2016.10月号

『日本の科学者』読書会
読書会日時:2016年10月10日(月曜日)午後2時〜5時
読書会場所:ふくふくプラザ(福岡市市民福祉プラザ)604室

『日本の科学者』2016年10月号
<特集>「原発再稼働を阻止し,原発に頼らない地域をめざそう」
舘野 淳:「欠陥商品」としての軽水炉と再稼働の問題点
岡田知弘:原発に依存しない地域社会をつくるために
伊東達也:原発反対運動の課題̶未然に防げなかった福島の経験を踏まえて
井戸謙一:原発裁判の動向̶司法は原発ゼロの日本に道を拓くか
立石雅昭:原発建設を住民投票で阻止した巻町の闘い̶町民総意で原発NOを選択

<報告>

舘野 淳 著:「欠陥商品」としての軽水炉と再稼働の問題点
 軽水炉は,炉心が1200℃を越えると温度制御が不可能となり炉心溶融に至り,周辺住民を巻き込む深刻な放射能災害の引き金を引くという特徴を持つという.このような炉心溶融は,加圧水型(PWR,スリーマイル島原発など)でも沸騰水型(BWR,福島原発など)でも起きており,軽水炉特有の欠陥である.著者は,メーカーでは軽水炉の改良(効率化,大型化,安全装置付加など)を進めているが,著者は技術的にも経済的にも失敗に終わっていると断言する.そして,現在,原子力規制委員会が進めている新規制基準による適合性審査の問題点として,①ベント機能が強調され「閉じ込める」機能が弱められたこと,②中性子照射脆化などの基礎的研究とデータの積み重ねが必要な問題は回避されていること,③事故対応に必要な原子炉水位計などの計測計器類の抜本的改善が要求されていないことなどを挙げる.IAEAの福島事故調査報告書において日本の事業者や規制当局が人的要因を十分に評価していないとしている点を指摘し,その体質が事故後に改善されてはおらず,このような現状から原発の再稼働は中止し,六ヶ所再処理工場も廃止することが最善の道である結論している. (報告:T.Y.)

岡田知弘著:原発に依存しない地域社会をつくるために
 「原発が稼働しないと地域経済が破綻する」という議論があるが,実際には原発立地の地域経済・地方財政効果は限定的であるという.例えば,市町村内の総生産に対するその住民の所得の割合は原発立地の柏崎市や刈羽村では,それぞれ,60%と29%であるという.新潟県平均が72%であることを考えれば低いことが分かる.所得が地域に循環せず電力会社本社に移転するということを意味している.佐賀県の玄海町ではこの割合は16.5%であるという.玄海町の総生産のほとんどが九州電力本社へ吸い上げられているということである.福島県は,震災から5ヶ月後の2011年8月11日に「脱原発の基本方針のもと,原子力に依存しない,安全・安心で持続的に発展可能な社会づくり」を基本理念に掲げた「福島県復興ビジョン」を決定した.会津では再生可能エネルギーの地産地消をめざし会津電力が設立され,飯館村にも飯館電力が設立された.福島県ではこのような取り組みを全県に広げて2040年までにすべてのエネルギーを再生可能エネルギーで賄うという.著者は,原発停止から廃止に向かい,再生可能エネルギーへの転換と廃炉の道程を,地域経済の持続性の視点も加えて,国や地方自治体が具体化する必要があると結論する. (報告:K.K.)

伊東達也著:原発反対運動の課題—未然に防げなかった福島の経験を踏まえて
 現在著者は,原発事故被害いわき市民訴訟の原告団長として,国と東京電力の法的責任を求めている.2016年7月現在,福島県の震災関連死は2065人で,宮城県920人,岩手県457人と比べて突出している.自殺者も多い.帰還宣言をしても住民は戻れない.2011年9月に帰還できるようになった広野町は5割の住民が帰還していない.楢葉町は,2015年9月に帰還宣言を出したが7.3%の住民しか戻っていない.帰還困難区域7市町村では,未だに除染計画も帰還計画もない.著者等の属する「原発反対福島県連絡会」などの住民団体は,事故発生以前に,津波や地震への対策を急ぐよう強く求めてきた.それらのなかで,震災の4ヶ月前の2010年11月に清水電事連会長・近藤原子力委員会長・班目原子力安全委員会委員長・寺坂原子力安全保安委員長宛に「原発が大地震に見舞われた際の備えが十分であるか.国と電力会社は安全宣言をしているが,過酷事故への備えは万全といえるか」との申し入れをしたが,回答は「大事故は起こり得ない」「十分対策は取っている」であった.最後に著者は,①福島原発事故の実相・教訓,②日本の原発立地・運転の危険,③原発依存から自然再生エネルギーへの転換などを人々に伝えることの重要性を強調した. (報告:Y.M.)

井戸謙一著:原発裁判の動向—司法は原発ゼロの日本に道を拓くか
 2016年3月9日の大津地裁決定は,史上初めて司法の力で稼働中の原発を停止させた.隣接県の裁判所が運転の差止を命じた点でも画期的であった.福島事故後の5年間で住民勝訴判決・決定が4例あったが,住民敗訴も相当数見られる.本論文では,①住民勝訴判決・決定と敗訴決定の違いはどこにあるのか,②双方の判断が拮抗するいまの状況はなぜ生まれたか,③これからの司法判断はどうなっていくのか,について論じている.原発事故によって現実に深刻な被害が発生したことを直視することが大切であり,事故前に原発の運転差止をしなかった司法が事故を招いた責任の一端を担うことは否定できない著者はいう.大津地裁決定では,事故を踏まえてその原因をどう総括し,新規制基準が従来の基準からどのように強化され,電力会社がどのような対応をしたかについて納得のできる説明がなされない限り再稼働を認めることが出来ないとした.このように,事故の教訓を判断枠組みに生かすかどうかが問われている.事故後,原発安全神話の崩壊,専門家信頼神話の崩壊,原発必要神話の崩壊が社会的認識となり,原発問題のフェーズは変わった.裁判所の判断が拮抗しているのはその反映であるという.原発の再稼働は,電力会社の安定経営のためである.そのために,周辺住民が深刻なリスクを受け入れる理由はどこにもない.現在係属中の原発訴訟は32件にのぼる.フェーズの変わった今,さらに原発の差止を命じる判決・決定が出る可能性は十分にあり,司法をチャンネルの一つとして原発のない日本を作る可能性が出てきたと著者は希望を語っている. (報告:F.Y.)

立石雅昭著:原発建設を住民投票で阻止した巻町の闘い—町民総意で原発NOを選択
 1996年8月,新潟県巻町で東北電力の巻原発建設の是非を問う住民投票が行われた.結果は,投票率88%で建設反対が6割を超え,町民の意思が明確に示された.著者は,この巻町での運動を振り返り,原発ゼロの願いを実現するために広く共有すべき視点を整理している.巻町の運動は,町政の主人公である住民が自ら意思を表明し政策を決定した点に特徴がある.巻町は保守的風土の強い地域であるが,反原発のグループの地道な運動のなかで,原発建設に賛成の人も含めたより広範な住民団体(住民投票を実行する会)との共同が作られたことが勝利の大きな要素であった.科学技術庁や電力会社の金に糸目をつけない宣伝や供応の動きに対しても,的確な批判を行いながら,住民への厚い信頼を基調とした運動が展開された.反原発の運動というだけに留まらず,人間の尊厳をかけての闘いであり,町民の幅広い層が参加する運動を追及し,一致する要求に基づいての運動が重要であったという.また,原発建設反対の運動の流れを大きく変えたのは,原発に反対する女性の思いであったという. (報告:S.K.)
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