2016.7月号

『日本の科学者』読書会
読書会日時:2016年7月11日(月曜日)午後2時〜5時
読書会場所:ふくふくプラザ(福岡市市民福祉プラザ)604室

『日本の科学者』2016年7月号
<特集>軍学共同の新展開─問題点を洗い出す
河村 豊著:広まる軍学共同とその背後にあるもの─安全保障技術研究推進制度と第5期科学技術基本計画   
遠藤基郎著:軍学共同を阻むために─東大職組の取り組みを中心に
豊島耕一著:科学の軍事利用と科学者の抵抗─歴史と運動に学ぶために
西川純子著:軍産複合体と軍事技術開発
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<報告>

以下は7月11日(月)の読書会において報告されたレジュメをもとに『日本の科学者』読書会の様子を編集したものです.

河村 豊 著:広まる軍学共同とその背後にあるもの 安全保障技術研究推進制度と第5期科学技術基本計画
 2016年度には,2015年度に3億円で始まった防衛省の「安全保障技術研究推進制度」の予算が倍増された.著者は,防衛省の目的が軍事技術開発にある以上,この制度から軍事研究という性格を取り除くことはできないとして,この制度の公募要項にある非軍事や公開自由などの「配慮」は軍事研究にアレルギーを持っている研究者を取り込むための巧妙な工夫であると認識した上で,研究者個人だけでなく所属する学協会や組織で慎重な議論が必要であると指摘する.さらに「安全保障の確保に関する技術の研究開発を行う」と明記された第5期科学技術基本計画がスタートする.この研究開発の本質も軍事研究である.これらの背景には経団連などの動きがある.経団連は2015年の提言で「軍学共同」を積極的に推進するよう大学に要望している.最後に,著者は「軍学共同」の容易な受け入れは,公開の制限,進捗管理,継続的な協力などの新たな問題を研究機関・教育機関に持ち込むことになると警告する. (報告:K.K.)

遠藤基郎著:軍学共同を阻むために 東大職組の取り組みを中心に
 東京大学は,戦後は軍学共同禁止・軍事研究禁止の原則を旨としてきた.著者は,2014〜2015年の「産經新聞」の報道を切っ掛けとして東大教職員組合による軍事研究禁止の取り組みを論ずるとともに,東大における軍事研究禁止の歴史が論じられている.本論文によれば,「産經新聞」が東大の軍学共同禁止の方針を敵視し如何にねじ曲げて攻撃し報道しているかが解る.この背景には,2014年4月,安倍政権により防衛省に大学との共同研究の専門部署の設置され,軍事技術移転・武器輸出原則の解禁して,大学発の成果を持って軍需産業を潤わそうとする動きがあると著者は指摘する.1959年・1967年の評議会で「軍事研究に従事しない.外国の軍隊の研究を行わない.軍の援助は受けない」の「南原原則」を確認.1969年に「大学当局と職員組合との確認書」第6項(1)には「大学当局は『軍事研究は行わない.また軍からの研究援助は受けない』という東京大学における慣行を堅持し,基本的姿勢として軍との協力関係をもたないことを確認する」と明確にしている.東大教職員組合のこの間の軍学共同反対の動きは大変参考になる.(報告:S.K.)

豊島耕一著:科学の軍事利用と科学者の抵抗 歴史と運動に学ぶために
 米国の軍産学共同の実態が紹介されている.例えば,スタンフォード大学の航空工学科は,ポラリス・ミサイルや偵察衛生などを受注したロッキードとの結びつきで1956年以降,急拡大する.19070年には,博士号の排出でマサチューセッツ工科大学(MIT)を抜くが,その間にロッキードの研究テーマが航空工学科の研究と授業内容を支配するようになったという.アイゼンハワーは1953年から8年間,米国大統領をつとめ軍産学協同を推進したが,退任時の国民向け演説で「莫大な軍備と巨大な軍需産業との結びつき」が民主主義的プロセスを危険にさらすという「軍産複合体演説」をしたが,その中で資金を媒体にした政府による学者の支配と学者(=科学技術エリート)による公共政策の支配という2つの危険を指摘(特に後者の面で,「学」が軍拡の原動力になっていると警告)しているという.学者や専門家の抵抗の1つの形態として,核兵器配備に反対する非暴力直接行動の例をあげている.さらに大学における科学技術倫理教育の必要性を指摘するとともに,個人の良心を貫くための職業人の「組織上の不服従」(C.E. Harrisらの『科学技術者の倫理』参照)という一般人の「市民的不服従」に対応する重要な考えを紹介している. (報告:Y.M.)

西川純子著:軍産複合体と軍事技術開発
 本論文では,米国における「軍産複合体」の現状を的確に評価している.米国の「軍産複合体」は,原爆や新鋭兵器を生産する恒常的兵器産業の育成を前提としており,当初から自然科学者の協力を必要としていたという.恒常的兵器産業とは,国家から研究開発費をもらって開発段階から兵器生産に従事し,戦争の有無によらず兵器を作り続ける専門の兵器産業である.日本では,現安倍政権により防衛省内に防衛装備庁が設けられた.防衛装備庁の仕事は,兵器の調達と兵器産業の育成である.現政権は米国を手本として「軍産複合体」をめざし,とりあえずは「軍学共同」から始めようとしている.しかし,日本では「軍産複合体」の成立の前に憲法9条が立ちはだかる.憲法9条がある限り日本には米国と異なる選択への道が残されていると著者は指摘する.税金で賄われる研究開発費の配分を決める権限は民主的に選ばれた学術会議に集中すべきであり,そのためには,科学者の良心のみに委ねてしまってはならず,研究者と一般市民の力の合わせることが必要であると著者は強調する. (報告:T.Y.)
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