溶融炉心と冷却水の相互作用について」
https://www.nsr.go.jp/activity/regulation/tekigousei/h26fy/data/0102_09.pdf
[11] 森山清史他, 「軽水炉シビアアクシデント時の炉外水蒸気爆発による格納容器破損確率の評価」JAEA-Research-2007-072
http://jolissrch-inter.tokai-sc.jaea.go.jp/pdfdata/JAEA-Research-2007-072.pdf
[12] 井野博光,滝谷紘一「不確実さに満ちた過酷事故対策ー新規制基準適合性審査はこれでよいのか」,科学、84巻3号(2014年),p.333-345.
http://www.iwanami.co.jp/kagaku/KaMo201403.html
[13] 資源エネルギー庁「原発の水素爆発防ぐ新たな装置開発」2014年7月12日。
https://www.youtube.com/watch?v=LUpW_Lp4NRM
[14] 吉井英勝議員(当時)提出の質問主意書(2006 年 12 月 13 日提出,質問 256 号)に対する安倍晋三内閣総理大臣(当時)の答弁 
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a165256.htm
[15] 木村俊雄「地震動による福島第一1号機の配管漏洩を考えるー東京電力「福島原子力事故調査報告書」と新規公開データの考察から」,科学83巻11号(2013年),pp.1223-1230。
http://www.iwanami.co.jp/kagaku/KaMo201311.html 
[16] 毎日新聞 2014年06月09日大阪夕刊.

福岡核問題研究会7/5

福岡核問題研究会が以下の日程・議題で開催されました.

日時:7月5日(土)午前10時より
場所:九大筑紫キャンパス 総合研究棟5階511室
議題:(1)低炭素社会に向けた石炭火力発電の最新技術について(報告:中西)
   (2)内部被ばくについての一考察(報告:三好)

それぞれの報告は,以下にpdfファイルが有りますので参考にしてください.

(1)低炭素社会に向けた石炭火力発電の最新技術についての中西報告
(2)内部被ばくについての一考察についての三好報告

(1)の議題について
 石炭火力発電の最新技術は,低炭素社会に向けて大切であるが,特に,エネルギー自給率の低い日本において,特に大切である.石炭火力発電の最新技術において大切な点は石炭のガス化であるが,石炭ガス化発電設備は,石炭を完全にガス化することと石炭灰を完全溶融してガラス化する無害化処理が必要となる.これらの問題をクリアーしたのが、テキサコ式石炭ガス化炉であった.その後,溶融灰に長期間浸食されない耐火煉瓦の開発によりテキサコ式石炭ガス化炉は実用炉となった.
 石炭ガス化発電は,高温で処理するために,これまでの石炭火力や石油火力に比較して生産電力あたりの二酸化炭素排出量が抑えられる点だけでなく,排出された二酸化炭素を回収して井戸を通して地中に封じ込める技術の実用化に向けたCCS(Carbon dioxide Capture and Storage)という実証試験がなされているという.もし,このような技術が実用化されれば,大気中の二酸化炭素を吸収して成長した木材によるバイオマス発電から排出される二酸化炭素に対して,CCSが実行出来れば,地球温暖化の主要な要因の一つと考えられている二酸化炭素を減少していくことも,決して夢ではない.

(2)の議題について
 内部被ばくと外部被ばくは根本的に異なった被ばく形態である.
 外部被ばくで問題となるのは,主にγ線であり,α線やβ線はあまり問題にならない.γ線は一定の割合で人体と相互作用して,人体に一定のエネルギーを付与して,元のエネルギーのほとんどを持ったまま体外に出て行く.
 一方,内部被ばくで問題となるのは、α線やβ線であり、γ線はほとんど問題にならない.このα線やβ線の内部被ばくでは,これらの放射線のエネルギーのほとんどは,体内の細胞に付与されることになる.この意味で,α線やβ線の内部被ばくは,γ線の外部被ばくとは,根本的に異なった被ばく形態である.これらの内部被ばくによる被ばく線量がどの程度になるかを考えた.

福岡核問題研究会 5/31

福岡核問題研究会が以下の日程・議題で開催されました.

日時:5月31日(土)午前10時より
場所:九大筑紫キャンパス 総合研究棟5階511室
議題:(1)『美味しんぼ』が提起した問題について(報告:豊島)
   (2)大飯原発差し止め訴訟判決の意義(報告:三好)
   (3)梅田原発労災事件について(報告:三好)

それぞれの報告は,以下にpdfファイルが有りますので参考にしてください.

(1)『美味しんぼ』が提起した問題について豊島報告
(2)大飯原発差し止め訴訟判決についての三好報告
(3)梅田原発労災事件について三好報告

(1)の議題について
 一般的な外部被ばくの場合,鼻血などの急性障害が現れるのは,1シーベルト以上の被ばくの場合であることを根拠に,福島原発事故における地域住民の被ばく(飯舘村や浪江町を含む相双地域の住民の事故後約4カ月の間に受けた推定の外部被曝線量はほとんど10ミリシーベルトである)では,鼻血などの急性障害はでないと主張する識者がいる.一方で,事故後,鼻血の症例が多数あったことを重視して,鼻腔内の局所的な内部被ばくが鼻血に関係しているかも知れないと推論する識者もいる,
 ここでは,鼻腔粘膜への放射性物質の沈着により内部被ばくがどれ程の量であるかを以下のサイトの紹介というかたちで発表した(ただし,同サイトのヨウ素からのベータ線の平均エネルギー0.192keVにミスがあり,その点を修正している).
http://ameblo.jp/study2007/entry-10925145430.html
本試算では,ベータ線に被ばくする鼻腔粘膜の質量を2gとして199ミリシーベルトの被ばくがあるとした.ただ,0.192keVのベータ線の到達距離が約0.5mmであることを考慮すれば,被ばくの鼻腔粘膜2gは明らかに大きすぎで,鼻腔粘膜は局所的に1シーベルト以上の被ばくを受ける恐れがある.

(2)の議題について
大飯原発差し止め訴訟判決の圧巻の文章は
「個人の生命,身体,精神及び生活に関する利益は,各人の人格に本質的なものであって,その総体が人格権であるということができる.人格権は憲法上の権利であり(13条、25条),また人の生命を基礎とするものであるがゆえに,我が国の法制下においてはこれを超える価値を他に見出すことはできない.したがって,この人格権とりわけ生命を守り生活を維持するという人格権の根幹部分に対する具体的侵害のおそれがあるときは,人格権そのものに基づいて侵害行為の差 止めを請求できることになる」
「被告は本件原発の稼働が電力供給の安定性,コストの低減につながると主張するが,当裁判所は,極めて多数の人の生存そのものに関わる権利と電気代の高い低いの問題等を並べて論じるような議論に加わったり,その議論の当否を判断すること自体、法的に許されないことだと考えている.・・・このコストの問題に関連して国富の流出や喪失の議論があるが,たとえ本件原発の運転停止によって多額の貿易赤字が出るとしても,これを国富の流出や喪失というべきではなく,豊かな国土とそこに国民が根を下ろして生活していることが国富であり,これを取り戻すことができなくなることが国富の喪失であると当裁判所は考えている」
などであろう.本判決での主な論点を整理すると
・人格権は憲法上の権利であり,これを超える価値はない
・福島原発事故は原子力技術の危険性の本質を明確にした
・原発稼働は経済活動の自由に属し,憲法上は人格権より劣位にある.人格権が奪われる具体的危険性が万が一にでもあれば,差し止めは認められる.
・原発の安全技術と設備は、確たる根拠のない楽観的な見通しの下に初めて成り立つ脆弱なもの
・多数の人の生存そのものに関わる権利と電気代の高い低いという問題を並べて論じるのは,法的には許されない
などであるが,それ以外にも大飯原発から250キロメートル圏内に居住する住民にその人格権が侵害される具体的危険があると判決で認めたことは,今後の原発再稼働に対して反対していく上で大きなことであろう.

(3)の議題について
 梅田原発労災事件についてのレビューを行い,記録なれた雰囲気線量率や労働時間などから外部被ばく量についての推定値を試算してみた.その結果,フイルムバッジによる外部被ばく量8.6ミリシーベルトというのは桁違いに小さな数値であることが判明した.

西日本新聞「原発過酷事故備え万全か」

本研究会メンバー数名を3月に取材した内容を基にして,西日本新聞は4月27日朝刊1面〜2面で,「原発過酷事故備え万全か」という記事を報道しました.


原発過酷事故 備え万全か 懸念残る九電シナリオ… 溶融物 冷却できるか [福岡県]
2014年04月27日(最終更新 2014年04月27日 01時31分)
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/f_sougou/article/84829

原発の過酷事故対策が不十分ではないか-。専門家から、そんな疑問の声が上がっている。事故で冷却機能が失われ、原子炉内の核燃料が溶融し、炉を覆う格納容器を破壊して大量の放射性物質を放出させる「過酷事故」。安倍政権は原子力規制委員会の新規制基準を「世界一」と強調するが、世界ではそれを上回る安全性を整えた新設炉が建設されている。新基準では、格納容器内の圧力が高まった際、爆発を避けるため、放射性物質を含む気体を外部に排出させるベント(排出口)と呼ばれる最終手段も、九州電力などの加圧水型軽水炉(PWR)では設置の先送りが認められた。

「コアキャッチャーの設置は求められていなかった。(略)。格納容器の圧が高まっていた。溶け出した核燃料が圧力容器(原子炉)を破壊し、格納容器のコンクリートと反応し、大量の水素と一酸化炭素が発生している証左であった。ベントを行うしかなかった…」

現役国家公務員が「若杉冽(れつ)」のペンネームで原発政策の問題点を告発した小説「原発ホワイトアウト」終盤の一節。東京電力福島第1原発事故後の新規制基準と電力会社の対応がなお不十分で、過酷事故に見舞われるという設定だ。

小説に出たコアキャッチャーとは、原子炉から溶け出した3千度弱の炉心溶融物を受け止め、近接する貯留部に誘導して冷やすなどする設備だ。フランスのアレバ社は、フィンランドや中国、フランスで建設中の次世代原子炉(欧州加圧水型炉)に設ける。ホワイトアウトが指摘した、溶融物とコンクリートとの反応で、容器を爆発させるような事態を回避するためだ。

だが規制委の新規制基準にコアキャッチャーの設置義務はない。では、九電などPWR保有各社の対策はどのようなものか-。

規制委の審査で九電は、配管の破断で原子炉に冷却水が送れず、電源も失われた過酷事故対策を説明してきた。何とか移動式発電機をつないで格納容器への注入を再開するなどし、原子炉下のキャビティーと呼ばれるスペースに水をため、落下する溶融物を徐々に冷やすシナリオだ。

この対策に、疑問の声が出ている。

「溶融物がキャビティーに徐々に落ちると、水中で小さい粒になる。粒は膜に覆われ熱を保ち続け、膜が何かのきっかけで連鎖的に破け始めると、最も破壊力がある水蒸気爆発につながる可能性がある」。元燃焼炉設計技術者の中西正之さん(70)=福岡県水巻町=はこう指摘する。

