2012.12月号

読書会日時:12月10日(月)午後2時〜5時

<特集>原発再稼働を問い直す

清水修二論文「福島原発災害と地域再生の課題」
本島勲論文「原発停止下における電力需要ー大飯原発再稼働の検証と電力システム改革」
井戸謙一論文「福井原発再稼働差止め訴訟の論点」
坪田嘉奈弥論文「原子力発電所と雇用問題」
jjs2012.12

<読書会の記録>

清水修二論文「福島原発災害と地域再生の課題」
福島県では,知事と県議会が「県内全原発の廃炉」を主張している.しかし,政府と東電は第一原発5,6号機と第二原発4基の望んでいる.また,他の原発立地自治体は経済的理由から再稼働を望む現実がある.しかし,福島の経験を真に教訓とするためには,被災地域のリアルな実情を見据えて原発に依存しない地域作りの方法論を構築する必要があると主張する.廃炉が生む雇用について,チェルノブイリの例があり参考になる.事故前のチェルノブイリでの雇用は7000人であった.廃炉に向けた作業を行っている現在の雇用は3500人,放射能汚染の周辺地域の安全管理などにあたっている労働者が3500人にのぼり,新たに「石棺」を覆う工事にも相当数の雇用が見込まれるという.
(報告:Y.S.)

本島勲論文「原発停止下における電力需要ー大飯原発再稼働の検証と電力システム改革」
日本の発電施設の稼働率(2006年度)は水力22%,火力44%,原子力70%で,火力は半分以上が停止している状態である.日本全体で原発の発電量は火力施設の28%に相当するので,原発を止めたとしても,火力の稼働率を44%から72%(原発の稼働率と同程度)にすることで対応できる.このことは,今夏の電力需給結果により証明されてもいる.電力の自由化はすでに2000年から始まっており,新電力が誕生し(64社が登録,実際に供給しているのは27社),そのシェアは5%程度である.日本での自然エネルギー導入可能量は現在の発電設備容量の10倍ある(環境省2010).経産省は,小売り部門,発電部門,送電分野にわたる電力システム改革の基本方針案をまとめた(2012.7).内容は,新自由主義に基づく競争・市場原理の導入である.地場産業や地域住民によるエネルギーの地産地消に基づく改革が求められている.
(報告:T.Y.)

井戸謙一論文「福井原発再稼働差止め訴訟の論点」
新しい審査指針・技術基準に基づく定期検査に合格するまで再稼働禁止を求める仮処分訴訟が大津地裁で進行中である.そこで争われている論点が整理されている.原告主張:福島原発事故でこれまでの安全設計審査指針が誤っていたことが明らかになった(被告の反論なし).原告主張:社会的に容認される安全性のレベルは,過酷事故の発生に怯えながら生活する必要のない程度のものであるべき(被告の反論なし).原告主張:過去に生じた最大の地震を前提に対策を取るべき(被告主張:他地点の過去に生じた最大の地震を前提とするのは相当でない).原告主張:若狭湾の原発は2006年9月の新耐震設計審査指針によるバックチェックが行われていない.新指針によるバックチェックが完了するまで運転は許されない(被告の反論なし).つい最近,直下の断層が活断層である可能性が高まった敦賀原発もこの差止め訴訟の対象である.判決は来年早々に出る予定である.裁判所が3.11以降変わったのかどうかをみる試金石となる.
(報告:E.M.)

坪田嘉奈弥論文「原子力発電所と雇用問題」
4基の原発があり,さらに2基の増設計画のある敦賀市の市議会では,2011年12月に,①停止中の原発の再稼働,②敦賀3, 4号機の増設促進,③もんじゅの存続の意見書を賛成21反対4で可決した.敦賀市長は「原発は雇用の柱」として新たな地場産業を育成していくことに目が向かない.しかし,3.11の原発事故を経験したあとでは,このような態度は理解しがたい.原発の現場での派遣労働は,元請け,下請け,さらに孫請け,ひ孫請けという形で多重構造になっており,電力会社から出た労働者日当(6~7万円)が末端の労働者に渡るときには7000〜8000円になるという.日本の原発1基あたりの総被曝量はアメリカ,フランスの2倍,スウェーデンの3倍と世界一大きく(総合資源エネルギー調査会2011年1月),その96%は下請け労働者が受けている.一方では,現場での被曝隠しも常態化している.原発は早急に廃炉にして,その間に新たな地場産業の育成をはかることが必要であろう.
(報告:M.K.)
inserted by FC2 system