2017.11月号

『日本の科学者』読書会
読書会日時:2017年11月13日(月曜日)午後2時〜5時
読書会場所:ふくふくプラザ(福岡市市民福祉プラザ)604室

『日本の科学者』2017年11月号
<特集>超低周波・低周波音,電磁波による健康被害

<報告>

松井利仁:低周波音による健康影響と個人差—前庭による知覚と上半規管裂隙症候群
 日本では,西名阪自動車道事件(1970年)を切っ掛けに低周波音行政は先進的な内容になったが,2017年5月に環境省が示した風力発電施設からの低周波音影響評価指針は,先進的な低周波音行政を破棄し,事件以前の内容に逆戻りした.西名阪自動車道での疫学調査によれば,住民に頭痛,めまい,不眠などが多発し,半数を超える有症率になっている.頭痛やめまいは低周波音に特有な症状である.風力発電施設については,まず欧州で問題が顕在化し,めまいや頭痛,不眠などが多数報告され,「風車病」と呼ばれている.低周波音によるめまいや頭痛などの症状は,上半規管裂隙症候群と呼ばれ,音刺激が前庭(内耳)の平衡機能を刺激することで生じる.環境省が示した指針では,風車騒音の影響を「聞こえる音」に限定したことで,「聞こえない」低周波音による影響をカバーできないことになった.この新たな指針によって,低周波音による健康影響を受ける住民が続出するだろうとして,指針作成の中心人物として橘秀樹・東大名誉教授を「わが国の騒音行政を科学や世界の常識から遠ざけた」と厳しく糾弾している. (報告:T.Y.)

市川守弘:風力発電被害とどう闘うか—法的手段の可能性と課題
 再生可能エネルギーとして風力発電所建設が全国で進行しているが,風車の低周波音による健康被害や風車建設による自然破壊などの弊害も指摘されている.風車が発生する低周波音と睡眠障害,血圧上昇,めまいなどの自律神経失調症状との間に科学的因果関係が肯定されなければ解決は難しい.本論文では,科学的成果が乏しい中で,それらの問題に対して法的手段の可能性を提起している.日本では低周波音と被害との因果関係が公には認められていない.従って,低周波音による健康被害を理由として訴訟を提起することは困難である.しかし,「不快感」を理由として法的に争うことは可能である.風車の存在が民法709条(不法行為責任)に違反するかどうかの判断には,住民側の受忍限度を超えているかどうかという要件が必要であり,その要素として風車による利益配分内容と住民の受ける利益の有無も重要なファクターであるという.日本ではまだ広く知られていないが,環境上の正義(Environnmental Justice)概念も有効なものであるという.法的手段の解決には,自然科学や社会科学の調査・研究が不可欠という. (報告:Y.M.)

加藤やすこ:“社会的障壁”としての電磁波と健康問題—身近な発生源と対策
 無線通信技術の普及とともに,電磁波過敏症(EHS)発症者が世界的に増加し,諸外国の有病率は人口の程度と報告されている.その主な症状は,頭痛,不眠,動悸,めまい,吐き気など多岐にわたり,電磁波発生源から離れると症状はなくなるという.ごく微量の化学物質に反応する化学物質過敏症(MCS)発病者は,EHSとの合併症率は高い.公共施設や交通機関に無線LANが導入される中で,EHS発症者が各国で発生し問題となっている.EHSの有病率は,台湾やオーストリアで13%,ドイツやスウェーデンで9%である.日本では3〜6%で,その80%がMCSを合併している.筆者もMCS発症後,EHSを合併し,自宅でのLED電球や冷蔵庫や洗濯機のモーターや低周波音が気になるという.公共施設や学校などの施設へは有線LANの普及が望ましいが,無線LANを使う場所とオフエリアの住み分けも検討してほしい,因果関係が解明されるまでこれらの対応を遅らせることは被害者を増やすことにつながると筆者は訴える. (報告: K.K.)

特集以外に,以下の興味深い論文があったので,その紹介があった.

岡本良治:レビュー「北朝鮮の核開発はどこまで進んだか」
 核兵器は,爆発的な核分裂連鎖反応と核融合連鎖反応のいずれか,または両方を用いた兵器であり,通常兵器とは桁違いに強い爆風や熱線,放射線,電磁パルスを発生する大量殺戮兵器である.世界の基本的危機の源の一つである.広島や長崎に落とされた砲身型や爆縮型の第一世代の核分裂爆弾に比較して,少量の核融合物質(重水素及び三重水素)の添加による核分裂連鎖反応の高効率化(ブースター原理)を図ったブースター型核分裂兵器は,添加する核融合物質の量の加減により爆発威力の調整が容易であり,爆弾の小型化も可能である.さらに,原子炉級のプルトニウムの使用でも核兵器の作成が可能であるという.筆者によれば,北朝鮮はブースター型核分裂兵器の生産と配備ができるようになった可能性が高く,北朝鮮の核兵器開発は「対米外交の道具」を超え,実践配備を整えつつあるという.さらに,このまま放置すれば,北朝鮮の核兵器能力は,ここ数年のうちに飛躍的に高まると著者は警告する. (報告:E.M.)
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