2017.4月号

『日本の科学者』読書会
読書会日時:2017年4月10日(月曜日)午後2時〜5時
読書会場所:ふくふくプラザ(福岡市市民福祉プラザ)604室
jjs201704

『日本の科学者』2017年4月号
<特集>日本は法治国家か?―辺野古・高江から地方自治と国家を問う
佐藤 学:日米軍事同盟体制と沖縄の役割―在沖海兵隊・オスプレイ「御守り」論
徳田博人:辺野古裁判の検証と今後の展望と課題
亀山統一:沖縄島の自然環境保全の課題―その焦点としての辺野古・大浦湾の保全
宮城秋乃:やんばるの動物と生物多様性―高江・安波で発見した希少動物と
     ヘリパッド建設が動物に与えた被害の具体例
前田定孝:高江―暴走する国家権力

<報告>

以下は4月10日(月)の読書会において報告されたレジュメをもとに『日本の科学者』読書会の様子を編集したものである.

佐藤 学:日米軍事同盟体制と沖縄の役割―在沖海兵隊・オスプレイ「御守り」論

本論文は,中国脅威論にのり「米海兵隊が,オスプレイに乗って尖閣を防衛に行くために沖縄に駐留しており,辺野古新基地はそのために必要不可欠である」という言説に反論であるという.まず,沖縄にいる米軍は,尖閣防衛のためにいるのではない.2015年4月に改定された「日米防衛協力のための指針」(新ガイドライン)では,尖閣諸島を含む島嶼防衛の責任は自衛隊が負っている.米軍の役割は「支援と補完」のみである.米国は,もともと,尖閣諸島の領有権については中立であると言い続けている.領有権について中立であるという島嶼のために,米兵が命を賭けるという想定自体が成り立たない.また,オスプレイで海兵隊が尖閣に直行するということもない.海兵隊が上陸戦闘部隊を運搬する際には,海軍の強襲揚陸艦にオスプレイなどの航空機とともに載せて,作戦地近くまで行き,そこから航空機で運ぶのである.沖縄の海兵隊がオスプレイで尖閣へ戦争に行ってくれると信じて,辺野古新基地建設に膨大な国民の税金(1兆円)をつぎ込んでバカを見るのは,日本国民であるとしている. (報告:E.M.)

徳田博人:辺野古裁判の検証と今後の展望と課題 

2015年10月,翁長沖縄県知事は,前知事が行なった辺野古埋め立て承認について,取り消しを行なった.国及び沖縄県による一連の辺野古争訟が起こされた.裁判所は和解を勧告し,県と国はそれぞれが起こした訴訟を取り下げ,円満解決に向けて協議することになった.沖縄県は,国に対し県と協議するよう求め,法廷闘争を回避するよう配慮を求めたが,2016年7月22日,国は沖縄県に対して,地方自治法に基づく不作為の違法確認訴訟を提起した.国は基地やオスプレイの存在により,国民の安全が確保できると主張.翁長知事は,沖縄の基地の過重負担や人権・環境の侵害を訴え,地方自治や民主主義が問われる裁判と位置づけて争った.福岡高裁(9月16日)と最高裁(12月20日)は,国の主張を検証抜きで認め,憲法や地方自治法が保障した価値(法原理)を軽視したものである.翁長知事には,埋立承認の「撤回」権限が残されている.「基地のない平和の島,沖縄」の実現に向けた辺野古新基地建設阻止こそが民主的平和的国家実現の途であると著者は結ぶ. (報告:S.M.)

亀山統一:沖縄島の自然環境保全の課題―その焦点としての辺野古・大浦湾の保全

2017年1月,日本政府は「奄美大島,徳之島,沖縄島北部および西表島」を世界自然遺産候補に推薦することを閣議了解した.2018年のユネスコ世界遺産委員会の審査を通れば,国内5番目の世界自然遺産となる.しかし,政府は自然環境保全の対象地域から軍事基地とその周辺地域を外したため,生物多様性のホットスポットを守れない,バッファーゾーンを設けられない,やんばるの多様な自然を保全できないという問題を抱えている.例えば,やんばる国立公園(2016年9月)には,その東側に保護すべき森林が広がるが,米軍基地に占有されている.ヘリパッドの建設強行で固有種が生息・繁殖する第二種特別地域に隣接する森を破壊している.また,海草藻場が高密度に大規模で現れ,良好なサンゴ礁が存在する辺野古・大浦湾を政府は保全しようとしない.著者は,「沖縄に持続可能な社会を築くうえで決定的な阻害要因は明らかに軍事基地であり,基地の桎梏を解いてやんばる全体・沖縄全体の自然環境と社会・文化を保全すること」が政府の責務であると喝破する.最後に,「沖縄の軍事基地が日本の国土防衛や東アジアの安定に貢献している」との政府の主張に対して,「軍隊による平和」を否定しているのが沖縄の価値観であると対比している. (報告:F.Y.)

宮城秋乃:やんばるの動物と生物多様性―高江・安波で発見した希少動物と,ヘリパッド建設が動物に与えた被害の具体例

沖縄島北部の東村高江と国頭村安波で行われている米軍ヘリパッド建設や米軍機の飛行が,やんばるの希少生物たちの命や住処(すみか)を奪っている.例えば,ヘリパッドや進入路,工事用道路の建設により,植物や動けない動物が死に,大木の伐採により,大木に依存するノグチゲラなどの生物種の絶滅が促進される.2011年10月から数名の生物研究者による高江・安波の生物分布調査で,高江の土壌中から新種のカニムシ2種採集するなど,様々な新発見があり,それだけ高江や安波の森は生態的にも学術的にも重要な地域であるという.オスプレイの騒音によりノグチゲラのひなの異常な行動が目撃されている.これらの生物への悪影響は,ヘリパッドが存続する限り今後も続く.一刻も早く建設を中止し,舗装を剥がして,森を生物たちの返すことが必要だと著者は訴える. (報告: Y.M.)

前田定孝:高江―暴走する国家権力

 2016年7月22日,沖縄防衛局は,沖縄県東村高江でヘリパッド建設工事に反対する住民のN1テントを強制撤去した.民主的な国家では,国家権力特に警察権の行使は,厳密に法律に基づくものでなければならないが,強制撤去の法的根拠を地元新聞社が沖縄防衛局や県警に問い合わせても回答がないという.これらの事態を法治主義の観点から本論文では読み解く.法治主義とは,国民の権利保護のため,行政の主要な部分が国民の代表からなる議会の制定した法律で行われ,行政機関の行為の違法性を審査する独立の裁判所によって行政の司法統制が行われることである.行政による強制的な執行には,「直接執行」と「強制執行」があり,前者は相手方に「撤去義務」を課したうえで行政自身が強制執行するものであり,後者は義務を課すことなく直ちに強制執行するものをいう.いずれの場合にも,法的根拠が必要である.沖縄防衛局は,名宛人を特定しない撤去要請の張り紙をしたようであるが,これでは「直接執行」における特定人への「撤去義務」を課したことにはならないという.著者は,N1テントの強制撤去は「強制執行」にも当たらないという.このほかに,警察官による県道70号線の封鎖や県道で実施された検問についても法治主義の観点からの検証をしている.最後に,暴走する国家権力をくいとめるために,学術と運動の連帯による取り組みが求められると筆者は主張する. (報告:T.Y.)

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