2018.2月号

『日本の科学者』読書会
読書会日時:2018年2月12日(月曜日)午後2時〜5時
読書会場所:ふくふくプラザ(福岡市市民福祉プラザ)604室

『日本の科学者』2018年2月号
<特集>気候変動とその対策,自然エネルギーと省エネの社会実現に向けて

<報告>

岩本智之:近年の「異常気候」と気候変動
2016年の世界平均地上温度は,1981〜2010年の平均値に比べ+0.45℃と観測史上第一位となり,また,世界の海水面温度も100年で+0.53℃のペースで上がっている.このような地球が全体として温暖化していることは間違いない.そして,その原因が人為的に発生した大気中の温室効果ガス濃度の増加によることもほぼ確であるようだ.「世界のCO2濃度は観測史上最高を示しているにもかかわらず温暖化は止まっている」(赤祖父俊一氏),「気温上昇の主因は太陽活動の変化」(Jaworowsk),「CO2の大気中濃度を増大しているのは海洋からの供給である」(槌田敦氏)などの気候変動否定論を批判的に紹介しながら,それらの人にも人類の未来を保障する建設的な議論を呼びかけている. (報告:T.Y.)

早川光俊:パリ協定と人類の未来
2015年11月,国際社会が合意したパリ協定は,すべての国が温室効果ガスの削減に参加し,平均気温の上昇を2℃未満にすることを目的とした点で歴史的合意である.世界はパリ協定の実施に向けて急速に進みつつある.化石燃料への投資から撤退する動きも急速に広がっている.イギリス,フランス,カナダは2030年までに石炭火力を廃止するとし,EU各国でガソリン車の販売を停止する動きも広がっている.このような動きに反して,日本は,2030年の温室効果ガスの削減目標がEU諸国と比べて低く,自然エネルギーの導入目標も低い.いま,日本では42基,2051万kWの石炭火力発電の建設計画があり,2020年前後からの稼働を予定している.パリ協定に逆行するエネルギー政策と言わざるをえない.一方,地球環境市民会議(CASA)によるシナリオでは,原発ゼロでEU諸国並みのCO2排出41%削減(1990年比)が可能という. (報告:I.H.)

歌川 学・外岡 豊:2050年温室効果ガス排出80%以上削減に向けた対策シナリオ
2050年に温室効果ガス排出80%以上削減(1990年比)に向けて3つの対策をしたケースを検討している.対策①では,省エネや自然エネルギー及び既存優良技術が普及し,生産量や輸送量は2030年までは政府の「長期エネルギー需給見通し」の想定に従い増加し,2030年以降は人口減少に応じて漸減するとする.対策③では,以上に加え新技術を活用するとともに,生産・輸送をスリム化することを想定している.もっとも保守的な対策①でも2050年に温室効果ガス排出80%以上削減は可能であるという.また,対策③では,95%以上の削減可能性が得られ,経済・雇用等にも大きなメリットがあることが示された.100万人規模の雇用拡大も期待される. (報告:E.M.)

河野 仁:日本の自然エネルギーの現状と政策課題
気温上昇を2℃未満に抑えるためには,2050年の先進国のCO2排出量を80〜95%削減(1995年比)が必要であるが,日本の目標はこれを本気で考えた計画になっていない.2016年の電力に占める自然エネルギーの割合は,OECD諸国で50〜100%であるのに対して,日本では16%である.アイスランドでは,水力72.6%,地熱27.3%で自然エネルギーのみで電力を賄っている.ノルウェーも水力(96.3%)と風力(1.4%)で98%の電力を賄っている.デンマークは風力で43%の電力を賄っている.日本で自然エネルギーの導入が進まないのは,炭素税の導入などの有効な温室効果ガス削減の義務付けがないことが大きい.自然エネルギー発電の送電網への優先接続ルールなどを法的に整備し,太陽光と風力発電の接続可能量の限度を撤廃するとともに,自然エネルギーの変動を予測し,火力や揚水発電の出力を制御する中央制御センターが必要であるという.豊富な自然エネルギーを有する日本では,環境対策を考えた風力発電等の設置場所選定や騒音基準対策等を備える必要もあるという. (報告:F.Y.)
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