一方、水をためなければ「ホワイトアウト」の展開通り、コンクリート反応で水素や一酸化炭素が発生するリスクが高まるという。

燃料溶融で発生する水素で建屋が爆発したとされる福島原発3号機。ただ、国会事故調の報告書では、爆発直前にオレンジ色の閃光(せんこう)が確認されたことに触れ「一酸化炭素の不完全燃焼と推論すると理解しやすい」と、複合要因の可能性を指摘している。

キャビティーに水をためれば水蒸気爆発、水をためないとコンクリートと反応し一酸化炭素などによる爆発の懸念が残る。

九州工業大の岡本良治名誉教授(原子核物理学)は「格納容器の爆発を防ぐには最終的にはベントで放射性物質を外に逃がして減圧するしかない」と説明。ただ、格納容器が大きいPWRは、気体の密度が高まりづらく爆発の危険性が比較的低いとして、ベント設置は5年間猶予された。「九電は、炉心溶融は起きえないと本心では考えているのではないか」。岡本名誉教授は指摘する。

東電は、柏崎刈羽原発を抱える新潟県からの「コアキャッチャーを設置しないのか」との質問に、「格納容器下部に耐熱材を敷設するなど、浸食を軽減させるさらなる安全性向上策を検討中」と、新基準を上回る独自の追加対策を示唆している。

=2014/04/27付 西日本新聞朝刊=

奈良林直氏の参考人意見陳述について

奈良林直氏の参考人意見陳述について

2014年4月4日
福岡核問題研究会


 去る1月24日に,佐賀県議会・原子力安全対策等特別委員会で,北海道大学大学院教授の奈良林直氏が参考人として意見陳述をされました.その一部始終は
県議会の録画で見られます.
 玄海原子力発電所の再稼働については,目下原子力規制委員会が審査中であり,もし可となった場合は最終的に県の同意が求められます.そのさいに県議会の責任は大きく,それに応えるための準備として,今回の参考人招致が,そしてまた
昨年12月13日の東大名誉教授・井野博満氏の参考人招致が実施されたものと思います.
 そのような重要な意味を持つ参考人陳述ですが,奈良林氏の発言には明かな誤りや,聞き手に誤った認識を生じさせる恐れのある箇所がいくつも存在します.私たちは,奈良林氏と同様に科学技術分野における教育・研究や実務に携わってきた者として,この問題点を指摘しなければならないし,そうでなければ無責任であると考えました.
 そこで,明白な誤りや誤った認識を生じさせる恐れが極めて大きいポイントに絞り,かつ客観的情報が容易に入手できる範囲で,問題点を指摘したいと思います.同時に,奈良林氏ご本人から訂正が行われることを期待しています.

  • この文書は,4月4日,佐賀県議会事務局に議員への配布を依頼,また佐賀県政記者室に「投げ込み」をし,4月7日10時30分よりの記者会見を設定してもらいました.これに先立って,奈良林氏宛に,手紙を付けて郵送しました.
  • 4月7日10時30分よりの記者会見では豊島,三好の出席のもと,佐賀新聞,毎日新聞,読売新聞,西日本新聞,共同通信など7つの報道機関の記者が集まりこちらの説明を聞き,若干の質疑応答がありました.

奈良林直氏の参考人意見陳述について」のpdfファイル

関連ブログサイト(ペガサス・ブログ)

4月8日の毎日新聞の佐賀地方版に以下の記事が載りました.

県議会原子力対策特別委:参考人の奈良林氏「発言内容に問題」 核問題研究会が指摘 /佐賀
毎日新聞 2014年04月08日 地方版

 県議会原子力安全対策等特別委で1月、参考人出席した北海道大大学院教授の奈良林直氏の発言について福岡核問題研究会(三好永作世話人、約10人)は7日、県庁で記者会見し「誤りや間違った認識を生じさせる恐れのある箇所がある」と指摘した。指摘内容は文書で奈良林氏と県議全員宛てに送ったという。
 奈良林氏は1月24日、九州電力玄海原発(玄海町)の再稼働の是非を巡る参考人招致で、再稼働に肯定的な立場で意見を述べた。
 研究会は学識経験者らで組織。会見した会の豊島耕一・佐賀大名誉教授によると、奈良林氏の発言のうち、原子力発電と太陽光発電のコスト比較▽放射線の人体への影響▽高レベル廃棄物埋設の安全説−−など計7項目について「誤り」や「国際的な常識や定説を否定している」などの問題があるという。
 水蒸気爆発の発生条件については「溶融物(核燃料など)が3000度以上で、落下先の水温が30度以下」との奈良林氏の説明に対し「溶融物が3000度以下でも、水温が30度以上でも水蒸気爆発が起きる例がある」と反論した。
 豊島名誉教授は「原発については、科学的で正確な認識を持ってもらいたい」と批判した。【松尾雅也】

論文「炉心溶融物とコンクリートとの相互作用による水素爆発,CO 爆発の可能性」

福岡核問題研究会のメンバーが執筆した論文「炉心溶融物とコンクリートとの相互作用による水素爆発,CO 爆発の可能性」が『科学』3月号に掲載されました.
岩波書店の承諾もとに2014年4月1日よりそのpdfファイルをここに公開します.

論文「風船と放射性微粒子」

三好永作,伊藤久徳著の「風船と放射性微粒子」という論文が日本科学者会議の会誌『日本の科学者』2014年2月号に掲載されました.この論文は,風船プロジェクトで飛ばされる風船と原発事故によって放出される特定の放射性微粒子の違いと類似性を科学の目で論じたものです.両者には一定の類似性があり,風船プロジェクトにはそれなりの意義があると結論を出しています.興味のある方は,以下をクリックしてみてください.

論文「風船と放射性微粒子」

再稼働に関する九電への公開質問状

再稼働に関する九州電力への公開質問状


 日本科学者会議(JSA)福岡核問題研究会は,1月7日付で九州電力に対して,玄海原発3・4号機の再稼働問題に関しての公開質問状を提出しました.公開質問状の内容は,以下の通りです.なお,pdfファイルを以下からダウンロードできます.
 2月4日までに文書での回答をという要請に対しての九電の対応は,現在,原子力規制委員会で安全対策を議論しているところであり,当日までに文書でまとめて回答することは難しいが,その期日までに回答できる点については,説明する日時・場所を設定したい,ということであった.(2014.1.5/EM)

 本日(2月6日)1/7日に渡した公開質問状に対しての九電からの電話連絡がありました.質問内容が,現在,原子力規制委員会で審議されている事項にかかわっており,検討中のものであり回答できる状況ではないということでした.回答がいつ頃できるかについてもその時期を特定できないとのことでした.これは,しばらく長期戦になるものと気を引き締める必要がありそうです.(2014.2.6/EM)


再稼働に関する九電への公開質問状

 この公開質問書に対する九州電力からの回答は,現在(2014.2.5午後4時)の時点までには届いていません.先日(2014.2.3),「さよなら原発!佐賀連絡会」(代表:豊島耕一佐賀大名誉教授)の質問書に対する九州電力佐賀支部において回答がなされましたが,そこでは,再稼働に関連した過酷事故に対する対策についての質問についてはすべて,原子力規制委員会で審議中なので回答できないということでした.九州電力からの回答は,大幅に遅れるのかも知れません.

 「読売新聞」と「しんぶん赤旗」が,それぞれ,1月8日付の新聞(朝刊)で今回の公開質問状について報道してくれました.それらの報道内容は
ここにあります.

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201417

九州電力株式会社
代表取締役社長
瓜生道明 殿

日本科学者会議 福岡核問題研究会


玄海原発34号機の再稼働に関する公開質問状


炉心溶融などの過酷事故が起きた場合には,広大な領域が放射能汚染され,そこでの住民の生活が不可能になり,多くの人びとが生活基盤を失い避難生活を強いられることになる,ということを福島第一原発の事故は教えてくれました.いまだに福島県だけで15万人におよぶ人々が不自由な避難生活を強いられています.避難指示区域全体の広さは沖縄本島ほどもあり帰宅困難区域の広さは福岡市ほどもあります.
もし,玄海原発でもこのような過酷事故が起きれば,原発の周囲30km範囲だけでなく,九電本社のある福岡市などの住民も避難生活を余儀なくされ,被ばくによる死亡や健康被害,生活破壊など取り返しのつかない惨事となる恐れがあります.放射能汚染は世界中に広がってしまいます.そのようなことが絶対にあってはなりません.
このようなことを勘案すれば,玄海原発は再稼働すべきではないことは明確です.炉心溶融などの過酷事故により原子炉内の放射能が外に放出される危険が無視できるほどに小さいとはいえないからです.
現在,原子力規制委員会で審議されている玄海原発3・4号機の過酷事故対策について,その科学的・技術的な妥当性を吟味するために以下の質問をしますので,24日までに文書でご回答ください.
(1)「全炉心内のジルコニウム量の75%が水と反応するものとする」との審査ガイドに従って,九州電力が計算した発生水素量は407.8キロモルです.その結果,格納容器内のドライ換算水素濃度は12.88%となり,「水素爆轟の目安となる13%に到達することはない」と安心されています.しかし,水素が最も軽い元素であること,ジルコニウム水反応が比較的短時間に起きる反応であることを考えれば,水素濃度の不均一性を考える必要があると思われます.格納容器内における水素濃度の不均一性についての検討はどの程度なされているのでしょうか.もしも,不均一性があるのであれば,水素爆轟の目安となる13%を超える領域もあり得るという考えに立つことが安全確保という観点から大切なのではないでしょうか.また,水素爆轟が起こる水素濃度は,さまざまな条件によって変わることが知られています.政府事故調の最終報告書(pdfp.43)によれば,爆轟の下限は12.5%とも18.3%とも言われているとそれぞれ文献をあげています.このような点についての検討がどのようになされているかをお答えください.
(2)75%のジルコニウムが水と反応すれば,均一濃度で12.88%となるかも知れませんが,76%あるいはそれ以上のジルコニウムが水と反応すれば,確実に均一濃度で13%を超えます.その場合に取るべき対策は考えておられるのでしょうか.
(3)九州電力は,自主的な取り組みで原子炉内の水素濃度低減対策として「事故時の格納容器内の水素濃度を低減する電気式水素燃焼装置を設置」を10月末までに完了したとのことですが,全電源喪失時にこれらのシステムが働かないような事態は考えられるのではないでしょうか.また,水素濃度が不均一な場合に,この装置の作動により格納容器内において燃焼波がつぎつぎに伝播して水素濃度の高いところで水素爆轟が起こる危険はないのでしょうか.
(4)格納容器内を窒素で封入するなどのより安全性の高い対策を取ることは検討しないのでしょうか.水素爆発を防止する対策としては,窒素封入はより安全であると思いますが,九州電力がこの対策を考えない理由はなんでしょうか.
(5)九州電力は,解析コードMAAPを使った数値シミュレーションの結果を基にして格納容器は過酷事故時にも大丈夫であると言っているように思います.しかし,MAAP等の解析コードは,福島事故後の実測プラントデータを再現できない部分があり,国内外のプロジェクトによりコード改良が進められているところです.現状のMAAP等の解析コードの信頼性を,九州電力はどのように評価されているかについてお答えください.数値シミュレーションというのは,一般に,ある限られた要素しか取り込むことが出来ません.この解析コードMAAP以外の数値シミュレーションあるいは何らかの実証実験などを行う予定はないのでしょうか.
(6)炉心溶融が生じたときに,溶融した炉心(コリウム)を格納容器内に水を張って受け止めるという対策が九州電力から提案されていましたが,この対策は原子力規制委員会でも批判されました.この対策はその後どのようになったのでしょうか.もちろん,一度に大量のコリウムが格納容器内に入ってくれば水蒸気爆発の危険さえ考えられます.この水蒸気爆発の危険について,どのようにお考えかお答えください.
(7)格納容器内に水を張ったとしても,大量のコリウムが入り込めば,格納容器の床面においてコリウム・コンクリート反応は避けられないと思われます.このコリウム・コンクリート反応についての対策があれば教えてください.さらに,より安全性の高いコア・キャッチャーの様な過酷事故対策を考えない理由をお答え下さい.
(8)福島原発事故の際には,地震動により受電鉄塔が倒壊し外部電源が失われました.さらには,送電系統の意図的破壊は容易であり,防ぎ難い問題であることが指摘されています.原発に送電する鉄塔・開閉所・変圧器等の系統設備に関しての,地震動等による災害対策およびテロ対策はどうなっているのでしょうか.
(9)1988年,四国電力の伊方原発付近に米軍ヘリが墜落しました.また,最近は,墜落が懸念される米軍のオスプレイが飛行ルート非公開で低空飛行しています.玄海原発34号機の建屋は格納容器と一体的に建設されており,航空機等の衝突により格納容器は一度に破壊される恐れがあります.貴社はこれら原発への航空機等の衝突対策を不要としていますが,その理由と根拠をお答えください.

