2013.7月号

読書会日時:2013年7月8日(月曜日)午後2時〜5時
読書会場所:ふくふくプラザ(福岡市市民福祉プラザ)604室

<特集>環境の考古学・歴史の現在

松木武彦 まえがき
松木武彦 歴史・歴史学・地域社会─吉備の考古学研究の実践から
今津勝紀 日本古代における環境と適応の問題─飢饉と疫病および家族を中心に
柳澤和明 貞観地震の被害とその復興─研究の現状と課題
渡辺満久 活断層をどう考えるか─12〜13万年前か40万年前か

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松木武彦著「歴史・歴史学・地域社会─吉備の考古学研究の実践から」
 「歴史」は,教育,地域行事,読み物などを通して各人に内在化する.「歴史学」とは,そのような「歴史」の外側に立ち,その科学性を保証・点検し,過去を参照したときのあるべき姿について考える学問的な営みであるという.その上で,「吉備」(岡山県全体と広島県東部,兵庫県西端の一部,香川県島嶼の一部を含む領域)と「吉備氏」(吉備に本拠を置く古代豪族)の歴史学を展開している.筆者は「保守化のなか,簡明で心地よいストーリーとしての「歴史」はますます好まれ」,「それに迎合した「歴史」語りに加担する」歴史学者もいるとして,「社会科学としてのこれからの「歴史学」がどうあるべきか,真剣に考えるときが来ているように思う」と結んでいる.「新しい歴史教科書をつくる会」が出した「歴史」や「公民」の教科書は,ストーリー性を重視し感情に訴える記述に徹した,本論文で言う「科学性の保証・点検」を欠いた教科書である.この点について,具体的な事例を含んだ問題提起がほしかった.  (報告:T.M.)

今津勝紀著「日本古代における環境と適応の問題─飢饉と疫病および家族を中心に」
 社会の変化は,環境を含む歴史的諸条件の中での適応のプロセスとして把握することが,最近,歴史学では求められるようになってきた.人間や社会を内在的に捉えるだけではなく,それを取り巻く自然との関係を考慮しようという機運が高まっているという.本論文において,日本の古代社会の実態を示し,その環境と適応の問題を探るための今後の研究方向を提言している.日本古代には飢饉と疫病が頻発しており,人々の生活の基盤は脆弱であった.当時は,多産他死型で新陳代謝の激しい社会であり,配偶者の死別にともなう対偶関係の組み替えが頻繁に起こるなど,流動性も高く不安定であった.このような古代社会を特徴付ける諸条件を理解するためには,生態学的アプローチやシミュレーションにより,自然環境と人間の関係を検証可能な形で把握する必要があるという.正倉院に残る戸籍データから,古代の家族構造が解明されていく過程が興味深く感じた.今後の研究の発展を期待したい. (報告:Y.M.)

柳澤和明著「貞観地震の被害とその復興─研究の現状と課題」
 本論文は,史料・発掘調査などによる貞観地震の研究と課題を概観したものである.貞観地震とその津波(869年7月9日)の被害が,一般に知られるようになったのは,3.11東北地方太平洋沖地震の後であったことは痛ましい.貞観地震研究の成果がもっと早くから周知され,地震・津波に対する対策が講じられていれば,被害をもっと低減することは可能であったかの知れない.貞観地震はM8以上の巨大地震であったが,石橋克彦氏によれば3.11東北地方太平洋沖地震よりは規模は小さいという.陸奥国府多賀城は,貞観地震で大被害を受けたが,発掘調査により復興を遂げていることが判明している.しかし,巨大津波の襲来が『日本三代実録』より推定されるにもかかわらず,その津波痕跡ははっきりしないという.3.11以降に活発化した災害史研究をさらに推し進め,その研究成果を速やかに社会に還元していく必要がある.  (報告:M.K.)

渡辺満久著「活断層をどう考えるか─12〜13万年前か40万年前か」
 活断層とは,「活きている」断層ことであり,「活きている」とは,近い将来動くということである.近い将来動くかどうかは,「地質学的最近」において活動を繰り返しているかどうかで判断する.「地質学的最近」とは,約200万年前以降という研究者もいるが,通常,数10万年以降を指すことが多いという.場所ごとにどれだけの応力(単位面積あたりの力)が加わっているかを示すものを応力場というが,日本列島において,現在と同じ応力場になったのは数10万年前であると考えられている.活断層には,地下深部から連続している起震断層と小規模活断層がある.起震断層の掘削調査によると,その活動間隔は数千年程度であり数万年を超えることは少ないという.また,起震断層周辺の小規模活断層は,起震断層活動時にまったく動かないことも,複数回動くこともある.したがって,小規模活断層には平均的活動間隔の意味はなく,その活動性は起震断層の活動性で判断をすべきであるという.活断層の定義には「5万年前以降に活動したもの」で十分であるが,活断層ではない可能性を示すための無駄な調査や誤魔化しが繰り返されてきたこれまでの経緯を観れば,現在の応力場が支配的となった約40万年前以降の活動性で活断層を判断することで,調査や議論の無駄を省き,原子力の安全性を確保するための審査を効率的に進めることができるという.極めてクリアな論文であった. (報告:E.M.)
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