2015.1月号

読書会日時:2015年1月12日(月曜日)午後2時〜5時
読書会場所:ふくふくプラザ(福岡市市民福祉プラザ)604室

<特集>戦後70年─世界の中のこれからの日本

纐纈 厚:アジア太平洋戦争の歴史的意義─「総力戦大戦」としての世界大戦
井原 聰:戦後日本の学術研究体制─70年の歩みと危機
吉見義明:従軍慰安婦問題
岩間一雄:憲法を活かす国民運動論─ささやかな実践記録

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<読書会の報告>

纐纈 厚著「アジア太平洋戦争の歴史的意義─『総力戦大戦』としての世界大戦」
 筆者は,まず,アジア太平洋戦争を,日中15年戦争と日英米戦争とが「一つの戦争」であると定義づける用語とすると主張している.さらに,第二次世界大戦(WWII)が第一次世界大戦(WWI)以上に「総力戦」であった点に注目し,これらの両大戦を「総力戦大戦」と括り,「国民国家の徹底化」をキーワードとして,これら全体の戦争を一元的に把握すべきであると強調している.「総力戦大戦」の下では,国力を構成するすべてが総動員の対象となり,文字通りの国家総力戦体制の構築が企画され,その意味でWWIはその萌芽であり,WWIIは,総力戦を極限まで徹底した戦争として,世界史的意義を有するとしている.その上で,「総力戦大戦」を批判的に捉える歴史の視点の必要性を説いている.おそらく大変重要な指摘であるように思われる.しかし,論点をもう少し整理して分かりやすく展開してほしいという意見が多かった.
(報告:T.M.)

井原 聡著「戦後日本の学術研究体制─日本学術会議とその周辺」
 本論文は,日本の学術研究体制の戦後70年をふり返る意味での好論文である.学術研究体制の関連する二つの流れ(一つは学術の中核となる「日本学術会議」,今一つは「科学技術」の中核である「科学技術会議」)を取り上げ,それらの組織の成り立ちを踏まえた批判的な検討を行っている.科学技術会議については,「科学技術」という産業技術偏重の統制的な動きを批判している.日本学術会議については,第1回総会における平和宣言など初期の声明や提言の歴史的意義を積極的に評価する一方で,大学に自治や学問の自由が踏みにじられようとしている現在において,これらの問題に口を閉ざしていることに猛省を促している.また,学術会議の目的は,創設当時と変わっておらず,学術会議こそが日本の学術体制の中心になるべきである強調している.
(報告:T.Y.)

吉見義明著「日本軍『慰安婦』制度の本質は何か」
 本論文では,国際的には通用しない論理で展開する,異様な「慰安婦」バッシングや朝日新聞バッシングの根底には,安倍政権のもとで進められている日本を戦争する国に造りかえる動きがあると警告する.「誇り」をもって戦争する国民をつくりだすためには,政権にとっては平和憲法や戦争責任に対する反省などは容認できない.このような結節点に「慰安婦」問題があるという.本論文の中で引用されている以下の引用文は「慰安婦」問題の本質を物語っている.
 「日本人の中で繰り広げられている,『強制連行』があったかなかったという議論は,問題の本質ではない」,「慰安婦の話を聞いたとき彼(米国人)らが考えるのは,『自分の娘が慰安婦にされていたらどう考えるか』という1点のみである.そしてゾッとする.これが問題の本質である」,「『強制連行』と『甘言で騙されて』気がついた時には逃げられないのとは,どこが違うのか.もし,『昔は仕方がなかった』として肯定しようものなら,女性の権利の『否定者』となり」,同盟国としては「問題外の国ということになる」
 筆者は,私達にとって大切なことは,次の2点であると訴える.①戦争の反省の上で平和・自由・平等な日本社会を作り上げてきたことに誇りをもつこと.②「慰安婦」問題に象徴される未完の「過去の克服」を成し遂げることにもう一つの誇りをもつこと.大切な視点であると思う.
(報告:E.M.)

岩間一雄著「憲法を活かす国民運動論─ささやかな実践記録」
 筆者は,「NPOおかやま人権研究センター」や「NPO法人朝日訴訟の会」の会長を努める方である.本論文は,国民運動論を展開するというよりは,著者自身のまわりでどのような憲法を活かす活動を行っているのかという活動報告のようなものである.2014年の秋に「岡山県九条の会」結成10周年を行ったあとの交流会でどうやって若い世代へ運動を繋いだらよいかが問題になったという.筆者の結論は,「年齢を考えない」,「九条を全力で守る」,「運動を全力で行う」であるという.その意気込みでのささやかな実践の積み重ねによって大きな国民運動になると信じたい.
(報告:Y.S.)
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