以上
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学習講演会「福島原発の現状と玄海原発の再稼働問題」

福島原発の現状と玄海原発の再稼働問題


 安倍首相は,オリンピック招致の最終プレゼンテーションで「状況はコントロールされている」,「汚染水は,港湾内で完全にブロックされている」と発言しましたが,汚染水漏れ事故は続いており,福島原発事故は決して収束していないことが明らかになっています.いまだに,福島原発事故において何が起きたのかはっきり分かっていません.現在,事故を起こした福島原発について,汚染水問題や4号機の使用済み燃料の処理,除染,放射線被曝問題はどうなっているのでしょうか.
 一方,原子力規制委員会では,玄海原発の再稼働に向けた審査が進められています.問題は,この審査の中で九州電力が提出した過酷事故に対する対策が極めて杜撰なものであることが明らかになっていることです.例えば,炉心溶融時に水素爆発や水蒸気爆発,さらにはコア・コンクリート反応(CCI)などに対する対策が取られていません.また,コアキャッチャーのようなヨーロッパの進んだ対策はまったく考えられていません.この過酷事故対策において,どのような点で問題があるかをつかむことは,再稼働を許さない運動をしていくうえで重要です.今回は,これらの点を学習していくために下記の講演会を企画しました.興味のある方は,繰り合わせてお集まり下さい.会場の関係で先着80名程度で締め切らせていただきますので,お早くお出かけください.



日 時:2013年12月7日(土曜日)開場13:30 開始14:00〜終了17:00
場 所:ふくふくプラザ 5F 視聴覚室(福岡市中央区荒戸3-3-39)下図参照
資料代:500円

プログラム
第一部:福島原発事故は今どうなっているか
(1)汚染水問題を中心として      
レジュメ
   岡本良治(九州工大名誉教授)   
発表資料
(2)除染と放射線被曝問題を中心として 
レジュメ
   豊島耕一(佐賀大名誉教授)    
発表資料

第二部:玄海原発の再稼働問題を考える
(1)九電の過酷事故対策の問題点    
レジュメ  
   中西正之(元燃焼炉設計技術者)  
発表資料
(2)コメント         
   北岡逸人(元柏崎刈羽市民ネット事務局長)

主 催:福岡「日本の科学者」読書会
    福岡核問題研究会
    日本科学者会議・福岡

連絡先:eisaku.miyoshi@kyudai.jp
電 話:092-522-8401

案内ビラはここにあります.

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7月例会「チャイナ・シンドローム対策の欠如」

7月例会 7/13(土)午後2〜5時

7月13日の委員会では,中西正之氏により「日本の原発のチャイナ・シンドローム対策の欠如」とのタイトルで講演いただいた.講演の概要は以下の通り.

 1970年代に日本において耐火コンクリートの爆裂事故が多く経験され,耐火物技術協会ではその原因と対策が研究されるようになってきた.しかし,この知見は原子炉設計には生かされなかった.また,耐圧容器,格納容器,原子炉建屋を構成するカーボンスチールとポルトランドセメントコンクリートは,核燃料のメルトダウンによる落下で簡単に溶けてしまい,ほとんど構造物としての抵抗が無く,土中を潜り抜けて地下水が大量に流れている部分まで落下して,地下水の放射性物質汚染を引き起こす可能性が極めて大きい.これを防止する耐熱対策は文献調査の段階であり,原発の安全性がほとんど確保されていないものと思われる.

 一般の建築に使用されるコンクリートは,ポルトランドセメントの反応を完全に行うために,多めの水が添加されている.この余分の水は何十年もコンクリートの中に閉じ込められている.そして,何らかの原因でコンクリートの表面が急激に加熱されるとこの余分の水が高圧蒸気となり,その蒸気圧がコンクリートの引張強度を超えるとコンクリートの爆発が起こる.専門用語でこれを爆裂と呼んでいる.

 したがって,高い温度で熔解される鉄や銅などの熔融金属を処理する設備では,建物の床は水分を含まない高い温度に耐える耐火物で保護することは,高温熔解設備を作るときの常識である.メルトダウン,メルトスルーが起きた福島原発事故において,このようなコンクリート爆裂が起きたのかどうかは,各種の事故調査報告にもなく,明らかでない.しかし,東電の諮問機関の第2回原子力改革監視委員会(2012.12.14)での配布資料では,福島第一原発の熔融炉心落下対策不備があったことが述べられており,今後の対策が記載されているが,その内容はきわめてずさんなものである.例えば,耐火物に接着工法を使用しては行けないのは初歩的な常識であるが,保護構造をジルコニアタイルで検討しており,明らかに接着工法を想定したものである.

 福島原発事故においてメルトダウン,メルトスルーにより格納容器の床に落下した熔融炉心が,コンクリート爆裂を起こしたかどうかは明らかでないが,しかし,はじめから,メルトダウン,メルトスルーを想定していなかった福島原発の床が高い温度に耐える耐火物で保護していたと考えるのは自然ではなく,余分の水を含んだコンクリートが爆裂を起こした可能性は高いと考えられる.

 さて,いま再稼働の安全審査がなされている玄海3・4号機の格納容器の床面は耐火構造になっているのであろうか.玄海3・4号機は「原子炉建屋はなく,そのかわりに原子炉格納容器を厚さ6.4mmの鋼板と厚さ1.3mのコンクリート壁で二重に」なっているという.格納容器の床面は,約11mの厚さの鉄筋コンクリートであるというが,この床面が連続的に起こるコンクリート爆裂により破られる心配はないのか.また,窒素封入されている沸騰水型の格納容器と異なり,加圧水型の格納容器内には空気(酸素)があるので,水素が混入することで水素爆発の危険がある.何より玄海3・4号機にはベント設備が存在しない.いまの新安全基準ではフィルター付きベントの設置は5年間の実施猶予期間が設けられるという.安全装置なしで原発の再稼働を認められることも考えられる.加圧水型の格納容器は,沸騰水型のものに比較して大きいので,時間的余裕があり,ベント設備の必要はないという安全神話を振りまく意見もあるという.これまでと変わらない,このような安全神話のもとで玄海3・4号機の再稼働を許してはならない.

 委員会終了後,「アサヒビール園」において生ビールで暑気払いを行った.

6月例会「放射線の人体への影響」

6月例会 6/22(土)午後2〜5時

泉雅子氏(理化学研究所)の論文「放射線の人体への影響」(日本物理学会誌2013.3月号)の批判的紹介が行われた.

 論文の主な内容は,(1)放射線によるDNA損傷と細胞の防御機構,(2) 個体レベルでの放射線影響,(3) 事故後の被曝限度の規制値と今後のリスクである.

 分子生物学の進展の中で,放射線に対する細胞応答の分子レベルでの理解が進んでいる一方で,長期にわたる低線量被曝や内部被曝の人体への影響についての情報は少なく,不安と混乱がある.本論文では,放射線の生物影響についてのこれまで得られている知見を述べ,放射線防護のための規制値の根拠について解説するとしている.しかし,放射線の人体影響やチェルノブイリ事故後のデータについて,欧州放射線リスク委員会(ECRR)の勧告や独立系研究者による研究報告を集めたチェルノブイリに関する本(Chernobyl: Consequences of the Catastrophe for People and the Environment, 2009)などが無視され,『日本の科学者』2013.1月号で「国際原子力ムラ」と批判されている国際放射線防護委員会(ICRP)や国連科学委員会(UNSCEAR)からの引用が目立つ点で客観性に疑問が残る.

 放射線をあびることでDNAは,塩基脱落や二重鎖の片側だけが切断(一本鎖切断)したり,二重鎖の両側が切断(二本鎖切断)したりする.DNAの塩基脱落や一本鎖切断などの修復はほぼ共通の手順により簡単に行われる.しかし,DNAの二本鎖切断の修復は簡単ではない.二本鎖切断の修復には,同じ遺伝情報を持つ染色体を鋳型にして修復する方法(相同組換え修復)と末端の損傷部位を取り除いて再結合させる方法(非相同末端結合)がある.相同組換え修復では正確に修復されるので問題ないが,非相同末端結合による修復では塩基が数個から数十個欠けることが多いという.そして,ゲノムサイズの小さい単細胞生物などでは相同組換え修復が優位であるが,ヒトなどの高等真核細胞では修復の99%が非相同末端結合によるものであるという.このようなDNA内の複数の塩基対が欠落する修復でも大きな問題が起きない主な理由は,ヒトのゲノムのうち遺伝子として使われている領域はわずか2%に過ぎないことにあるようだ.

 福島原発事故の直後に行われた,原発周辺地区の小児約1000人に対する内閣府の調査では,ヨウ素による甲状腺等価線量の最高値が35 mSvであり,甲状腺ガンが高まる線量が100 mSvであることなどから,国内で小児の甲状腺ガンが増加することはないと予測を支持している.最近の福島県の甲状腺検査で12人が甲状腺ガンと診断されたこと(注1)を考えれば,明らかに楽観的に過ぎる予想である.

