2016.4月号

『日本の科学者』読書会
読書会日時:2016年4月11日(月曜日)午後2時〜5時
読書会場所:ふくふくプラザ(福岡市市民福祉プラザ)604室

『日本の科学者』2016年4月号
<特集>立憲主義・民主主義・平和主義を取り戻す
大日方純夫著:「戦後70年」における戦争認識・平和認識の課題ー過去・現在・未来のなかで
植野妙実子著:立憲主義と国家緊急権
金子 勝著: 第九条の永久保存のためにー「第九条の国」から「安保の国」への転換点に立って
小沢隆一著: 平和主義,立憲主義,民主主義を侵害する日米ガイドラインと戦争法
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『日本の科学者』2016年4月号
<特集>「立憲主義・民主主義・平和主義を取り戻す」

以下は4月11日(月)の読書会において報告されたレジュメをもとに『日本の科学者』読書会の様子を編集したものです.

大日方純夫著:「戦後70年」における戦争認識・平和認識の課題ー過去・現在・未来のなかで

戦争は常に「平和」のために行われる.かつて日清戦争は「東洋の平和」のため,日露戦争は「極東の平和」のため,そしてアジア太平洋戦争は「東亜永遠の平和」のために行われた.それらとおなじように,安倍首相の「積極的平和主義」は「平和」の名による軍事力行使の正当化にほかならないという.平和を主体的に構築していくためには,事実にもとづいて戦争認識を磨いていくことが欠かせない.そのためにも,消された加害の焦点である慰安婦記述を教科書に取り戻すことは,市民的権利であり,義務でもあるという.慰安婦問題は,ジェンダーの視点を介して日本社会の質を問う問題である.「政府の行為」による戦争を阻止することは,主権者「国民」の未来に対する責任であり義務でもある.そして,アジアに対する「日本国民」の戦争責任を明確にしていく道であると著者は論じている.(報告:T.Y.)

植野妙実子著:立憲主義と国家緊急権

憲法およびフランス公法の専門家が,立憲主義の立場から国家緊急権の規定をどのように扱うべきかを論じている.自民党は憲法に「緊急事態条項」を新設することを狙っている.緊急事態条項については,自民党のみならず多くの党が憲法に設けることに賛成している.今後,憲法改正に関して,緊急事態もしくは国家緊急権についての議論が活性化することが予想される.国家が平時とは異なり権力の集中や人権の制限を可能とするのが国家緊急権である.大日本帝国憲法では非常事態への対処としての戒厳(14条),非常大権(31条),緊急勅令(8条)などの規定があり,その乱用により国民が弾圧され戦争への道を突き進んだ.自民党の憲法草案では98条に緊急事態宣言が定められている.しかし,緊急事態宣言の根拠が広範に過ぎ,判断基準も明確でない.そして何よりも緊急事態宣言やそのもとでの政令・処分などの措置の適正さをはかる機関や手続きや責任追及の仕組みも明らかでない.もともとこのような責任追及などの制度が未確立な日本で国家緊急権を認めることは危険である,と著者は断言する.(報告:F.Y.)

金子勝著:第九条の永久保存のためにー「第九条の国」から「安保の国」への転換点に立って

安倍政権は,集団的自衛権の行使を認める安保法制(=戦争法)により,いかなる戦争もいかなる武力行使もしない「第九条の国」から米国に従属して世界中で侵略戦争する「安保の国」に日本を転換させた.「第九条の国」とは,国民に平和のうちに生存する権利を保障する国であり,「安保の国」とは,対外的には侵略戦争を行い,対内的には国力と国民をその侵略戦争に総動員できるように国民主権も民主主義も抹殺する国である.21世紀という時代は,①すべての人と生物に平和のもとで幸福になる権利があり,②すべての紛争は話し合いで解決するのが普遍となる時代である.また③戦争を仕掛けた国が敗北する時代であり,④戦力を持たない国を侵略することができなくなった時代である.21世紀は,まさに第九条の思想が人類の導きの星となる時代といえる.ここに,私たちの課題を考えるべきことの基本があると著者は主張する.(報告:Y.S.)

小沢隆一著:平和主義,立憲主義,民主主義を侵害する日米ガイドラインと戦争法

憲法学の専門家が,安保法制(=戦争法)の問題点をそれに先立つ「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)から論じている.このガイドラインは,実質的には,法的枠組みを踏み越えた「米国から日本に対する軍事分担拡大の要求書」であり,次のような性格を持つ.①「法からの逃避」という性格.ガイドラインは,単なる「政治的文書」であるが,国会審議に先んじて安保条約の実質的変更を方向付ける機能を担わされている.②「民主的統制の回避」という性格.「政治的文書」ということから国会や国民による議論をすり抜けている.これらのことは,憲法九条とは相容れない,「不完全な軍事同盟」としての性格をもつ日米安保体制そのものに起因していると著者はいう.「平時から緊急事態までのいかなる段階においても切れ目ない形で」日米同盟が機能するために作られた戦争法では,2015年のガイドラインのいう「日米同盟のグローバル化」という文脈のなかで,①米軍部隊の武器等の防護のための自衛隊の武器使用,②他国軍隊に対する後方支援,③集団的自衛権行使などを認める規定を盛り込んだ.(報告:Y.M.)
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