脱原発をめざす

風船と放射性微粒子

風船と放射性微粒子

2013.4.18

 「原発なくそう!九州玄海訴訟」の原告団が「風船プロジェクト」を立ち上げ,玄海原発の近くから放射性微粒子にみたてた風船を飛ばし,風船発見者からの発見時間および場所の報告を受けている.風船は放射性微粒子にみたてられているが,それらの飛び方は必ずしも同じではない.しかし,共通点もあるであろう.そのような点を考えてみた.

 ヘリウムを入れた風船と原発事故時の放射性プルーム(放射性微粒子)の飛び方が同一でないことは自明である.しかし,共通する部分もあると思う.まず,第一に,ヘリウム風船も原発事故時の放射性微粒子も発生時に上空にあがる.到達高度に幅があるのも風船,放射性微粒子とも共通である.

 風船プロジェクト第1弾(2012.12.8)で5番目にあった報告は,340kmの地点(高知県鴨部)での2時間30分後の発見であった.発見された風船の平均水平速度は39m/s(メートル/秒)となる.当時の地上の平均風速が4m/sであったことから,かなり上空を飛んだのもと考えられる.高度8km~13kmにジェット気流が流れているが,その風速は冬場では50m/sにも達するという.その影響を受けて早く運ばれたものと考えられる.少なくともジェット気流の影響を強く受ける高度を通過したのであろう.また,最初の発見は,2時間20分後に西区周船寺であった.周船寺は39km地点になるので,この風船の平均水平速度は4.6m/sとなる.したがって,この風船はそれほど高い上空まで上がらず,比較的低空を飛んだものと考えられる.第2弾で使った風船の素材は丈夫で伸びにくい材質のようであるので,5番目に報告された風船のように膨らみ続けてジェット気流の影響を強く受けるほど高く上がるものはないのかも知れない.

 原発事故時の放射性微粒子の高度分布は,爆発の形態や規模によりさまざまであるが,例えば,3月14日の福島第一原発3号機の爆発による放射性プルームの放射能のピークは1kmから2kmであったという.これは1km以下の低空にも2km以上の上空にも放射性微粒子がそれなりに分布していたことを意味している.

 いったん上空まで上がれば,その後は,風下の方へ空気とともに流れていくことになる.水平方向には,風速が大きいときにはほとんどが風下へ流れていく.この点も共通でと考えられる.無風のときには,熱拡散により同心円状に広がっていくが,1年を通じてそのような状態はあまりないように思われる.もちろん,風の向きと90°の(水平な)方向へは熱拡散により広がることになるが,この熱拡散の仕方の違いは,風が強いときにはそれほど大きくはないと考えられる.

 問題は,垂直方向の落下速度である.風船の落下速度は風船からヘリウムガスの脱け出る速度が関係する.この速度が風船ごとに異なることが,近くに落ちるか遠くまで飛んでいくかの1つの要因となる.もう一つの要因は,個々の風船の到達高度とそれにともない破裂するかどうかである.風船が落下する要因は,ヘリウムが脱けるだけでなく,風船の破裂がある.ガスの脱け方や風船の破裂し易さに違いがあれば,風船の飛び方に違いが出てくるかも知れない.第1弾と第2弾で異なる風船を使っているようなので,注意深い分析が必要かも知れない.

 放射性微粒子について垂直方向の落下速度について考えてみる.放射性微粒子が受ける垂直方向の力は,万有引力と空気の抵抗である.速度が大きくない場合にはこの抵抗は微粒子の速度に比例する.微粒子を球(半径:
r)として,その運動方程式は
   ma = mg - kv              (1)
で表される(
mg は重力,- kv は抵抗力).mは微粒子の質量,a, v は微粒子の加速度と速度,g は重力加速度(=9.8m/s),k は空気の粘性係数を n=0.000018Ns/m^2)として
   
k = 6πnr
で表現される.微粒子は一定時間後には一定の速度に達する.その速度を終端速度と呼ぶ.その時には加速度
aはゼロなので,その速度vは(1)式から
   
v = mg/k                (2)
と与えられる.質量
mは半径をメートル単位で測り比重をdとすれば,
   
m = (4π/3) r^3 x 1000d (kg)
で表現される.微粒子の半径を1ミクロン,比重を1として終端速度を計算すれば,
   
v = 0.00012 m/s             (3)
となる.つまり,半径1ミクロン(直径2ミクロン)の放射性微粒子は10000秒(3時間弱)に1.2mしか落下しないことになる.1km上空に吹き上げられた放射性微粒子が地上に落ちてくるには, 8,300,000秒かかることになる.これは約100日である.比重を3としても,1ヵ月は地上に降りてこないということである.数km(数千メートル)まで上空に吹き上げられた放射性微粒子は,地球をぐるぐる回ることになる.

 しかし,粒径が異なれば落下速度は,粒径の2乗に比例して大きくなる(
m は粒径の3乗に比例し,k は粒径に比例しているので,このことは(2)式から導ける).例えば,砂丘の砂粒の粒径(直径)はほぼ0.35mmであるが,その砂粒(比重:2)は(2)式から1秒間に約8m落下する程度の終端速度になる.これでは砂丘の砂粒はあまり遠くまで飛べないことになる.水素爆発や水蒸気爆発などで発生した,この粒径以上の放射性微粒子のほとんどは原発からそれほど離れていない領域に落下することになる.それに対して,黄砂に含まれる砂粒の粒径はほぼ0.004mm(4ミクロン)であり,上で考えた放射性微粒子の2倍の粒径になっている.したがって,その終端速度は砂の比重も加味して考えれば(3)式の8倍,約0.001m/sとなり,高度1kmまで巻き上げられた黄砂が地上に落ちるまでには10数日はかかることになる.中国で巻き上げられた黄砂が日本にまで届くのは道理である.

 このように,風船と放射性微粒子とでは垂直方向の運動はかなり異なったものになると考えられる.しかし,水平方向の運動はあまり違わないであろうということは間違いないことのように思われる.このことは重要である.放射性微粒子は乾いた空気中のみを移動するだけではない.雨雲に遭遇することもある.雨雲に捕まった放射性微粒子は,雨とともに急激に地上に降ってくることになる.したがって,ところどころに落ちてきた風船は,このように雨雲に捕まった放射性微粒子に対応していると言ってもよいように思われる.水平方向の運動はあまり違わないであろうと考えられるからである.(2013.4.18/ E.M.)

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