 泉氏は「研究に携わる者が国民に対して正しい科学的情報を提供し,分かりやすく伝えていく努力も必要である」といっている.しかし,チェルノブイリや福島で起きている現実を観ず,狭い自分の専門分野だけの知識で放射線の人体への影響について楽観論を振りまくのは褒められたことではない.『日本の科学者』2013.6月号で高岡滋氏(医師,水俣市)が述べた「科学者が科学本来の意味と役割,諸科学の基盤や枠組みを自覚しなければ,その行為が進んで人倫に反する役割を推進する結果となりうる」という警告を確認する必要があるように思われる.

(注1):サイトhttp://toyokeizai.net/articles/-/14243を参照.この検査での甲状腺ガン発生率は,通常の100倍以上にもなる

声明「原発再稼働を許さず脱原発の歩みを強めよう」

4.17声明

原発再稼働を許さず脱原発の歩みを強めよう


2013.4.17


 現在,ここ九州では原発の稼働なしで電力が供給されています.発電の9割程度は,石炭や石油,天然ガス(LNG)を燃料などの化石燃料による火力発電に依存しています.これらの火力発電の最大の問題は,地球温暖化に深い関係がある二酸化炭素(CO2)を多量に排出することです.気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第4次評価報告書(2007)は,地球温暖化の主な要因はCO2などの人為起源の温室効果ガスであるという可能性がきわめて高いと指摘しています.旧式の石炭火力発電では,多量のCO2排出のみならず硫黄酸化物や窒素酸化物,さらにPM 2.5の排出などによる健康被害も心配です.最近話題のPM 2.5は,中国からのみ飛んできているのではありません.

 一方では,CO2を出さず環境負荷のない再生可能エネルギー(水力発電を除く)による発電は2%未満にしかなっていません(平成23年末現在).この再生可能エネルギーによる発電を促進していくことは重要なことです.しかし,この再生可能エネルギーによる発電が急速に進み,化石燃料による発電の代替になる程度に成長することは当面の間は望むべきもありません.

 九州電力の今年5月からの6.23%電気料金値上げの最大の理由は,これら火力発電の燃料費の負担増加でした.九州電力の今回の値上げは,原発の再稼働を前提にして,再稼働できない場合にはさらなる値上げを公言しています.しかし,現在でも16万人が避難生活を余儀なくされている福島第一原発事故による被害の深刻さを思い,この被害がこの程度で済んだのはたまたまの偶然であり,当時の菅首相の口から出たように「東日本がつぶれる」という事態にさえなり得たことを考えれば,この地震国日本において原発を再稼働していく道はあり得ません.現在でも,福島第一原発事故において地震動による被害がどのようなものであったかさえ解明がなされていません.先日の淡路島地震は,発見されていない断層が引き起こしたものとされています.地震国日本においては,原発事故に連動しうる地震はどこでも起きうると考えておくべきです.

 以上の認識から,私たち日本科学者会議福岡 核問題研究委員会は,以下のように原発を再稼働せず,CO2の排出量を抑えていく発電を進めて行くことが重要であると考えます.

(1)玄海および川内の計6基の原発は再稼働を行わないこと.
(2) CO2の排出削減を達成するために,当面の間,熱効率が悪くCO2排出の多い旧式の火力発電を,高い熱効率の最新のガスタービン複合発電(GTCC)に順次代えて行くこと(九電は原発安全対策に2000億円程度を使おうとしていますが,その程度の予算で原発4基分の発電量のGTCCが建設できるという試算もあります).さらにこの際,余熱を利用していくコジェネレーションを同時に行い,エネルギー消費全体の抑制する方法を取ること.
(3)小水力,バイオマス,太陽光,風,地熱などのCO2の排出を伴わない再生可能エネルギーの利用による発電を急速に進めること.

以上


日本科学者会議福岡 核問題研究委員会

<3.11>2周年原発シンポジウム

<3.11>2周年原発シンポジウム

原発ゼロ社会をめざして


私たち日本国民は,東北地方太平洋沖地震に端を発した福島第一原発事故からまもなく2周年を迎えます.この事故は,原発事故はいとも簡単に起きること,そして,地震国日本には安全な原発はそもそも存在しないということを私たちに教えてくれました.現在でも16万人におよぶ人々が避難生活を余儀なくされているだけでなく,年間の被ばく線量が数ミリシーベルトに及ぶような地域に残り生活されている人々もいます.このようなかたちで放射能汚染による被害は現在でも進行しています.原発事故が起こした問題の多くは未解決のままです.
事故から2周年を迎えるにあたって,今回のシンポジウムでは,低線量被ばく,内部被ばくによる健康影響についてどのように考えればよいのか,原発を監視する役割を持っている原子力規制委員会はどうあるべきなのか,また,原発ゼロ社会をめざすうえで玄海訴訟はどの程度有効なのか,などについて第一線で活躍されているそれぞれの専門家の講演を聴き,認識を深めるシンポジウムを企画しました.このようなことに関心をお持ちの皆様の多数のご来場を期待します.
ただし,会場の広さの制限から,先着90名までに限らせていただきます.




日 時:2013年3月3日(日曜日)開場13:30 開始14:00〜17:00
場 所:久留米大学 福岡サテライト(大丸東館エルガーラ6F,下図参照)
内 容:
(1)あいさつ 5分 小早川義尚(JSA福岡 事務局長,九州大学教授)
(2)高岡 滋(神経内科リハビリテーション協立クリニック,医師) 60分
  「低線量被曝、内部被曝による健康影響」
(3)吉岡 斉(九州大学教授,副学長) 60分
  「
難航する原子力安全規制改革」 
(4)近藤恭典(福岡第一法律事務所,弁護士) 20分
  「九州玄海訴訟 取り組みの現状」
(5)休憩(5分)
(6)質疑討論(30分)

次ページに当日のレジュメ,pptファイルおよび音声付きpptファイルを掲載します.

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2013.1.27例会Tondel論文など

核問題研究委員会 1月例会

日時:1月27日(日)午前10時より
場所:九大筑紫キャンパス 総合研究棟C-CUBE6階ゼミ室
内容:(1)チェルノブイリ事故後の疫学調査をしたTondel論文の紹介(報告:E.M.)
   (2)最近の新聞のミニレビュー(報告:A.S.)
   (3)3/3(日)の<3.11>2周年記念シンポジウムの企画
      高岡滋医師「低線量被曝、内部被曝による健康影響」ほか


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原子力規制委員会設置法の撤回要求

原子力基本法の改悪および原子力規制委員会設置法の撤回を求める


衆議院議長 横路 孝弘 殿
参議院議長 平田 健二 殿

去る6月20日に成立した原子力規制委員会設置法の第1条では,原子力利用の目的に「我が国の安全保障に資する」という文言が挿入されました.これに連動させて,この法律の付則第12条で原子力基本法の第2条(基本方針)の第2項に同様の文言を加える改悪が行われました.私たちは科学者としてのみならず一市民としても,これらの内容と審議過程に重大な危惧を持つに至りました.以下に,原子力基本法の改悪と設置法に関わる問題点やその成立過程の問題点を整理・指摘するとともに,原子力基本法の改悪と設置法を撤回し,手続きをやり直すことを求めます.

(1)日本の原子力関連の個別法はすべて,日本国憲法と原子力基本法の枠内で作られることになっています.すなわち原子力基本法は個別法である原子力規制委員会設置法(以下,設置法と略)に優先する法律であり,設置法は原子力基本法の枠内で決めることが求められています.しかし,今回の設置法の第1条で原子力利用の目的に「我が国の安全保障に資する」が付け加えられました.「安全保障」という文言は,一般に,軍事を含む防衛を意味します.したがって,この文言では,原子力利用は核兵器開発も含むという解釈が可能となり,「平和の目的に限り」というこれまでの原子力基本法の基本方針(第2条第1項)の枠を大きく踏み外すことになります.そこで設置法の付則第12条で原子力基本法の第2条(基本方針)の第2項に同様の文言「我が国の安全保障に資する」を加えるという改悪が行われました.この改悪により,原子力基本法の第2条の第1項(平和目的と平和利用3原則)と第2項(「安全保障に資する」)の間に,大きな論理的矛盾をもたらすことになりました.原子力基本法の精神の中枢部分が同じ法律の中で否定されたと言っても過言ではありません.このように個別法の付則によって,より上位にある原子力基本法の基本方針を審議なしに変更することは,法治国家として決して許されることではありません.原子力基本法の変更は, 貴両院の議員諸氏のみならず,原子力関係の科学者,技術者を含む国民各層の意見を傾聴し,十分に時間をかけて慎重に行うべきです.

次項で指摘するように,国民にはこのような重大な内容が隠されたまま可決されたことは明らかに民主主義的な手続きの重大な瑕疵であり,歴史的暴挙と言わざるを得ません.イランなどに対して核開発の疑惑を云々する一方で,我が国の原子力政策の基本方針に軍事的目的を原子力基本法に含ませることは,広島・長崎における原爆被災を受けた国として,核兵器廃絶という国民的願いにも反し,憲法9条にも抵触する恐れがあるだけではなく,東北アジア諸国を始め,国際的に重大な懸念と想定が困難な事態を惹起する可能性を否定できません.
このような基本的な問題点を鑑みる限り,原子力基本法の改悪は撤回するべきであると私たちは考えます.

(2)今回の原子力規制に関する法案の基本は,国民の多数が強く希望しているように,2011年3月11日の東日本大震災に端を発した福島第一原発事故のような重大事故を二度と起こさないということに置くべきことは明白です.そのために日本国民が必要とする設置法は,福島第一原発事故についてのさまざまな事故調査委員会の最終報告,少なくとも貴両院が設置した事故調査委員会の最終報告を十分吟味し,どのような規制委員会が適切かを熟慮したうえで決めるべきです.国会および政府の事故調査委員会の最終報告書が提出されたのは,それぞれ,本年7月5日および7月23日でした.これらの報告書が提出される前に設置法を成立させることは立法府自身が自らの設置した事故調査委員会を否定することになり, 貴両院の歴史に重大な汚点を自覚なしに刻印することであると言わざるを得ません.これらの報告書についての説明をそれぞれの事故調査委員会から詳しく受けた上,慎重に審議し設置法の基本的骨格を決めるべきです.
このように福島第一原発事故についての原因と教訓を踏まえていない設置法は重大な問題点を有していると指摘せざるを得ません.

