2014.1月号

読書会日時:2014年1月13日(月曜日)午後2時〜5時
読書会場所:ふくふくプラザ(福岡市市民福祉プラザ)604室

<特集>福島原発事故・災害─現状分析と打開のあり方

伊藤宏之  まえがき
本島 勲  福島原発事故をめぐって─廃炉への当面の課題
青柳長紀  原発再稼働をめぐる技術的論点
舩橋晴俊  高レベル放射性廃棄物処分場問題への対処─学術会議の「回答」をふまえて
山田國廣  除染の技術と効果─住民自身による除染法の提案

jjs2014.1

本島 勲著「福島原発事故をめぐって─廃炉への展望」
廃炉へのロードマップと福島原発の現状を概観し,汚染水・地下水対策への当面の課題を論じている.福島原発事故から2年半,燃料デブリを冷却している冷却している冷却水は大量の地下水の流入とともに放射性冷却水として増加し続け,度重なる汚染水タンクからの漏えいや海への流出は事態を深刻にしている.汚染水対策として必要なことは,①増え続ける汚染水の安全な保管と②地下水の流入の抑制であるが,その展望は定かでない.筆者は,地域住民・漁民の声や科学者・研究者の総意を結集する場が必要とし,特に,本来国立研究所である産総研(旧地質調査所,旧土木研究所,旧資源環境研究所など)を中心とする研究機関・関連学協会を総動員した科学・技術者集団の結集が必要であるとする.その上で,東電の経営破綻は明らかであり,①東電の資産管理と破綻処理および事故賠償処理を行う機関,②事故原発の廃炉処理を進める機関,③電力施設を管理し電力の安定供給を行う機関が必要であるという.原子力規制委員会は,廃炉や汚染水に対応した作業部会を設置して究明・対応を急ぐと言っているが,付属研究機関の設置を含む組織強化のもとで自らの調査・解明が必要であると主張している.福島原発事故に対する現在の国の対策の問題点を浮き彫りにした好論文である. 

(報告:E.M.)

青柳長紀著「原発再稼働をめぐる技術的論点」
安倍政権と原子力利益共同体は,原子力規制委員会(以下,規制委)の新規制基準による審査で,原発を再稼働させようとしている.規制委は,福島原発事故の調査もしておらず,その教訓も生かさないまま新基準と原子力災害対策を策定した.本論文では,新基準と原子力災害対策はその実効性が実証・検証できる科学的・技術的根拠を持つものでないことを論じている.新基準と原子力災害対策の目的は,過酷事故の発生を想定して,事故の進展・拡大を防止しその影響を緩和させて,放射性物質放出による環境の汚染,住民の被曝の影響を緩和させる対策を立て,国・自治体・事業者にそれを実施させることにある.軽水炉型原発では過酷事故を完全には防げないので,このような原子力災害対策を計画・実施せざるを得ない.しかし,規制委は過酷事故対策の多くを経過措置として実施の延期を認めているために,電力会社が長期にわたり過酷事故対策を実施しないで再稼働できるようになっている.新基準では21項目の個別対策が要求事項として示されている.しかし,多くの項目はその機能試験や実証試験が実際上できないものである.数値シミュレーションにより「重大事故対策の有効性評価」が行われているだけでは,要求事項の機能が保障されないのは明らかであろう. 
(報告:T.Y.)

船橋晴俊著「高レベル放射性廃棄物問題への対応─日本学術会議の回答をふまえて」
日本学術会議は,2012年9月11日,原子力委員会に回答「高レベル放射性廃棄物の処分について」を手渡した.この回答は,「総量管理」「暫定保管」「多段階の意志決定」という新しい考え方を導入するものであった.この回答の意義を,科学的検討の場の「統合・自立モデル」の視点から考察し,高レベル放射性廃棄物問題をどう考えるべきかについて論じた大変すぐれた論文である.一部,難解な部分もある.日本学術会議の提言は,①高レベル放射性廃棄物処分に関する政策の根本的に見直す.②科学・技術的能力の限界を認識し,科学の自律性を確保する.③「暫定保管」と「総量管理」を柱として政策枠組みを再構築する.④負担の公平に関する説得力のある政策決定手続きが必要.⑤問題認識共有のための多段階合意形成の手続きが必要.⑥問題解決には長期的な粘り強い取り組みが必要であり,この提言の前提にあるのは,今後10万年にわたって日本列島の地層で安定な地層は特定できないという認識能力の限界の自覚である.この回答の具体化のために,筆者は全量再処理路線の見直しによる直接的処分方式の選択や乾式貯蔵方式の選択,さらに各電力会社の圏域内に暫定保管施設を設置することを提案している.さらに,①総量管理,政策評価基準,科学的知見の扱い方についての合意形成,②総量の上限の確定,暫定保管方式,保管施設の数と規模についての合意形成,③立地点選定問題,立地点地域住民の合意確認手続きの合意形成など多段階方式の合意形成を提案している.
 なお,本論文ではp.21の図2を中心に「制作案」(正:政策案),「科学的地検」(正:科学的知見)など数個の単純なミスがあった.第一には筆者の責任であろうが,編集委員会にも注意深い校閲の責任があるのではないか.
 (報告:Y.M.)

山田國廣著「除染の技術と効果─住民自身による除染法の提案」
本論文では,「環境省除染ガイドライン」に基づいて行われている現行の除染法の問題点を明らかにするとともに,現行法に代わって,住民自身によって実行可能なより簡易でかつ効果的な除染方法を提案している.例えば,屋根や壁など固い素材に対して,現在は高圧水洗浄法が行われているが,この効果は小さい.これに代わる効果的で誰にでもできる方法としてクエン酸入り界面活性剤を用いた泡洗浄とバキューム吸引による方法を提案している.また,土壌などの除染に対して,①湛水法(抜根+湛水+トロトロ層形成+水抜き+乾燥+表層剥離+地下埋設),②2cm深さ抜根法,③水洗浄分級法(湛水+汚泥撹拌+乾燥+表層剥離+地下埋設)などを提案している.「湛水法は,特に水田では有効であろう.しかし,提案されているように1m幅・1m深の穴に汚染濃度の高い泥土を埋め込む方法では,水田の地力低下ないし土性悪化が危惧されるという」農学者のコメントがあった.
 (報告:K.C.)

inserted by FC2 system