脱原発をめざす

放射能の恐さを考える

放射能の恐さを考える


2011.3.24


放射能または放射線を正しく恐がることは意外に難しいことです。放射線の人体への影響について、解明されていないことが沢山あるからです。

たとえば、あるデータによると、1箱(20本)のマイルドセブンの中には約0.7 ベクレルのポロニウム210が含まれています(1ベクレルというのは1秒間に1回の割合で放射線を出す放射能の単位です).他のタバコでも大同小異です。このポロニウム210は、比較的短寿命(半減期約140日)の放射性元素で、α線を出し非放射性の鉛206に壊変します。140日後には、タバコの中のポロニウム210の量は半分になるかというと、そうはいきません。マイルドセブン1箱のなかにはポロニウム210の親核種である放射性の鉛210が約0.4 ベクレル含まれているからです(注:放射性元素Aが壊変によりBやCができたとき、Aを親核種、BやCを娘核種といいます).鉛210の半減期は比較的長く(約20年)、この鉛210によって絶えずポロニウム210が新しく作られていることになります。毎日1箱のタバコを1年間吸い続けるとして、その1%が肺の中に蓄積されるとすれば、原子数でポロニウム210が3000万個、鉛210が16億個という量になります。より危険なのはポロニウム210から出るα線ですが、鉛210もβ線やγ線を出します。それぞれ、毎分8回放射線を出すことになります。

しかし実際には、これらの原子が肺の中にどれほど蓄積され、どのように分布し、いかほどの害を与え、またどのように排出されるかということの多くは、現在まであまり解っていません。この分布の仕方で、被曝線量の見積が非常に違ってきます。大したことはないという学者もいますが、非常にたくさんの被曝線量を出しているという学者もいます。

これらの放射性元素以外にも、タバコの煙の中にはベンツピレンなどの強力な発ガン物質も含まれています。タバコを1日、20本喫煙する人は、タバコを吸わない人に比べて、肺ガンの危険率は4〜5倍であることはよく知られている通りです。しかし、肺ガンの原因として、発ガン物質と比較して放射能がどれだけ寄与しているかという点は、未解決の問題です。

ガンを起こす放射線の被曝量については、しきい値は存在しないというのが、放射線防護における現在の国際的合意です。つまり、どんなに微量の放射線でも、その被曝量に比例して発ガンの危険性が増えると考えられています。「放射線は浴びないにこしたことはない」という放射線防護の安全哲学はここに根拠を置いています。

1シーベルト放射線をあびると、ガンで死ぬ確率が5%増える。10ミリシーベルトなら0.05%だけガン死の確率が増える。しかしこれらの国際的合意や危険率の値には、充分な科学的根拠があるわけではありません。このことが案外忘れられて、これらの数値だけが一人歩きする現象がしばしばみられます。放射線を取り締まる便宜上の値にすぎません。この危険率の値は小さ過ぎると云う人もいますし、大き過ぎると云う人もいます。

仮にこの値を基にして考えてみましょう。ある人が10ミリシーベルトの放射線を浴びたとします。例えば、コンピュータ断層撮影(CT)で浴びる量が約10ミリシーベルトです。このことで、ガン死の危険は0.05%増すことになります。一方、現在、放射線を浴びなくても3人に1人がガンで死んでいますので、自然のガン死の確率は約30%です。ガン死の危険が30%から30.05%に変わっただけですから、この増加は被曝した個人にとっては、ほとんど意味を持ちません。CT診断を受け病気を発見することが重要であることは明白です。このことはCT診断でうける10ミリシーベルトという放射線量を減らす技術上の努力をしなくてよいということを意味しません。もし、1億人がCT診療を受けたとすれば、上の基準によれば、その被曝のために5万人がガン死すると考えられるからです。5万人ものガン死、これを減らす技術上の努力が必要なのは言うまでもありません。このことは、放射線を扱うすべての技術について言えることです。