(3)本設置法の国会における成立過程をみると,民主主義に反する異常なプロセスが明らかになっています.当初の政府案は,民主党・自由民主党・公明党の3党によって非公開のもとで修正され,その修正案は6月15日に提案され,同日に衆議院の環境委員会で審議もなしに可決されてしまいました.新聞報道によれば,野党がこの265ページにおよぶこの法案を受けとったのは同日の午前であり,質問を考える時間もなかったと伝えられています.同法案は,直ちに衆議院本会議に送られ,そのまま同日午後に可決されました.参議院の環境委員会では若干の審議があったとはいえ,衆議院で採決される当日に265ページにおよぶ法案の提示し一切の審議もなしに可決するというのは,民主主義を破壊する暴挙です.しかも,参議院の委員会の審議が始まった7月18日の段階でも同法案は国会のホームページに掲載されず,国民には法案の内容を知る権利が奪われた状態であった点は,国民主権の観点から特に重大です.

(4)設置法には,原子力を規制する原子力規制庁の,原発を推進する機関からの独立性を担保するために,「原子力規制庁の職員は原子力推進に関わる行政組織への配置転換を認めない」(付則第6条2項,「ノーリターン・ルール」)が適用されたことは評価できます.しかし,これに対して例外を認めることで実質的には独立性が担保されないことになっているのは深刻な問題です.例外を求めない「ノーリターン・ルール」が必要です.また,「原子炉の運転期間は40年とする」という規定があるにもかかわらず,原子力規制委員会の許可を得て,例外的に20年の延長を認めるなど,60年運転も可能となる仕組みが図られています.現在の原子力規制委員会の人事案をみる限り,これらの疑念が現実のものとなる危険が高いように思われます.原子力規制庁の原発推進機関からの独立性を厳格に保ちながら,老朽化した原発に対する厳格に規制していく原子力規制委員会と原子力規制庁の姿勢を設置法の中に明記していくことが必要です.

以上のように,原子力基本法の改悪と本設置法および付則にはさまざまな問題点が含まれています.3・11福島第一原発事故の後,政府や原子力関係の科学者の対応や姿勢が国民各層に根強い不信感の原因となったことは国内外で周知の事実であります.さらに,今回の立法府における原子力基本法の改悪と本設置法および付則の重大な問題点が国民各層に周知されるならば,立法府に対する国民各層の信頼も大きく低下せざるを得ないと私達は強く懸念致します.さらに, 核兵器廃絶という国民的願いにも反し,憲法9条にも抵触する恐れが国民に認識されるならば,立法府への信頼度の低下のみならず,国民的反発を惹起する可能性も否定できません.

1955年に制定された原子力基本法は,基本的には,原発を推進するための法律(第1条目的「原子力の研究開発,利用の促進をもって人類社会の福祉と国民生活の水準向上とに寄与する」)であります.福島第一原発事故を経験した私たち日本国民の多くは,脱原発への路線に大きく舵をきることを考えはじめてきています.このような脱原発の方向に向けて,原子力基本法を見直すことこそいまの私たち日本国民には必要であります.ところが今回の改正では正反対に,核兵器開発の可能性にまで踏み込むことになっています.今回の原子力基本法の改悪と設置法を撤回するとともに,福島第一原発事故についての原因と教訓を踏まえた上で,重大事故を二度と起こさないような新たな厳格な原子力規制委員会の設置法を作成し,手続きをやり直すことを私たちは科学者としてのみならず一市民としても強く求めます.

以上

2012年8月20日
日本科学者会議福岡支部 核問題研究委員会

JSA声明・大飯原発再稼働

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写真はサイトhttp://portirland.blogspot.jp/2012/05/12.htmlより
日本科学者会議事務局長声明
「大飯原発再稼動の方針を撤回し、原発のない日本への決断をただちに行え」

日本科学者会議は.6月13日,事務局長名(米田貢教授,中央大学)で大飯原発再稼働に関する以下のような声明を発表しました.この声明は,6月8日の野田首相会見での大飯原発3,4号機の再稼働宣言に対するものですが,わがJSA福岡でも大会決議(5月13日)により「原子力発電の再稼働は認められない」との見解を発表しています.野田首相の再稼働宣言が問題なのは,福島原発の事故の原因が明確になっていない段階で,再稼働しても「実質的には安全は確保されている」としている点である.経産省の原子力安全・保安院が暫定的に提示した原子力事故対策30項目の半分が未達成のままである.ベントのフィルターや免震重要棟などの設置がないままで「安全確保」は達成できないのは明々白々である.さらに,大飯原発の直下に活断層が存在するとの指摘もある.これらの問題を残したままの再稼働はやはり納得できない.

以下が声明の全文です.
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12.6.2例会「震災がれき問題」

核問題研究委員会例会(6月2日)

震災がれきの広域処理と関連する問題に関して,久しぶりに核問題研究委員会の例会が開かれました.例会後,昼食をともにしながら,今後定期的に例会を持ち,さまざまな話題に関して議論していくととが確認されました.

日 時:6月2日(土) 午前10時から12時まで
会 場:福岡市男女共同参画推進センター・アミカス研修室C

内容
1.最近の情勢の特徴と震災がれき問題についての論点(報告:岡本)
2.北九州市の震災がれき処理受け入れ問題     (報告 豊島)
3.福岡市の震災がれき受け入れ問題        (報告:三好)
4.低線量内部被曝をめぐる論点          (報告:森)
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文科省「放射線副読本」を読んで

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文科省「放射線副読本」を読んで


三好永作


3月はじめに糸島で開かれた,文科省発行の放射線副読本(小学生用)「放射線について考えてみよう」を勉強する会に出席させてもらいました.3時間程度の勉強会でありましたが,この副読本がいかなる意図のもとに書かれたものであるかがよく理解できましたので,内容を紹介しながらそのことを書き留めておきます.この副読本は昨年の11月に発行されたもので文科省のサイト(1)からダウンロードすることが出来ます.糸島市ではこの副読本を配布する予定であると言われています.

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10.29第3回原発シンポジウム

10.29第3回原発シンポジウム


原子力発電と代替エネルギーの展望


2011年3月11日,東北地方太平洋沖地震に端を発した福島第一原発事故から半年を過ぎようとしています.この事故は,いったん原発事故が起きると,それがいとも簡単に制御不能となり破局へと突き進むことを明確に示すと同時に,地震国日本には安全な原発はそもそも存在しないということをわれわれに教えてくれました.放射能汚染による被害は現在でも進行しています.

原発がこのような危険なものであるならば,日本の取るべき道は脱原発しかありません.しかし,脱原発に舵をきるにしてもその代替エネルギーについての展望はあるのか.地球温暖化の主要因と考えられている二酸化炭素の問題は大丈夫か.再生可能な自然エネルギー資源の潜在力はどの程度あるのか.それぞれの自然エネルギーの開発状況と将来展望はどうなっているのか.

これらの問題に焦点をあてたシンポジウムを企画しました.九州大学において風力および地熱の有効利用について優れた研究をしている研究者にそれぞれ将来展望について講演していただくとともに,自然エネルギーの潜在力と脱原発の方向性を探るシンポジウムにしたいと考えています.関心をお持ちの方,多数の来場を期待します.ただし,会場の広さから,先着140名に限らせていただきます.

           記

日 時:2011年10月29日(土曜日)開場 13:00 開会 13:30
場 所:九州大学・箱崎キャンパス・国際ホール(下図参照)  
    地下鉄「箱崎九大前」徒歩10分  
    西鉄貝塚線「貝塚」徒歩10分
    西鉄バス「九大北門」徒歩 5分
講 演:(1) 青野雄太(九州大学)
     「自然エネルギーの潜在力と脱原発」   
     → 発表ファイル
    (2) 江原幸雄(九州大学)
     「地熱エネルギー利用の現状と将来展望」 
     → 発表ファイル 
    (3) 大屋裕二(九州大学)
     「風力エネルギーの有効利用と将来展望」
     → 発表ファイル
    (4) 質疑討論
参加費:500円
主 催:日本科学者会議福岡支部
共 催:核問題研究委員会 エネルギー研究会 福岡環境研究会
    NPO法人・再生可能エネルギー推進市民フォーラム西日本
連絡先:日本科学者会議福岡支部事務局長
    小早川義尚 九州大学大学院理学研究院
電 話:092-642-3901
E-mail: kbykwrcb@kyushu-u.org, eisaku.miyoshi@kyudai.jp

<シンポジウムの報告>

当初,本シンポジウムは140名の席しかない会場があふれることが想定され,それが心配の種であった.その理由は,九州大学において自然エネルギーの2分野において先進的に研究している2名の研究者がはじめて同一会場で講演するシンポジウムということにあった.そのような理由から,10月にはいってから当シンポジウムの宣伝を控えたことが災いしたのであると思われるが,当日参加の総人数は,70余名であった.

しかし,大変勉強になるシンポジウムであった.そのことは後で示す当日のアンケート結果にも現れている.シンポジウムに参加されなかった方のために,3名の講演者にお願いして,当日の発表講演に使われたパワーポイントのファウルを本サイトに掲載することにする.

当日の発表では,まず,青野氏は,持続可能な社会へ移行するには地産地消の仕組みが大切であり,現在の消費電力の1/3〜1/2程度の自然エネルギーによる発電が可能であると話された.また,現在の自動車中心の生活と経済はやめるべきで,そのことでは悲観するほど不便になることはないであろうと言われた.最後に,原発は廃止すべきであり,そのことに何の支障もないと締めくくられた.

次に江原氏は,地熱エネルギー利用について話された.地球体積の99%は1000℃以上であり,100℃以下の部分は0.1%であるという.日本は世界第3位の地熱資源大国であり,日本において推定されている2000万kW以上の発電量に対して現在開発されているのはわずか54万kWに過ぎないという.地熱発電は,昼夜を問わず安定的に電力を供給できるという点で大きな特徴であると強調された.わが国には,地熱以外にも有望な自然エネルギーがあり,それぞれ,全電力需要量の10〜20%の貢献をすることで,2050年には全体として全需要の2/3を自然エネルギーで賄うという試算「2050年自然エネルギービジョン」があるという.

最後に大屋氏は,風力エネルギーの有効利用についてさまざまな国内外のエネルギー利用情報とともに話された.風車による発電量は風速の3乗に比例するが,うまく風を集め風速を少しでも高めることが出来れば,発電量の飛躍的な増加が期待される.風エネルギーを局所的に集中して飛躍的に発電量を高めた,大屋氏オリジナルの「風レンズ風車」の原理と開発に関わる話しを詳しく話された.この新しい風車の発電量は,従来風車の2〜3倍であるという.騒音も少なく,さらにバード・ストライクもこれまでの実験および実証運転の中で一度も起きていないという.中国で6台,福岡市との共同試験で計4台,また,九大の伊都キャンパスに2台(トップの写真)の「風レンズ風車」が設置されてる.この11月末,博多湾に洋上風力発電の第一歩が踏み出されるという.

それぞれの講演者が発表に使われたファイルをpdf化して上にリンクしていますので,ご参考にしてください.この点で,発表ファイルを快く提供していただいた3名の講演者に感謝します.

