2017.7月号

『日本の科学者』読書会
読書会日時:2017年7月10日(月曜日)午後2時〜5時
読書会場所:ふくふくプラザ(福岡市市民福祉プラザ)604室

<報告>

7月号にはいつもの特集がなかったので, 7月10日(月)の読書会においては,5月号〜7月号に掲載された<ひろば>の軍学共同関連の論説を扱った.当日報告されたレジュメをもとに『日本の科学者』読書会の様子を編集した.

(5月号)
野村康秀:「予算拡大で新たな危険段階に入った防衛装備庁の研究委託制度」
赤井純治:「軍学共同反対連絡会の活動」
野村論文では,予算の面から防衛装備庁の研究委託制度を詳細に論じている.「安全保障技術研究推進制度」による研究委託費予算は2017年度は,6億円から109.9億円へと一挙に拡大された.これには,「1件当たり5年で数億〜数十億の大規模プロジェクト」の研究委託契約分の100億円と2015,2016年度からの継続分7.8億円が含まれる.100億円のうち2017年度支出予定額は12.3億円で,残りの87.7億円は後の4年にわたり支払われることになる.野村氏は,防衛省の職員(PO)が研究の進捗状況や「防衛装備庁」とのラベルの付いた試験装置の管理状況を確認するために大学に出入るすることが日常化し,防衛装備庁との繋がりが半永久化し,外国人研究者・学生を始めとしてすべての教職員・学生の監視体制が義務付けられるだろう,と警告する.また,109.9 - (100+7.8)=2.1億円の差額は,制度推進のための人件費,旅費,事務経費などであろうという.
赤井論文は,2016年9月に結成された軍学共同反対連絡会の署名や学術会議前での宣伝など様々な活動を紹介している. (報告:T.Y.)

(6月号)
河かおる:「足元で立憲主義の危機に向き合う」
河村 豊:「両用分野の研究は日軍事か?」ほか
河論文は,滋賀県立大学における「安全保障技術研究推進制度」(以下,防衛省制度)に関しての軍学共同反対の取り組みを報告している.2015年度には,教育研究評議会において応募の是非が議論され,最終的に「現時点での応募は適切でない」とされたが,2016年度になって防衛省制度についても個別研究課題ごとに応募の可否を判断するという基準(案)が教育研究評議会で承認された.この基準(案)に対して,防衛省などの軍関係機関からの資金による研究は基本理念に照らして認められないとの意見書を有志で評議会に提出.京都新聞で「滋賀県立大学 軍事技術研究へ応募検討」との記事の中で一般市民の学外の危機感の中で大学は2017年1月に「滋賀県立大学の研究者の研究活動における基本理念」を公表した.3月には防衛省制度に「大学としての応募はできない」とする学長談話もプレスリリースされた.
河村論文では,両用技術という言葉は,軍事技術を隠すための「語義の乱用」であり,軍事研究を推進する狙いは,防衛産業界が世界の武器市場で競争力を保つということである,と的確な指摘をしている.他に鯵坂真氏が関西大学の状況を報告している.2016年に学長が全学の教授会に防衛省研究費への応募の是非を諮問し,各教授会はほぼ一年をかけて審議した結果,関西大学には「人類の平和・福祉に反する研究活動に従事しない」という「研究倫理基準」があり,これを原則とするという方針が再確認され,2016年12月7日,学長名で防衛省の研究費に応募しないことを発表した. (報告:K.K.)

(7月号)
井原 聡:「大西隆学術会議会長への抗議と批判」
井原論文では,学術会議の「軍事的安全保障研究に関する声明」に関して,日経ビジネスWeb版での「‘軍事研究容認’と叩かれても伝えたいこと」とのインタビューでの大西会長の発言を批判している.大西会長は「学術会議の意見と世間一般の意見は違う」と述べている.学術会議では2015年9月の総会以降の毎回の幹事会で議論し,2016年6月からは「安全保障と学術の関わりの検討委員会」を11回開催し,2017年2月には市民参加のフォーラムを開催するなど議論を重ねてきた.大西氏の発言は,明らかに学術会議の声明を貶め,学術会議の存在意義を否定するものであると厳しい.さらに大西氏の「公開の場で議論しているのでメディアが多く来る.何か発言すると新聞などに取り上げられる.そう考えると思っている意見を表明できなくなるケースがあったかもしれない」との発言を批判している.この発言は,真理を探究している研究者の発言とはとても思えない.大西氏は学術会議の会長には最もふさわしくない人物である.大西氏は「軍事的組織から民生部門への転用をもっと議論したかった」と言う.しかし,デュアルユース論については,11回開かれた検討委員会では,4回にわたって議論し,そして民生転用については意義を見出さなかった,ということである. (報告:E.M.)

(7月号)
増田正人:「軍事研究に対する法政大学の態度表明について」
松見 俊:「西南学院『平和宣言』発表の経緯と意味」
増田論文は,法政大学の軍事研究に対する態度表明を報告している.2017年1月26日,法政大学は「学外資金によるデュアルユース研究費への応募について」を発表し,「安全保障技術研究推進制度」への応募を禁じた.法政大学憲章のもとで,防衛装備庁の資金を受け入れるためには,大学の基本的なあり方を変えなければならないが,それは望ましいものでない.それが応募を禁じた理由であるという.
松見論文は,2016年4月1日に発表した「西南学院創立百周年にあたっての平和宣言—西南学院の戦争責任・戦後責任の告白を踏まえて」の経緯を報告している.2004年に院長に就任した寺園喜基氏は,『西南学院七十年史』の歴史認識の中に戦争責任への言及がかけていることに気づき,2016年の創立百周年における『百年史』編纂には戦争責任を明確にしようという動きが起きたという.平和宣言は,アジア・太平洋戦争を十分批判できず,結果的に戦争に加担したことを悔い改めており,植民地争奪戦争における加害責任を明確にするだけでなく,戦争という最大の人権侵害を二度と許さない決意と,戦争によって人が味わう不条理と理不尽な苦しみの共有こそが国境を越えて人間を連帯させるという希望の視点で書かれている. (報告: Y.M.)
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