最近、放射線による発ガンには被曝線量のしきい値があり、その値以下の被曝では発ガンを誘発せずむしろ抑制する効果があるという報告があります。もしこのことが事実なら、それは人類にとって喜ばしいことに違いありません。しかし、このことは確認された事実ではありません。いくつかの疑問点も持たれています。それらの疑問点が未解決のままです。したがって、現在の段階では、先ほどの放射線防護の安全哲学「放射線は浴びないにこしたことはない」は生きていると考えるべきです。

次に自然放射能について考えてみましょう。私達は、地球上にある天然の放射線元素から常に一定量の放射線を浴びています。ラドンを除く自然放射性元素と宇宙線により1ミリシーベルト、ラドンを含めると約2ミリシーベルトの被曝を毎年浴びていると考えられています。このうち宇宙線による被曝が平地で約0.3ミリシーベルトあります。宇宙線による被曝は高いところほど高く、3000mの高所では1ミリシーベルトの被曝です。ラドンを除く自然放射性元素のうちで代表的なものはカリウム40、ラジウム226およびウラン238です。生物にとってカリウムは必須の元素ですので、多くの食物のなかにはカリウム40は含まれています。100g中の放射能量(ベクレル単位)でいえば、昆布には160、大豆には57、じゃがいもには10、ごはん3の放射能が含まれています。なお、60Kgの人間の中には約3600ベクレルのカリウム40(筋肉中に局在)を含みます。このカリウム40により人間は約0.2ミリシーベルトの体内被曝を受けています。

さらに、花崗岩にはウランやカリウムが多く含まれ、ウラン238の娘核種であるラジウム226も含まれますので、花崗岩地帯は、他地域に比較して、放射能が高いことになります。例えば京都は青森に比べて0.4ミリシーベルトだけ地表からの自然放射能が多くなっています。ラジウム226はα線を出しラドン222に壊変します。ラドン222は気体ですので、直接肺に吸い込むことになります。地中または岩石中のラジウム226から生じたラドン222は大気中に放出されます。実を言うと、先ほどのタバコ中の鉛210やポロニウム210は、このラドン222の娘核種にあたります。ラドン222はつぎつぎと短い時間の間にα線やβ線を出し、鉛210やポロニウム210に壊変します。石やコンクリートで作られた部屋を密閉していると、ラドン222の濃度が高くなると考えられます。したがって、ラドン222による被曝を低く抑えるためには、換気を心がけるべきでしょう。

このように、人は毎年約2.4ミリシーベルトの自然放射能(世界平均)による被曝を受けています。この自然放射能による被曝を恐がる必要は全くありません。50才までに120ミリシーベルトの自然放射能を浴びることになります。放射能の高い地域ではこの数倍程度を浴びている所もあります。地域による放射線量とガン死またはガン発生率との相関は、現在のところ、ないといった方が正確でしょう。放射能の高い地域で必ずしもガン発生率が高いわけではありません。放射能以外にも多くの発ガン要因があり、それらを合わせて考える必要があるということです。自然な状態でのガン死の確率が30%、地域差として120ミリシーベルトを浴びたときのガン死の増加率が0.6%(前述の確率を基に)であることを考えれば、他の要因がいかに大きいかということが解ります。

別の観点から自然放射能を考えてみましょう。人類が地球上に誕生して約500万年になります。人の遺伝子は500万年の間、毎年2.4ミリシーベルトの放射能を浴びてきました。洞窟の中で生活をした人々は、岩石から出るラドン222による被曝は相当なものだったかも知れません。遺伝子に傷を受けることが発ガンの第一歩です。いずれにしても、もし放射線による遺伝子の傷が修復されず、蓄積され、遺伝してきたのであれば、人類ははるか昔に絶滅していたでしょう。人の遺伝子は、500万年の間に1万2千シーベルトの放射能を浴びてきたのですから。人の遺伝子の障害に対する修復機能の優秀さをうかがわせます。

自然放射能の程度またはその変動幅の程度の被曝を心配しても意味がありません。しかしこのことは、現在の原子力発電所による被曝の危険を我慢せよと言うことを意味しません。私は、医療被曝においてすら、医者任せにするのではなく、個々人が自分の責任において、最終的に判断すべきと考えます。そのためにこそ放射能についての科学的知識が必要です。
(2011.3.24/ E.M.)

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