<アンケートの結果>

アンケートの回収率は45%でした.(前回回収率より減少)

(1)参加比率は女性38%,男性62%.(女性の参加率が若干減少)
(2)シンポジウムについての情報源は,友人・親族から25%,
 新聞から3%,ウェブサイトから9%, メール28%,チラシ16%,
 その(FAX等)25%.
今回は,新聞からの情報が前回に比べて激減しました.
(3)シンポジウムについての感想は,大変有用79%, まあまあ12%, 無回答9%でした.
無回答も自由記述欄で「非常に勉強になりました」などの記述
(4)過去2回のシンポジウムの参加については,第1回(4/17)も参加が20%,第2回(7/24)も参加が17%,今回初めてが63%.
(今回初めての方が2/3程度もあった)
(5)今後,有望と思われる自然エネルギー(複数回答可)
 太陽光発電(50%),風力発電(70%),地熱発電(83%),
 小水力発電(37%),太陽熱発電(13%),潮流発電(30%),
 その他(10%)

前回調査(7月24日)で関心のある自然エネルギー調査に比べて,今回取り上げた風力発電と地熱発電への期待が大きくふくらんだと同時に,太陽光発電を含めてその他の自然エネルギーへの期待が減少しています.

<自由記述>の欄の内容と主催者からのコメントを含めて以下に掲載させてもらいます.(2011.11.04)

・とてもよい勉強になりました.これからは自然エネルギーを重要なこととして考えていけないと思います.1,2ヵ月に1回ぐらいの勉強会をやってほしいと思います.要望として京大の助教・小出裕章先生を講師でお呼びしてほしいと思います.(女性60代)
・自然エネルギー開発は時間がかかると思っていましたが,勉強させてもらって,ずい分,いま進んでいることを知ってよかったです.しかしそれにしても原発を早く撤退させるために中間的にガス・コンバインなどを使うことも必要だと思います.八丁原や百道浜などの見学計画を地域でたてたいと思いました.(女性60代)
・地熱とレンズ風車の講演で自然エネルギーに多いに希望が持てました.研究の発展を願っています.(男性50代)
・純国産でベースロードでもある地熱発電はこれから伸びると思います.(男性50代)
・風レンズ風車のことがよく分かりました.11・13集会にこれのデコレーションを作って参加したい.(男性50代)
・風力発電の効果には懐疑的だったのですが,将来性のある技術だと思いました.自然エネルギーに対する理解を広げ研究開発や法整備などで市民の力でバックアップしていかなくてはならないと思う.(男性30代)
・江原,大屋両氏の研究は世界を救うかもしれない.真剣にそう思った.(男性40代)
・3人の先生の講演,学び吸収するところ大でした.大屋先生の風レンズ風車をあちこちでPRしています.12月の実証実験は「ぜひ視察したい」との問い合わせも受けています.6月にTNCの番組で地熱発電(八丁原)が取り上げられ,私もにわか地熱ファンになりました.普及が進むよう私もがんばります.(男性50代)
・代替エネルギーについては思考中です.広瀬隆さんが話していることなど...(女性70代以上)
・大変よかった.インターネットでさらに検索してみます.(女性50代)
・地震国にふさわしい,原発以外の発電を多様な形でやっていかなければならないと思います.コストの問題でいくつかに決めた方がよいのかもしれませんが,ありとあらゆる技術を開発していってほしいと思いました.(女性40代)
・大変勉強になりました.多くの人に知っていただきたいと思いました.(女性50代)
・とても興味深いお話でした.原発抜きで持続可能なエネルギーの社会は国民の努力で作り上げていくものと確信を持てました.もっと学んでいきたいです.(女性20代)
・「原子力に替わるエネルギー」という発想は否定しませんが,それらが問題だらけの日本の社会体制でどのように利用されていくのかが大事.原子力も「夢の未来のエネルギー」として科学者が宣伝して,それを鵜呑みにしてきた多くの人たちが原子力村を許容してきた.これまでの反省を,自然科学を扱う学者・研究者がどのようにやるかを,先生方に聞いてみたいと思いました.(女性20代)
【主催者からのコメント】
科学者や技術者がそれぞれの分野での自分の研究成果がどのような社会的影響を持つかと言うことにどれだけ関心を持つかは,研究者・技術者ごとに人それぞれ異なるものと思います.「原子力はCO2を出さないので地球優しい」というような耳に心地よいようなことは多いに宣伝するが,しかし,その危険性についてはきちんと説明しないというのが「原子力村」にたむろする研究者でした.
しかし,科学者・技術者が原発の危険性から国民の命と暮らしを守るためには,強力な勢力である『原発利益共同体』と全面的に対峙する覚悟が求められる,というような決意を新たにしている研究者(『日本の科学者』11月号立石論文)もいます.また,安斎育郎名誉教授(立命館大)や小出裕章助教(京都大)のように,冷遇されながらも原発の危険性を告発し続けてきた研究者もいます.私たちも,もし原発事故が起きたら原発周辺住民がどう行動すればよいかについての適切な案内書がないことを憂慮して,20数年前に『原発事故 その時あなたはどうするか』という本を出版しました.
ある技術についての安全性や危険性につては,公開の場で議論していくことが基本です.その技術を積極的に推進していくかそれとも撤退するかを決めていくには多くの市民の力が必要です.科学者も一市民でありますが,科学者にはその技術の安全性や危険性につての利点・欠点を含めた正確な情報を一般市民に提供していくことが課せられていると思います.
日本科学者会議は,会則に「科学の反社会的利用に反対し、科学を人類の進歩に役立たせるよう努力する」ことを重要な目的として活動している会です.私たちは,一刻も早く脱原発の方向に舵をきり再生可能な自然エネルギーを利用することで地球の快適な環境を保持しそれを未来の子どもたちに残すように会の活動を続けていきたいと考えています.自然エネルギーを研究されている2人の先生方(江原先生と大屋先生)も同じ思いで研究されていると思います.
・第一線の研究が聞けて大変よかった.(男性60代)
・(1)省エネ,(2)天然ガス+コジェネ,(3)石炭ガス化,(4)自然エネルギーの順が,原子力の代替の順と考えます.とにかくエネルギー源の多様化・分散化に注力すべきです.(男性60代)
・大変面白く,また,まったくの素人の私でもなかり理解出来ました.市民に広く話しをしていただければ幸いです.理論と実験経過だけでなく環境,経済(コスト)から政治的側面にいたるまで多面的に考えられお話いただいたことにも大変好感がもてる講演だったと思います.(男性70代以上)
・日本での一流の研究者の最新情報を聞けてとても勉強になりました.八丁原発電所には行ったことがありますが,今日の講演を聞いてまたいってみたいと思いました.一刻も早く脱原発して自然エネルギー政策に転換してほしい.(男性60代)
・企業も太陽光発電など大きな投資をしている例が増えている.新しい産業を育成し,景気回復へ努めるべきである.電力の独占もやめさせること,そのためにも送電・発電の分離が重要と思われる.新しい発電を認めれば企業の参入も増え原発の必要性はなくなるはずである.固定価格買取制度もきちんとした形での実施が望まれる(電力会社の妨害を排除して).(男性70代以上)
・非常に勉強になりました.事務局の皆様は運営に大変と思いますが,今後もがんばってください.(男性40代)
・原発をやめさせる必要あり.(男性60代)
・風力発電について,もう少し詳しく聞きたかったです.最後の方の時間が足りなくて聞けなかったので.また機会があれば聞きたいです.(男性40代)
・早く現実化できるよう願っています.普及しましょう.(男性60代)
・家を建てる場合の窓のあけ方も,ただ広くとるということでなく,あけ方として南窓より北側の窓を大きくあけることで解消できるかなと考えました.(女性70代以上)

7.24第2回原発シンポジウム

第2回原発シンポジウム(7.27)


福島第一原発事故の警鐘と玄海原発



2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震に端を発した福島第一原発事故は,4ヵ月を過ぎた現在でも収束の見通しが立っておりません.この事故は,いったん原発事故が起きると,それがいとも簡単に制御不能となり破局へと突き進むことをわれわれに明確に教えてくれました.

今の時点で,玄海原発に隣接した地域に住む私たちにとって,福島第一原発事故の意味は何であったのか,私たちはこの事故から何を学ぶべきなのかを考えることは重要であると考えます.

そこで,4月の緊急シンポジウムに引き続く第2回目のシンポジウムとして,今回は,福島第一原発事故の警鐘をどう受け止めるのか,放射線被ばくの危険性と食品問題をどう考えるか,さらに,九州電力・玄海原発は大丈夫なのか,について下記シンポジウムを開きます.

これらの問題に関心をお持ちの多数の方の参加を期待しています.また,9月以降に第3回目として代替エネルギーに焦点をあてたシンポジウムを予定しています.

            記

日 時:2011年7月24日(日曜日)午後2時〜4時半
場 所:九州大学 筑紫キャンパス
    総合研究棟C-CUBE1階大講堂(JR大野城駅下車徒歩5分)
内 容:(1)「食品の放射線汚染から家族をどう守るか」
      長山淳哉(九州大学医学部)   
レジュメ
      
当日発表のpptファイル(だたし,一部を著作権の関連で省いています)
    (2)「老朽化した玄海原発一号機は大丈夫か」
      豊島耕一(佐賀大学理工学部)  
レジュメ
      
当日発表のpptファイル
    (3)「福島第一原発は地震では壊れなかったのか?」
      岡本良治(九州工業大学名誉教授)
レジュメ
      
当日発表のpptファイル(一部修正)
参加費:500円
主 催:日本科学者会議福岡支部
    核問題研究委員会
    福岡環境研究会
連絡先:日本科学者会議福岡支部事務局長
    小早川義尚 九州大学大学院理学研究院
    電話:092-642-3901
    E-mail: kbykwrcb@kyushu-u.org

<シンポジウムの報告>


RKB, TNCおよび地元ケーブルTVの取材もあり,100名あまりの参加がありました.当日発表に使われたパワーポイントファイルは順次うえに張り付けていきますのでご参照下さい.

福島原発事故に関連して4月に開催した緊急シンポジウムは,福岡市の中心街の会場で行ったこともあり,予想外の多数の参加者がありました.しかし,会場の狭さから後からの数十名にはレジュメだけをお渡しして,お帰りいただいた.この反省から今回は大きな会場を確保しました.会場が市の中心から離れたこともあり,どれだけの方が参加してくれるか心配したが,100名を超える参加があり,ひとまず成功したと考えています.一方では4月の緊急シンポジウムに来られた多くの方が今回は不参加であったのは会場のせいかもしれません.しかし,このことは今回の参加者の多くが新しい層であったことを意味し,全体としてみればよいことであったのかとも思います.

今回のシンポジウムでは,はじめにカネミ油症問題で有名な長山淳哉氏(九大医)が「食品の放射能汚染から家族をどう守るか」という講演をされました.講演では,被曝した動物にミネラルの豊富な海藻や貝類の摂取が有効だとする実験的研究を紹介され,内部被曝に際してミネラル分の摂取の重要性を指摘されました.次に豊島耕一氏(佐賀大理工)が「老朽化した玄海原発1号機は大丈夫か」というタイトルの講演で,玄海原発1号機の炉心材料の脆性遷移温度が98℃であり,玄海原発1号機は日本で一番危ない原発であるという話しをされました.最後に岡本良治氏(九工大)は「福島第一原発は地震では壊れなかったのか?」という講演で,津波が来る前に地震動により配管が損傷した可能性が高いという話しをされました.そうであるなら地震列島である日本のどこでも今回のような過酷事故が起きる危険性があることを意味します.

アンケートの結果によれば,参加者の多くはこの危険性の意味を強く感じたようです.「メディアでは聞けない話を学べた.次回もぜひ参加したい」(男性20代)の感想がありました.

<アンケートの結果>


アンケートの回収率は約6割でした.

参加比率は女性46%,男性54%.
シンポジウムについての情報源は,友人・親族から36%,新聞から29%,ウェブサイトから10%, メール15%などでした.
シンポジウムについての感想は,大変有用61%, まあまあ20%, 無回答19%でした.
代替エネルギーとして関心のあるもの(複数回答可)
太陽光発電(61%),風力発電(53%),地熱発電(46%),
小水力発電(37%),太陽熱発電(31%),潮流発電(44%),その他(5%)

その他,<自由記述>の欄に多くの意見が寄せられました.これらの内容が豊富であり,かつ,主催者側からの回答を要するものもありましたので,個人名などのある部分は割愛するなどの配慮をしたうえで以下に掲載させてもらいます.

・「原子炉容器が長い間大量の中性子照射を受けて,硬く脆くなる」ということを知り,一層「原発」を止めるべきだと感じた.いろいろな資料を読んだり,TVを見たり,新聞に記載されている「原発」に関するものを読んだりしているけれど,事実はどうなのかとわからなくなってしまう.でも命を守るためには代替エネルギーを真剣に考えていく必要が大いにあると考えています.(女性,70代以上)
・玄海1号機のデータを公表しない九電,それを許している原子力安全・保安院に怒りを感じた.私自身が何をすべきかを問われました.非常に有意義な時間でした.ありがとうございました.(男性,60代)
・原発の危険性について出来るだけダイレクトに人に伝えられるにはと近場の講演会に足を運んでいます.これからも続けていきたいと思います.今日は有り難う御座いました.(女性,40代)
・原発は海温上昇装置でもある.(男性,60代)
・新エネルギー研究をしています.石炭,石油のように次の代替エネルギーにこれというものはないと考えています.しかし太陽光・風力・地熱・小水力・太陽熱・潮流などの発電をうまくMIXして使えば代替石油エネルギーになり得る可能性はあると考えます.ただし,国民全体が節電・節エネルギーをすることが前提です.(女性,40代)
・原発のあとに残る高放射能物質の処理について今のところほとんど解決策がないまま原発(の運転)が行われているわけですが,このことについてどのように考えておられますか?(女性,60代)
【主催者からの回答】日本は脱原発の路線で行くべきと,私たちは考えています.理由の一つは,今回のような過酷事故の危険性を排除できないこと,もう一つは,高濃度放射性廃棄物の最終処分が決まっておらず,未来に地球上で生活していくわれわれの子孫にとんでもない「負の遺産」を残すことになるからです.これ以上,その「負の遺産」を増やすことは止めなければならないと考えています.
・原発がなくても暮らせる社会をめざしたいと思っています.(女性,60代)
・テレビでは津波のためと原発事故をとらえているのですが,地震のために事故が起こっているのではと思っていたので,今日は勉強になりました.地震列島である日本には原発はそぐわないと思いました.(女性,60代)
・福島の原発事故が起きるまえにみんなで「原発の恐さ」について勉強すべきだったと思います.(女性,60代)
・科学者としてぜひ活発に動いて下さい.(女性,60代)
・初めてこういうシンポジウムに参加しました.すごく為になりました.(女性,30代)
・現在の日本の状況の危険をもう少しゆっくり詳しく素人にもわかるように話してほしい.解りにくいところもあったけれどかなり理解でき有意義でした.次回を期待します.(女性,60代)
・代替エネルギー論議が盛んであるが,それよりか,現在の消費エネルギー社会をまず問うべきではないか.代替エネルギー論に関しては,全面的に賛成したい.ただ,新たな利権が生まれる可能性も?(女性,60代)
・一般市民(特に原発問題にあまり興味のない人たちでも)が参加しやすいシンポジウムをもっと開催してもらえたら有り難いです.アクセスに便利な場所で開催してもらえて有り難かったです.(女性,30代)
・科学者が進めてきた原子力技術を転換させていくために日本科学者会議が果たす役割は大きいと思います.ぜひこれから日本や世界に向けて発信して頂きたいと思います.(女性,50代)
・みなさん,がんばっておられますね.おかげで元気をもらった気がします.熊本から来た甲斐がありました.熊本に戻って私もがんばります.(女性,40代)
・今まで学ぶ機会も関心もなかったので,代替エネルギー(太陽光・風力・地熱・小水力・太陽熱・潮流などによる発電)が,こんなにもあったことすら知りませんでした.(女性,50代)
・大変有意義でした.ウィットに富み(時に)親しみやすくレクチャーして下さいました.今回,PCで先生方の活動やお仕事ぶりを検索し,さらに興味を持ちました.ますますのご活躍をお祈りいたします.正しいことを常に発信し続けて下さい.(女性,50代)
・反原発の運動を大きなうねりにできればと思います.(男性,60代)
・大変有意義でした. (男性,40代)
・メディアでは聞けない話などを学べてとても役立つ情報が聴けました.また,次回もぜひ参加させていただきたいと思います.(男性,20代)
・原発は海を暖める話しを詳しく聞きたい.(男性,40代)
【主催者からの回答】原発は,沸騰水型でも加圧水型でもタービンを回した水蒸気は復水器に送られ,そこで海水によって冷やされ水に戻り,再び原子炉(加圧水型では蒸気発生器)に送られます.復水器では海水は冷却材として働いていますが,海水自身は水蒸気によって温められることになります.海水は,復水器を通る間に約7℃上がるといわれています.この温められた海水を温排水と呼び,海水中の生物に影響を与えることが懸念されています.
・保安院など規制機関を確立する必要が緊急にあると思っています.(男性,50代)
・原発については好むと好まざるに関わらず時代の流れとして暗黙の了解をしてきたはずである.今回の原発事故があったからといって原発過敏症的になるのは,それを政策として行ってきたことを他人の責任ととらえることはおかしいと思う.(男性,60代)
・4月のアクロス福岡でも聞きましたが,いまは「学術的」な話しより,市民がどう感じているかをもっと考慮する必要があるのでは?(男性,60代)
・3講師の先生は,いずれも勉強になりました.そして,玄海原発の危険性に対して不安と恐怖が募りました.(男性,60代)
・次回開催場所はどこか知らないが,会場への矢印等表示してもらいたい.(男性,70代以上)
【主催者からの回答】道案内の掲示は出していたのですが,文字や矢印が小さくてお役に立てなかったようです.次回からその点にもついて気を付けて準備します.
・代替エネルギーに切り替えまでをどのような時間と手法によって進めるか,むずかしい問題ですね.それまでは「忍」の問題ですか.(男性,70代以上)
・科学者会議として力強いメッセージを発して下さい.(男性,50代)
・客観性もそこそこあって面白く聞きました.(男性,60代)
【主催者からの回答】客観性を「そこそこ」評価いただき有り難う御座います.
・効率的に利用可能なエネルギーを取り出すには原発しかない.原発が本当に,または原理的に使い物にならないのか考えてほしい.原発を他の自然エネルギー並に安全にする技術は確立できると思われる.原発がダメというなら,誰か原発は将来的にも危険で使用に耐えない,こういうことを証明すべき.(男性,70代以上)
【主催者からの回答】残念ながら現在の地球人の到達技術では核分裂によって生成される「死の灰」をコントロール出来いるところまでには至っていません.しかし,このことは将来においてコントロールする技術を地球人が獲得する可能性を否定するものではありません.なので,その時までウランを無駄に使用することを控えた方がよいというのが私たちの考えです.
・第2回の開催というものでしたが,その開催趣旨をもっと明確にすべきだったと感じます.もっと他者論説によらず,もっと自分に誇りを持った説明を期待していた.反対だとか圧力団体とかも必要でしょうが,善良な市民が本当に安心して生活できるものにしたいものです.日本人は有史以来素晴らしい面を備えていますがなんといってもまだ西洋ものに潜在的なコンプレックスDNAとして持っている.海外先進国のものが素晴らしいということはない筈だ.自然を押さえ込むことやコントロールすることは無理であることを改めて思い直し実行することだ.日本の自然を活用したエネルギーを緊急に開発すべきだ.(男性,60代)
【主催者からの回答】確かに,今回のシンポジウムの話題は焦点が定まっていなかったかも知れません.はじめにシンポジウムのタイトルと「福島第一原発事故の警鐘と玄海原発」したように,この点を中心に据える予定でした.しかし,食物の放射能汚染の問題が大きな問題としてクローズアップされるようになり,食物の放射能汚染から家族をどう守るかという話しを入れることにしました.2つの話しを一緒にしたので,シンポジウムの趣旨が明確にならなかったものとおもいますが,どちらの話しも多くの方が興味を持っていただくものと考え準備しました.
「もっと他者論説によらず,もっと自分に誇りを持った説明を」という点について一言いわせてもらいます.現在では学問は細分化され,自分の専門分野においては,それぞれオリジナルな考えを展開することが可能です.しかし,それらの考えをもう少し広い分野の中で位置づけて他者の論理との切り結びの中でより一般的な議論を展開していくことが,いま大切になってきています.今回のシンポジウムにおける3名の講演者には,それぞれ講演者の専門を越えてもう一つ広い分野における講演をお願いしました.お気づきだと思いますが,狭い専門分野の中の議論でやってきた結果が今回の福島原発事故です.安全な社会を維持していくためには,個々ばらばらな専門分野の成果のみに依存した体制ではなく,それらを一定の理念のもとに統合して安全性を高めていくことが必要です.これまでの「他者」の学問的成果や技術を,「国民の生活やいのちをどう守っていくか」という観点からまとめて展開いただいたのが今回の3講演です.これは,思ったほど簡単なことではありません.「他者」の学問的成果や技術を継ぎ接ぎして出来るものではないのです.学問の世界ではある専門分野に関して関連する周辺分野も含めたレビュー論文を書く場合がありますが,そのような論文は優れた研究者が書くのが一般です.優れた研究者でなければ,面白いストーリーを書くことが出来ません.幅広い分野についての造詣とともに確固たる哲学がなければ,このような論文や講演は陳腐なものになってしまいます.今回の3講演はどれもそんな陳腐なものではなかったと自負しています.
・生きていくうえで大切な食物,何を食べていいのか不安が主婦には一大関心事.今回のいわゆる「汚染牛」の件,まさに「原発汚染牛」だと思う.牛が悪いのではない.生産者が悪いのではない.そもそもの原因は原発.一日も早く止めること.生産者だけを悪者にしてはいけない.御用学者は「1度2度食べても大丈夫」という.でも「小さい子にとってどうなのか」,「空気も吸う,水も飲む」このことを言っていない.マスコミや学者(今日の方は別)の言うことは信用できない.「安全なものしか出回っていないはず」というのは間違いでは? わらの上だけにセシウムが降っているはずはない.(女性,60代)
【主催者からの回答】疑問は確かにその通りです.放射性セシウムは,わらの上だけに降っているわけではないでしょう.その意味で,放射能汚染が心配される地域の放射線量の測定や食品の放射線測定の実行体制を政府や地方自治体にきちんと取らせることが必要と考えます.いまの行政組織はアップアップで頼りにならない面もありますが,国民の健康と安全を守るためには,「安全なものしか出回っていない」状態を行政組織にすぐにでも取らせないといけないと思います.いまの行政の放射線防護における最大の問題点は,内部被曝に対する防護を軽くみているということです.この点は,すぐには改善される見通しはないと思われますので,私たち一人ひとりが,自分で判断していかなれればならないと思います.
・三池炭坑関連の研究をしているものです.50年代後半に始まったエネルギー革命は,あれほど労働者の貧困をつくりだし,また産炭地の疲弊をつくりあげたことと釣り合うものであったのか疑問です.石炭資源は国内で算出可能な唯一といってよいほどのエネルギー資源と思いますが,あっけなく手放してしまい(北海道では再開発しています),クリーンエネルギーといわれる原子力を導入しましたが,それが今回の結果です.自国のエネルギー資源を手放すことがどういうことなのか,再びとりあげる必要があると思います.(イギリスでも国内炭坑すべてを閉山するようなことはしていません).また,原発労働者の問題についても考える機会があればと思います.三池の労働者(三川鉱炭じん爆発事故という戦後最悪の労災被災者となった人々)を調査して思うことですが,たとえ彼らがガンなど発症しても労災として取り扱われることはほとんどないでしょう.原発事故が早期に収束することは私たちの願いではありますが,現場で労働者が無理な労働に従事させられているのではないかと危惧しています.もしも研究者がこの問題に着目せず,現状をやむなしとするのであれば,私たちもまた長きにわたって彼らを殺しているのだと思います.放射能から自分たちを守るのはもちろんですが,もっと広く政府の無策や企業の利潤追求のあと始末をさせられている労働者と彼らの家族にも気持ちを向けていく必要がありましょう.私たちの学問は,人々の生活やいのちを害するために存在しているのではないと思います.そう考えて学位授与を受けてすぐ科学者会議に入会しました.先生方に学びながら自分の役割を果たしていきたいと思います.今後ともよろしくお願いします.(女性,30代)
【主催者からの回答】日本科学者会議の会則2条4項では,「科学の反社会的利用に反対し、科学を人類の進歩に役立たせるよう努力する」ことを会の重要な目的と定めています.この点で努力することが私たちの喜びでもあります.ともに学びながら研究や活動を楽しみましょう.

なお,アンケートとは別にメールを通して,今回のシンポジウムが「社会に対して何の具体的な働きかけにもなっておらずナンセンス」であるという批判的な意見をいただきました.

地震列島である日本のどこでも今回の福島原発事故ような過酷事故が起きる危険性があることを参加者に伝えることが出来れば,今回のシンポジウムの意義があると考えていたこれまでの私たちにはない新しい観点かと思います.この批判的意見についても咀嚼して今後の活動に活かしたいと思います.

「年20ミリシーベルト基準」の撤回要求

校庭使用についての文科省『年20ミリシーベルト基準』の撤回・見直しを要求する

日本科学者会議 福岡支部 核問題研究委員会は「校庭使用についての文科省『年20ミリシーベルト基準』の撤回・見直しを要求する」という要望書を内閣総理大臣・菅直人および文部科学大臣・高木義明に対してファックスおよびインターネットを通して提出しました.
提出した要望書は以下の通りです.内閣総理大臣・菅直人あての要望書を以下に示します.

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2011年5月10日


内閣総理大臣 菅 直人 殿
FAX: 03-3581-3883

校庭使用についての文科省『年20ミリシーベルト基準』の撤回・見直しを要求する

日本科学者会議 福岡支部 核問題研究委員会


 さる4月19日,文科省は福島県内の学校の校舎・校庭等の利用判断における暫定的考え方を発表し,福島県教育委員会をはじめとした関係施設の長に通知しました.そこでは,国際放射線防護委員会(ICRP)が非常事態収束後の参考レベルとしている1~20ミリシーベルト/年を,福島県の幼稚園や小中学校の校舎・校庭などの利用判断の暫定的な目安とするとしています.その上で,校庭の空間線量率として,年間20ミリシーベルトから割り出した3.8マイクロシーベルト/時を下回る場合には,平常どおり使用して差し支えないとしています.この文科省の暫定的考え方には,内部被ばくについての配慮がないことも問題ですが,それ以外にも,見過ごすことの出来ない以下のような問題点があります.

(1)この年間20ミリシーベルトという被ばく線量は,法外に高い線量です.職業被ばくの年間線量限度は20ミリシーベルトであり,それと同じ数値を放射線に感受性の高い幼児・児童に対する基準として使用するのはあまりにも配慮が足りないと言わざるを得ません.職業被ばくとして宇宙線からの被ばくを受ける日本の航空機乗務員は,その被ばく量が年間5ミリシーベルト以内になるように配慮されています.被ばくの代償として給料という利益を受ける航空機乗務員でも20ミリシーベルトの4分の1です.幼児・児童にとって被ばくから受け取る利益は何にもありません.

(2)この「1~20ミリシーベルト」というレベル設定は,ICRP文書の範囲をそのまま使用したものです.ICRP文書では,これに関連して参考レベルはこの範囲の「下方部分から選定すべき」として出来るだけ小さい値を設定すべきとしています(注1).ところが文科省の今回の基準は,何の説明もなく上限いっぱいの20ミリシーベルトに設定しています.また,ICRP文書では,子どもや妊婦など特に放射線の影響を受けやすいグループに被ばく線量を減らす特別の配慮を求めています(注2).今回の文科省の暫定的考え方は,この点についての配慮を全く欠いたものと言わなければなりません.

(3)ICRP勧告の参考レベルというのは,放射線レベルを1ミリシーベルト/年へ低減する必要な防護措置を取ることを前提としています.文科省の通知では「今後できる限り,児童生徒等の受ける線量を減らしていくことが適切」と言葉では述べていますが,その具体的な防護措置の指示がありません.枝野官房長官は,5月1日,福島市や郡山市の学校が独自の判断で校庭の表面の土を削っていることに関連して「文科省の指針に基づけば除去する必要はない」と言ったと報道されています.このままの通知では,年間20ミリシーベルトの基準が固定化される危険性があります.郡山市の学校が独自で行っている防護措置は本来なら政府が行うべきことであります.

(4)幼児・児童はこれから長い人生を生きることになります.一般に放射線感受性の高い幼児・児童に対するリスク係数は,成人に対するリスク係数より大きいと推定されますが仮に同じであると仮定してICRP勧告のリスク係数(0.05)を使えば,仮に5万人の幼児・児童が20ミリシーベルトの放射線被ばくしたとすれば, 50000 x 0.02 x 0.05 = 50名のガンによる死亡が想定されます.このような数値はとうてい容認できません.

(5)原子力安全委員会は,5人の原子力安全委員のほかに2人の専門家の意見を聞き,全員が今回の暫定的目安に対して「適切」と判断したとしています.しかし,正式の会議も開かず,議事録もない状態で「適切」と判断したことは問題があり疑義が残ります.一からやり直すべきです.

 私たちは今回の文科省の通知に関連して,以上の5点を指摘するとともに,4月19日の文科省の暫定的考え方と年20ミリシーベルト基準の撤回し,被災住民や父母の声に耳を傾け,その子どもたちの被ばくを最小限にするような対策を求めます.

(注1)ICRP Publication 111, Executive Summary (o項) and ICRP Publication 109, (116項).
(注2)ICRP Publication 111, (45項).

4.17緊急シンポジウム

4.17緊急シンポジウム

福島第一原発で何が起きているのか

2011年3月11日,マグニチュード9.0の東日本大地震は,福島第一原子力発電所(福島第一原発)の数基の原子炉を破壊しました.しかし,壊したのはそれだけではありません.日本の原発の「安全神話」を完全に崩壊させてしまいました.日本では「原発の大事故は絶対に起きない」という「安全神話」のもとで原発を作り続けてきました.今回の福島第一原発の事故は,いったん事故が起きると,それがいとも簡単に制御不能となり破局へと突き進むことを立証したと言えるでしょう.原発がある限り,原発の重大事故は起こることを前提に,最悪の場合を想定してさまざまな防災対策が必要です.玄海原発から50kmの距離にあるここ福岡天神で,福島第一原発の事故から何を学び,また,何をするべきかを考えるために下記の要領で緊急にシンポジウムを開きます.放射線被ばくから身を守るためには,放射能や放射線に対する正しい知識も必要です.福島第一原発において今なお進行中の事態に関心をお持ちの方が多数参加されることを期待しています.



日 時:2011年4月17日(日曜日)午後3時〜6時
場 所:アクロス福岡5階(久留米大学天神サテライト)
内 容:
(1)「福島第一原発事故の経過からみえてくるもの」
   岡本良治(九州工業大学教授) 
                  レジュメ
    発表のpptファイル(改訂版)
(2)「原発事故時の緊急対策の要点はなにか」
   森 茂康(九州大学名誉教授) レジュメ
(3)「放射線は人体にどのように影響するか」
   本庄春雄(九州大学教授)   レジュメ
    発表のpptファイル
(4)討論

参加費:無料
主 催:日本科学者会議福岡支部
    核問題研究委員会
    福岡環境研究会
連絡先:日本科学者会議福岡支部事務局長
    小早川義尚 九州大学大学院理学研究院
    電話:092-642-3901
    E-mail: kbykwrcb@kyushu-u.org

<報告>
今回の緊急シンポジウムには,80席の椅子を準備した会場に200名近いの参加者がありましたが,床に座ることをことを考慮しても全員会場に入ることは無理と判断して,後からの2, 30名の方には,折角足を運んでいただいたにも係わらず,当日の資料をお渡しして,お帰り願うことになりました.大変申し訳ありませんでした.
上の講演内容のところに当日の発表に使われたパワーポイント(ppt)ファイルとレジュメをそれぞれリンクしていますので,ダウンロードしてご参考にしてください.
なお,この緊急シンポジウムについての様子がブログサイト「あんくるトム工房」で紹介されていますのでご覧ください.
http://yaplog.jp/uncle-tom-28/archive/1158

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当日,久留米大学学生からの要請により会場で集めさせていただきました東日本大震災募金は,総額26,178円ありました.日本赤十字を通じて被災地に届けるとの報告がありました.ご協力有り難う御座いました.
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